「…突然押しかけて酷いコトいっぱい言っちゃって‥ごめんなさい。」

退出の際に、ソロがそっと顔を上げ、壮年の紳士を窺った。

「…いや。いつでも訪ねてくれて構わぬよ。無茶な頼みは聞けぬがな‥」

ぽむ‥とソロの頭に手を乗せて、神が苦く微笑んだ。

「‥はい。」

小さく微笑を作って、そう返事をする。

見送る神に一礼して、一行は建物の外へと向かい歩きだした。

「…言っとくがな。」

等間隔に立ち並ぶ柱の間から庭へ出ると、ピサロが苦く口を開いた。

「ソロ。お前が単独でここへ来る事など、許さぬぞ?」

「‥なんで?」

「…何故だと? 奴の寝室に易々と連れ込まれて。寛容になれる筈なかろう?」

呻くピサロにソロが気圧され、背をクリフトに預ける。

「ふふ‥そりゃ、驚きますよね。でも‥勘ぐりは不要ですよ、ピサロさん。」

くすくすと笑ったクリフトが、ソロの代わりに返答した。

「あの部屋が一番強固な結界の中だから。理由はそれだけです。ね、ソロ?」

「‥うん。だと思う。‥すごい静かだし。」

「とにかく許さん。絶対だ。」

「…うん。まあ‥オレもあんまりここ好きじゃないから。いいけど‥」

重ねて厳しく申し渡されて、ソロもコクンと頷いた。

「私もだ。さ、とっとと引き上げるぞ。」

言って、ピサロは移動呪文を唱えた。



ゴットサイド。町の入り口に3人は降り立った。

「‥もう夜明けなんだね。」

白々と明けて来る東の空を見上げて、ソロが長い息を吐いた。

「そうですね。ソロも疲れたでしょう?

