馬車の向こう側。大きな岩の前に、ソロはひっそり佇んでいた。

どこか緊張を滲ませた後ろ姿に、追って来たルーシアが思いきって声をかける。

「‥あの、ソロさん。」

ソロは肩を揺らすと、肩越しに振り返り、彼女を視界に捉えた。

「あの…私、ご厚意に甘えてお世話になってて。‥あの、ご迷惑でしたか?」

「別に。天空の剣が手に入ったのは、あなたのおかげだし。天空へはどっちにしろ向かう

予定だったんだから。1人メンバーが増えた所で手間でもなんでもないよ。」

ゆっくりと岩へもたれ掛かったソロが、抑揚なく話す。それが不機嫌さを思わせて、ルー

シアは眉を哀しげに寄せた。

「‥でも、ソロさんは不愉快に感じて居られるのでは?」

「別に‥。‥ああ、一応断っとくけど。今機嫌悪いのはあんたのせいじゃないから。」

気にしないで‥とかったるそうにソロが吐息をついた。

「この島が苦手なだけ。」

尚も何か言い募ろうとした彼女より先に、ソロがそう付け足した。

塔での戦闘の途中から、背に痛みが走るようになった。今は大分引いて来たが、不快感は

そのままで、それがイライラを煽っていた。

「…私、このままご一緒させて頂いても‥よろしいのでしょうか?」

あまり納得しない様子のルーシアが、怖々問いかける。

「‥ああ。攻略に多少時間かかるかも知れないけど。それでもいいなら構わないよ。」

「ありがとうございます。私も精一杯皆様のお役に立つようがんばります! では。」

にっこり笑うと会釈をし、彼女はクルリと踵を返した。

「…ねえ。」

背を向けたルーシアに、ソロは呼び止めるよう声をかけた。

「その羽根‥翼ってさ、天空人にはみんなあるもんなの?」

「あ‥はい。」

再び向き直り、ルーシアが慎重に頷いた。

「ふう‥ん。生まれた時から?」

「はい。…飛べる程大きく成長するには時間がかかりますけど。」

「ふーん。」

「あ…あの、それが何か…?」

「別に。聞いてみただけ。呼び止めて悪かったね。少し独りにしといてくれる?」

「はい‥。では。」

ぺこり‥もう一度会釈して、彼女は場を立ち去った。



彼女の姿が見えなくなると、ソロは天を仰ぎ深い溜め息を落とした。

背に走る違和感。もしかして‥と少し不安だったのだが。その心配は不要らしい。

でも…

「…ソロ。」

考え込む彼の元に、遠慮がちな声が届いた。

「クリフト‥。」

やって来た人影を確認したソロが、ふわり微笑む。

「お邪魔じゃないですか?」

目の前までやって来たクリフトが静かに確認し、彼の頬に手を添えた。

「ちっとも。」

労る仕草で頬を滑った手のひらに、自分の手を重ね、ソロがほう‥と吐息をこぼす。

「食事‥あまり進まなかったようですけど。どこか具合でも‥?」

岩に寄りかかる彼に、覆い被さるよう立ったクリフトが、そっと額を寄せ訊ねた。

「‥ううん。大丈夫。ただ‥また背が変な感じでさ。」

「…痛むのですか?」

「‥うん。あ‥でも、今は大分落ち着いたよ。まだ変な感じはあるけど。」

心配そうに顔を曇らせる彼に、努めて明るくソロが話した。

「無理はなさらないで下さいね?」

「うん‥解ってる。ありがとう…。」

小さく微笑うソロの額に羽のようなキスが降りる。腕を回し引き寄せると、今度は唇が重

ねられた。啄むようなキスを幾度か交わし、更に強求ってくるソロに、深い口接けが与え

られる。癒しを込めたそれは、官能よりも安寧を齎してくれるようだった。





天空の塔の攻略は予想通り困難を極めた。

が‥幾度目かの挑戦で、どうにか最上階まで昇り詰め、一行は今、雲の上へと足を踏み降

ろしていた。

「ふわあ…。本当に雲の上に、お城があるのねえ‥」

ぽか〜んと前方に聳える風雅な城を見上げ、アリーナがしみじみと口にした。

「本当‥ビックリねえ。ここに竜の神様…ってやつが住んでるって訳?」

隣に立つマーニャも物珍しそうに眺めながら、ほう‥と嘆息する。

「とりあえず行ってみましょう?」

同じように無言のまま惚けているソロに、ミネアが柔らかく話しかけた。

「…あ、うん。」

光に包まれた城から目を離し答えると、4人は城へ向かって歩き始めた。



