「天空の剣が手に入ったという事は‥いよいよあの塔を登れるのね!」

「あ‥ああ、そうだね。」

ウキウキ話すアリーナに気圧されながら、ソロが曖昧に微笑んだ。



世界樹の麓。エルフの里。

世界樹の木に伝説の剣が封印されてると、この樹木で出会った天空人ルーシアから聞かさ

れ、一行は大きく枝葉を伸ばしたこの樹木を隈無く探索した。

結果。最後の天空武具である、天空の剣を無事入手したのだった。

「ゴットサイドへ移動するのなら、わしが呪文唱えても良いぞ?」

里にはちゃんとした宿屋がなかったので、用が済んだのならとブライが申し出た。

「そうねえ‥ここじゃゆっくり休めないし。ねえソロ?」

賛成‥とばかりに、マーニャが言葉を付け足した。

「う〜ん、移動するのは構わないんだけどさ。オレ、あの島だとゆっくり出来ない。

 街の聞き込みは済んでるんだし。朝になってから移動したって大丈夫だろ?」

応えるよう口を開いたソロは、そう言うと一同を見回した。

「それはいいけど。じゃ‥どうするの?」

皆を代表するようにアリーナが問いかける。

「…エンドールに向かおう。あそこなら大きな宿があるし。」

少し逡巡した後、ソロが提案した。

「そうですね。馬車の荷の補給も、あそこなら整いますし。」

大きく頷くトルネコ。他のメンバーも特に異論なかった様子で、ブライが早速と移動呪文

を唱え、不思議な巨木のある里を後にした。



エンドールへ着いたのは夕刻だった。

結局、補給の件もあるので、明日一日この街へ留まり、明後日早朝彼の島へ向かう事となっ

た。それらを確認した後、一行は解散した。



「ああやっとゆっくり出来る〜。」

いつも通りの2人部屋をとったソロは、同室のクリフトと真っすぐ部屋へ向かい、到着す

るなりベッドへ飛び込んだ。

「エルフの里では雑魚寝に近かったですからね。」

すっかりくつろぐ彼の姿に、クスクスと笑みを浮かべ、クリフトが荷を解き始める。

「‥何してるの?」

腕を枕に俯せたまま、ソロが荷の整理を始めたクリフトへ声をかけた。

「馬車の荷の方はトルネコさんにお任せすれば大丈夫と思いますけど。丁度いいので私も

 自分の荷を補充しておこうと思いまして。」

「クリフトってマメだよね。偉いなあ‥。」

「ソロは大丈夫なんですか?」

「買い出しはしとくつもりだけど‥。大体決まってるからなあ…」

いつも大雑把にしか用意してないソロが、持ってる荷を頭の中で思い出しながら呟く。

「ねえねえ。明日はオフみたいなもんだしさ。夕食外へ出ようよ。オレ、飲みたい。」

彼の作業を見守りながら、ソロが思いついたように催促始めた。

「‥それは構いませんけど。あの…ルーシアさん、彼女達へ任せきりで良いのですか?」

ふと、物言いたげだった彼女の瞳を思い出し、クリフトが訊ねた。

「…ん、だって‥オレ、何話していいか解らないし…。」

天空城へ戻りたい‥という彼女の同行を、ソロはすんなり認めたが、それだからと言って、

彼女を躊躇いなく受け入れては居ないようだった。彼にしては珍しいのだが、ルーシアと

は距離を置きたがっているように見える。

「‥本当は、あんまり竜の神様って奴にも、逢いたくないし…」

これから先向かう事になる塔を思い浮かべたソロが深く嘆息した。

「ソロ…」

沈んだ様子の彼にひっそり呟きをこぼすと、作業を終えたクリフトがスッと立ち上がった。

一呼吸間を置いてから、いつもの調子で、クリフトは話しかける。

「お待たせしました。ソロ、出掛けますか?」

「うん!」



軽く食事を済ませてから、2人は以前立ち寄ったカクテルバーへ足を運んだ。

いつものごとく甘いカクテルをコクコク飲みながら、ソロはナッツを摘まみ、クリフトは

琥珀色した水割りを、ゆっくりしたペースで味わっていた。

他愛のない会話の合間に見せるソロの笑顔からは、なんの憂いも窺えない。

知らず、彼はそんなソロの表情をじっと見つめていた。

「…なに? オレの顔、なんかついてる?」

「あ‥いえ。そうじゃないんですけど…」

「そう‥? ならいいけど。クリフトまでマーニャみたいな事言い出さないでね。」

「マーニャ?」

「うん。…なんかさ。オレが変だって言うんだ。」

「マーニャさんが? …どう変だと?」

「それがね。彼女にもよく解らないって。なのに変とか言うんだよ? 変なのはマーニャ

 じゃんね。」

ぷう‥と頬を膨らましながら話すソロが、グラスを空けるとお代わりを注文した。

「…そうですね。」

苦笑混じりに応えたクリフトだったが、彼女もよく見てるな…と内心感心する。

確かにソロは今、非常に困った状態にあるのだ。

旅をする分には何の影響もない‥というより、今の状況の方が都合いいとは言える。