 皆さんへの話の前に、一休みして下さい。」

宿へ向かって歩きながら、クリフトがそう提案する。

「疲れてはいないけど。‥みんな寝ちゃってるよね。確かに…」

天界で一休みしたせいか、それ程身体は重くないソロが思案げにもらす。

「ええそうですね。先に休んで下さいと‥‥‥」

そう話しかけたクリフトだったが、ソロが足を止めたので、彼も視線を前方へ向けた。

「ソロ…!」

宿の入り口で待ち兼ねてた様子の一同が弾かれたように立ち上がる。

そして、立ち止まってしまった彼の元へ真っ先にやって来たマーニャが、ぎゅっと彼を抱

きしめた。

「‥マーニャ。」

「全くもう‥心配したわよ、本当に。でも‥よかった。帰って来てくれたのね!」

「本当‥良かったわ。お帰りなさい、ソロ。」

「アリーナ‥。みんなも‥待って‥て、くれた‥の…?」

「一度は解散したんだけどね。‥考える事は一緒みたいで。揃っちゃったのよ。」

アリーナがふふ‥と微笑み、説明する。

「帰って‥来てくれたのよね?」

呆然とした様子のソロに、少し憂いを含ませて、彼女は続けた。

一同の視線が、ソロに集まる。

「…オレ。‥みんなに、話したい事が‥あるんだ。」

一歩退いて、ソロがゆっくり口を開いた。

「‥ピサロ。あの館へ移動してくれる? みんな一緒に‥」

「…承知した。」

「みんなもそれで‥大丈夫かな?」

ピサロの承諾を得て、一同を見渡す。神妙に頷く様子に微笑して、ソロは魔王へ合図した。



「ここは…」

移動した館の前で。見覚えある建物を、アリーナが見回した。

「この前来た館ね。」

ミネアが「ああ‥」と納得する。

「ええ。そうです。さ‥皆さん。」

ピサロが扉を開くと、まずソロが奥へ進み、それに続くようクリフトが一行を促した。

ソロが皆を招いたのは、滞在中はほとんど使用する事のなかった1階の大広間。

ゆったりしたソファセットの配された部屋には、4〜5人が一度に座れそうな長いソファ

もある。

「‥適当に座って。」

そう声をかけて、ソロは長いソファの対面にある2人掛けソファに腰を下ろした。

正面に、ミネア・マーニャ・アリーナ・ブライ・トルネコが腰掛けて。ライアンが側面に

立った。最後に部屋へ入って来たクリフト・ピサロがソロの両脇に立つ。

「ソロ。構わん。始めろ‥」

まだ立ったままの3人を気に掛けた様子のソロに、ピサロが声を掛けた。

「…みんな、聞いたんでしょう? オレの‥背のコト。」

コクンと小さく頷いて、促されたソロがぽつりと話し始める。

「…天の血なんて。忘れたままで居たかったのに。それも許してくれないんだ…

 本当は‥みんなにも内緒のまま、居たかったけど。…でも、それも疲れちゃった。

 だから…ね。」

言うと、ソロは立ち上がり、上着を脱ぎ出した。

「ソロ‥!」

ビックリしたピサロに構わず、ソロは肌着だけ残した姿で一同に背を向ける。

白いゆったりしたデザインの肌着は、背の部分が大きく開いていて、そこから小さな1対

の翼が視認出来た。

肩甲骨の下。拳大程の真白な翼が微かに悸え、仲間達の前に晒された。

「‥ね? ビックリでしょう? …変‥だよね。こんなの‥人間には‥ないのに‥‥‥」

息を飲む一同に、体勢を戻したソロが皮肉げに微笑い、ソファに崩れるよう座った。

「…そりゃ‥人間にはないモノかも知れないけど。それが何?!」

俯くソロに苛立ちを押し殺した口調で、マーニャが問いかけた。

「ビックリくらいするわよ? だって知らなかったんですもの! だけどね。ソロ。

 変なんかじゃないわよ。ちっとも! 可愛さが増しちゃっただけじゃないっ!」

「‥な? え…!?」

勢いよく、思いがけない事を言われて、ソロがぱちくりと彼女を見つめた。

「そうですねえ。変だとは感じませんね‥全然。」

腕を組んだトルネコが、うんうん‥と頷いた。

「そうねえ。本当、可愛いわよ。変だなんて‥思わないわ、別に。」

「だのう‥。気に病む必要などあるまい‥?」

アリーナ・ブライが口々に話す。

「…みんな、気味悪くないの?」

「ソロ。私たちはルーシアとも旅をしたし、天空城まで訪れたのよ? そんな服を着たら

 全然気づかないような小さな翼が、ソロの背に現れたって、今更誰も気にしないわよ。

 そもそも人間云々で仲間を論じる事自体、無意味ではないかしら? ねえ?」

ミネアがにっこりソロに微笑んで、後半ピサロへ目線を移した。

血の半分どころか、人間とは敵対してた筈の魔族の男が仲間としてここに在るのだ。

「そうだな。それで否定されては、今ここに居る事もなかったろうな。」

フッと口角を上げて、元・魔王が呟く。

そんなピサロを仰ぎ見て、それから前方の仲間へと目線を移す。ライアンがもっともだと

言わんばかりに頷くのを見て、ソロは小さく吐息をついた。

「‥オレ。みんなの所に居て‥いいの…?」

「当たり前じゃない。」

「そうよ。そんなコトくらいで動じる程、私たち浅くないでしょう? もっと信頼してよ、

ね‥ソロ?」

「アリーナ…。みんなも‥オレ‥‥っ‥」

「ね。言った通りだったでしょう、ソロ?」