「今日はもうお疲れでしょう。今夜ゆっくりお休みになって、明日我らがマスタードラゴ

 ンにお会い下さい。」

地上で待っていた仲間とも合流を果たした一行は、案内をしてくれた天空人にそう勧めら

れた。

「‥ありがとうございます。」

「お部屋はどのようにご用意致しましょうか?」

「え‥あ‥」

「私達、出来れば同じ部屋の方が良いのですけど。」

ソロより先に、ミネア・マーニャの腕を取ったアリーナが申し出た。

「はい承りました。」

「オレは彼と2人部屋で。」

「はい。お後の方々は‥?」



結局。ブライ・トルネコが個室を望んだので、ライアンも個室で休む事となり、それぞれ

部屋へと通された。

「ふう〜ん。広い部屋だね‥。」

案内された部屋の中へ入ると、中の調度類等を珍しそうに眺めながら、ソロが呟いた。

洒落た紋様の装飾が至る所に設えてある部屋は、格調高い雰囲気を醸し出していたが、決

して華美ではない。白を基調にした室内に控えめに飾られた紫の花から、甘くさわやかな

香りが漂い、疲れた身体を優しく包み込んでくれるようだった。

「そうですね…。…え‥っ!? ‥‥‥‥」

同じように部屋を見渡していたクリフトが、意外なモノを見つけたよう声を発した。

「どうしたの、クリフト?」

彼とは反対側のチェックをしていたソロが何事‥と戻って来る。

ソロはクリフトが途惑うよう凝視する視線の先を追った。

「…大きいベッドだね。」

奥まった一角に置かれたベッドは1つ。…大きさはキングサイズよりもありそうだが。

「‥1つしかないね。一緒に‥ってコトかなあ。」

人差し指を顎に当て、ぽつんとソロが口にした。

「…そうなんでしょうね。」

「2人部屋‥って。2人で寝られるベッドのある部屋だったんだね。じゃ‥アリーナ達の

部屋は、もっと大きいベッドがあるのかな?」

「どうなんでしょう‥?」

クリフトは肩で息を吐くと、ベッド端に腰を下ろした。

「クリフト困ってる?」

「…そういうのとも違うんですけどね。」

クリフトは苦笑すると、覗き込んで来るソロの頬に手を添えた。

「…今日はお疲れさまでした。やっと‥着きましたね。」

「うん…どうにかね。でも‥‥‥」

「明日はいよいよ逢えますからね。竜の神に。‥緊張してますか?」

「うん‥。竜の神って‥どんななのかな? 怖いのかな…?」

「大丈夫ですよ。ソロを必要としてるようですしね。」

「…それが一番嫌なのかも。」

思いきり渋面を浮かべ、ソロがこぼした。



「あ〜さっぱりした。」

風呂に入って汗を流すと、ソロがふかふかなベッドへ飛び込んだ。

とろ〜んとした眠気に身を委ね、舟を漕ぎ始めたところで、控え目なノックが部屋に届く。

「…誰だろ。」

ソロは面倒に思いながらも、むくっと起き上がり、扉へ向かった。

「はい…あ。どーも‥」

扉の前に立って居たのは、先程部屋へ案内してくれた天空人だった。

「お休みの所申し訳ありません。もし差し支えなければ、お召し物預からせて頂こうと参

 じました。明日の朝にはお返し出来ますので、よろしければお任せ下さい。」

「それって…洗濯してくれるって事?」

「ええ。」

「‥んじゃ、ちょっと待ってて‥下さい。」

ソロは踵を返すと、パタパタ部屋の奥へ駆けて行った。

入浴中のクリフトにも声をかけ、彼の服も預かって、再び戸口へ向かう。

「じゃ‥これ、お願いします。」

2人分の服を彼に渡し、ソロがぺこんと会釈した。

「はい、お預かり致します。それからこれを…」

彼はワゴンに用意していたトレイを彼に差し出した。上にはティーポットとカップ、小瓶

が乗せられている。

「ゆっくりお休みになれますように。リラックス出来るハーブティをお持ちしました。」

「ふうん。ありがとう、頂きます。」



「‥あ、クリフト。丁度いいタイミングだね。」

程なくして。風呂から戻って来た彼を、ソロが笑顔で迎えた。

「あのねえ、温かい飲み物貰ったんだよ。一緒に飲もう?」

ベッドの隣。外の景色が眺められる窓辺にあるテーブルへトレイを置いたソロが、広めの

ソファの上で跳ねた。

「うわあ…ここからだと空が見えるんだ! すご〜い。」

座り心地の良いソファでくつろいだ彼が、ふと視線を上げ感嘆の声を上げた。

「ああ‥本当ですね。降ってきそうな星空ですね。」

間近に寄って来たクリフトが、彼と同じように顔を上げ目を細めさせた。

「ね。雲の上って、こんなに奇麗に星が見えるんだね! すごいや。」

ふふ‥と笑うソロ。クリフトも笑んで返すと、促されるよう隣に腰掛けた。

席に落ち着いたクリフトが、ポットを手に取りカップへ注ぐ。ふわんと花のような薫りが

白い湯気と共に立ち昇った。

「いい匂いだね。…これ、蜂蜜かなあ?」

小瓶の蓋を開けたソロが、中身を確認しながら呟く。そのまま少量だけ指に移すと、ペロっ

と舐めた。

「‥蜂蜜じゃないみたいだけど。甘いや。」

満足そうにソロが笑む。明るい表情の彼に、クリフトも自然と表情を和らげた。

「よかったですね。甘い方がソロには嬉しいでしょう。」

「うん。」



どろどろに甘そうな飲み物を、それは美味しそうに飲み干したソロは、上機嫌でベッドへ

移った。ここへ着いた時の緊張感が随分解けた様子に、ホッとしたような。それでいて、

ソロの扱いを心得たような待遇に、妙な引っ掛かりを覚えるクリフトが、苦笑しつつ彼の

後を追う。…そう言えば。出された食事も、ソロの好物ばかりだった。

「本当、広いベッドだよね。これなら、どう寝ても落ちないね、きっと。」

仰向けに横になったソロが、両手両足をう〜んと大きく伸ばし微笑んだ。

「そうですね。」

くす‥と微笑をこぼし、クリフトもベッドへ乗り上げる。彼が身体を横たえると、ソロが

もそもそにじり寄った。

「ね‥クリフト、疲れてる?」

甘えるようにぴとっと躰を寄せ、ソロが上目遣いに彼を窺う。

「‥今日大変だったのは、ソロの方だと思いますよ? 私は待機でしたから。」

ふわりと彼の頬から髪へ手を滑らせ、クリフトが微笑んだ。

「ん…さっきはすごく眠かったんだけど。ちょっと復活した。だから‥‥」

覆い被さってくる彼の背に両腕を回したソロが、ひっそり乞うよう囁く。クリフトは困っ

たような微笑を浮かべたが、小さく吐息をつくと躊躇いを捨て口接けた。

「‥ん、ふ‥‥‥」

ゆっくりと口内を巡る舌が、甘い感覚を呼び起こしてゆく。

「ん‥あ…っ。」

はだけられた上着を開いて弄ってくる指先が胸の飾りを捉えると、びくんと肌が悸えた。

「ソロ‥いい香りがしますね。」

首筋にキスを落としたクリフトが、そのまま唇を鎖骨へ滑らせつつ囁いた。

先刻入った風呂は、入浴剤もシャンプーも全て同じ芳香を漂わせていた。木蓮の花に似た

清楚な香り。それが仄かな香りとなって彼からも漂っていた。

「ふふ‥クリフトだって。いい匂い。さっきのお風呂と同じだ‥。」

クリフトの髪に手を入れて、指の間を滑らせながら、ソロがふわり微笑んだ。

「そうですか? ソロには似合うと思いますけど‥」

可愛らしい花がほら‥と艶めいた囁きを落とし、クリフトが桜色に染まった飾りを含んだ。

「んっ‥あ‥‥‥」

ねっとりした舌が丹念と舐め上げてくると、ソロが甘い吐息をこぼした。

じんじんと広がる疼きが下肢にまで波及するのに、たいした時間はかからない。

更にソロを煽ってくる器用な指先が彼を追い上げて、艶増した嬌声がぽろぽろとこぼれて

いった。

「あ‥ああっ。クリフト‥っ、もう‥」

緩やかな愛撫にもどかしさを募らせ、ソロが躯を悸わせた。

「もう‥平気‥だからっ。来て…っ。」

ソロが彼に縋り懇願する。熱に浮かされた躯は熱く、しっとり吸い付くよう心地よい。

「ここ‥ちゃんと慣らさないと、後で辛いのはソロですよ?」

まだ十分に綻んだとは言えない秘所の探春を続けながら、クリフトが苦く笑む。

「だ‥って。もう‥‥‥」

もう十分に気持ちは蕩けているのだ。散々喘がされたのだから。

切羽詰まった表情で強請むと、不意に熱く蟠る自身に指が絡められた。    強請む→せがむ

「あっ‥。」

そのまま緩々上下されて、ソロが息を詰める。扱いを心得た動作は、彼を追い込み、高み

へと導いた。