肩を震わせ涙を落とすソロに、そっとクリフトが語りかけた。

コクン‥と小さく頷いて、緊張が解けたようにほろほろ泣き崩れる。

そんな彼の姿に堪らなくなった女性陣が席を立って、彼の周りに集まった。

「ソロ‥ほら、もう泣き止んで‥? 目が溶けちゃうわよ‥?」

彼の隣に腰掛けて、マーニャがハンカチを差し出した。

「あなたがそんなに苦しい思い抱えてたの、気づいて上げられなくてごめんなさい…」

そっとしゃがみこんで、目線を合わせたアリーナが、すまなそうにこぼす。

ソロは緩く首を振って、借りたハンカチで涙を拭った。

「オレが…内緒にしてた‥んだもん…」

「そうね。‥隠されたら、触れられないわ。痛みも‥苦しみもね。だけど…

 話してくれたら、一緒に悩んで分かち合うくらい、私たちにだって出来るのよ?」

「ミネア…」

「もっと信じて頂戴? ね‥?」

ソロが再び涙を滲ませながら、コクコク頷く。



「ソロ‥もう良いだろう?」

しばらく泣いて、少し落ち着きを戻した頃合いを図ったように、ピサロがソロの上着を寄

越した。着衣を促すよう肩に羽織らされて、ソロが「ああ」と肌着のままで居る事に思い

至る。

「‥ありがと。ピサロ。」

言って、上着に袖を通すつもりで手元へ持ち替える。

その様子を見ていたアリーナが、遠慮がちに口を開いた。

「あ‥あのさ、ソロ。…あのね、もし‥嫌じゃなかったら‥なんだけど。」

「‥何?」

「…その‥翼、ちょっとだけ‥触っては‥駄目…?」

申し訳なさそうに、でも‥抑えられないといった風情で乞われて、ソロが小さく微笑う。

「…いいよ。」

「ホント‥? わあ‥ありがとう、ソロ!」

「まあ、アリーナったら抜け駆けズルイわ! あたしだって気になってたのに‥!」

「クス‥いいよ、マーニャも。‥じゃ、そっちに移動しようか。」

そう答えて、ソロが広い場所へと移った。

ソファの脇に立つ彼の背後に回ったアリーナが、そっと白い翼に触れる。

すっと指先が羽根を辿ったと思うと、手のひら全体でふわりと包み込むよう触れた。

「‥痛い?」

ピクン‥と悸える翼に、アリーナがビックリと手を離す。

「ううん‥大丈夫。ちょっとくすぐったいけど。」

ふわりと微笑むと、彼女も安心したよう笑んで、もう一度指を滑らせた。

「すごく柔らかいのね。なんだか‥ルーシアとは違うみたい。」

「‥え?」                                     
閊え→つかえ

「アリーナ、もう交替して。後が閊えてるんだからさ。どれどれ…」

焦れたマーニャが次‥とばかりに、ソロの翼に触れた。

「‥あ。本当。すごい、しっとりして気持ちいい〜v」

「姉さん、私にも場所あけてね。‥あら。本当ね。彼女達とは違うのね、感触が‥。」

「そう‥なの? 違う‥の?」

ソロが不思議そうに女性陣を見つめた。

「ええ‥違うみたい。そう‥ね、比喩えるなら‥ソロの羽根は梟みたいだわ。」

少し考えてから、ミネアが口に上らせた。

「ああ‥そういえば! そうね、うん。確かに似てるかも。」

妹の言葉に姉も思い出したように頷く。ソロ自身、あまり触れた事ないモノなので。よく

解らない。ソロは答えを求めるようピサロへ目を移した。

「そうなの?」

「‥まあ。言われてみれば似てるかもな。…他の者とは比べられんが。」

「ルーシアとは違うの? 本当‥?」

もう一度ソロが彼女達に問いかけた。

「ええ全然。ソロの羽根の方が、断然触り心地良いわ!」

きっぱり断言するアリーナに、マーニャもうんうんと頷いた。

「…そーなんだ。違うんだ‥」

「‥ソロ。私達も触らせて頂いて、大丈夫ですか?」

呟くソロに、側へと移動して来たトルネコが遠慮がちに訊ねた。

「うん、いいよ。」

気前よく返事をするソロに、ピサロとクリフトが意外そうな表情を浮かべたが。

当の本人が無理をしている様子もないので、とりあえず経過を見守る事となった。



「さ‥もう皆の気も済んだろう? 服を着ろ、ソロ。」

トルネコ・ブライ・ライアンと、それぞれ感心しながら触れて行って離れた所で、ピサロ

が間に割り込んだ。

「うん。」

今度こそ、しっかり服を着込んで。それからソロを見守る一同を見渡す。

「…話‥聞いてくれて、ありがとう。‥疲れたでしょう?」

昨晩はほとんど寝てないだろう仲間に、ソロがすまなそうにしゃべった。

「ううん。私達もちゃんと聞きたかったから。

 これからも溜め込まないで頼ってね、ソロ?」

「‥うん。ありがとうアリーナ。‥みんなも、ありがとう。」

「では町に戻るとするかのう?」

どうにか丸く収まったらしいと安堵の吐息を落として、ブライが声をかけた。

「そうね。今日はゆっくり休んで、明日からまた探索開始ね。」

相槌打つアリーナに、一同も頷く。

「‥あ、あのね。」

ソロが躊躇いがちに口を開いた。

「その‥オレ、クリフトとピサロには、まだ話が残ってるんだ。だから…」

「分かったわ。じゃ‥私達、先に戻ってるから。明日の朝までには合流してね?」

「うん、分かった。ありがとう。」