だが…。思い煩いながらクリフトは、ひっそり嘆息した。



ソロの様子がおかしいと感じたのは、ゴットサイドへ到着した翌々日。デスピサロが第2

のエスタークとなるかも知れないと知らされた翌日の事だった。

ソロと彼の関係を知るクリフトの前で、ソロは彼をデスピサロと呼ぶ事はなかった。

それが‥あの朝から、ソロはクリフトと語る時でさえ、彼をそう呼ぶ。まるで感情を込め

ずに。それは決して演技でなく、ただ‥彼へ向かう気持ちが変わってしまったのだ。

ソロがずっと忘れたがっていた彼との記憶。

それらが本当に抜け落ちてしまったのだ。

今のソロにとって、彼はこれから倒さなければいけない魔王‥ただそれだけだった。



「‥もしかして。クリフトもオレが変だって思ってる?」

少々アルコールが回った様子のソロが、目を据わらせ訊ねた。

「‥ソロ自身はどうなんですか? 背の事もありますし‥」

すかさず話題を逸らしつつ、もう1つの懸念をクリフトは口にする。

「背‥? …う‥ん。あの島に居た時程の違和感はないよ。」

「そうですか。」

「ね‥クリフト。そろそろ戻ろうか‥?」

今夜は誰にも邪魔されないし‥とソロが艶めいた微笑を見せた。

いつもの子供っぽい顔とは違う、色を帯びた表情は少し婀娜めいて映る。

クリフトはさらりと額を滑ったソロの髪に手を伸ばし、微笑み返した。

「…ゆっくり過ごせないかも知れませんよ?」

「うん‥。いっぱい‥甘えさせて。」

こつん‥と彼の肩にもたれ掛かり、ソロがひっそり呟いた。





「クリフト、買い物オレも付き合うよ。」

翌日。朝食を終えると、席を立ったソロが共に立ち上がった彼に声をかけた。

「ちょっと時間かかってしまいますよ?」

「うん、平気。でさ、途中でご飯とか食べようよ。ここはいろんな店あるしさ。」

「ふふ‥そっちがメインなんですね、ソロは。」

にこにこ話すソロに笑んで返しながら、クリフトが彼の頭に手を乗せた。

「エネルギー補給も大事だろ?」

えへへ‥と笑うソロ。そんな2人の親しげな様子を見守っていたルーシアだったが、結局

声をかけずに彼女は部屋へ引き返した。



必要な買い足しを済ませてしまうと、2人は散歩がてら街を歩いていた。

賑やかな大通りを外れると、趣ある石畳の続く路地に出る。しばらく行くと、見覚えのある

景色にぶつかり、ソロが歩を速めた。

タッタッタ…と4つ角で歩みを止め、それぞれの道の様子を確認する。

「どうしたんですか、ソロ?」

「ああ‥うん。オレ…この辺来た事あるんだ。確かこっちの方にね…」

彼を促し歩きだしたソロは、通りの先を指差し、ケーキ屋があるのだと語った。

やがて到着したその店に2人は立ち寄った。

こじんまりしているが、可愛らしい装飾のなされた店は、小さいが喫茶コーナーもある。

席へ着くと早速ソロがケーキを注文した。とりあえず‥と頼んだケーキが3つ。ようやく

1つを頼んだクリフトは、苦い笑いを浮かべながら、楽しげな彼を見つめた。

「こんな通りから外れた店、ソロはよく見つけましたね。」

「あ‥うん。連れて来て貰ったんだよ。えっと‥あれは、誰だっけ…?」

「知ってる人‥ですか?」

「うん‥そのはずなんだけど。あれえ‥思い出せないな…」

「いつ訪れたんです?」

「え‥と。結構前だと思う。トルネコに夕食招かれてたの、熱出してキャンセルした‥」

「‥ああ。そういえば、そんな事もありましたね。」

あれはいつだったか…クリフトが記憶を引っ繰り返すよう思考巡らせた。

「確か‥ロザリーヒルから戻った時でしたっけ?」

「ロザリーヒル‥。えっと…ロザリー‥だっけ? デスピサロの恋人とかって言うエルフ

 が住んでた村。」

「え‥ええ。」

「なんか‥あんまり覚えてないんだよな、彼女の事。…会ったんだよね、オレ?」

「ええ…。」

「…オレ記憶力悪いのかな? 時々こんな風に記憶が曖昧なんだよね、最近‥。」

「ソロ…。」

ぼんやり嘆息する彼を、クリフトが困惑交じりに見つめる。どうすればいいのか、判断つ

きかねて、混迷するクリフトだった。





「…これが天空の塔‥か。」

天まで聳えていそうな塔の前で。ソロが堅い表情を浮かべた。

「え‥と、とりあえず様子見‥ってコトで。アリーナ・クリフト・ブライ、一緒に来てく

 れる? 残るメンバーは適当に野営出来そうな所見つけてる‥ってコトで。いい?」

「了解。気をつけてね、みんな。」

マーニャがにっこり笑うと、応えるよう微笑み返したソロは、小さく手を上げると、装備

を整えに馬車へ向かった。

「はいソロ。天空の剣ですよ。」

トルネコが待ち構えていたように、やって来た彼に必要な武具を差し出した。

「ありがとう。…装備しなくちゃいけないって、ずっとこれ使わなきゃ駄目なのかな?

 なんか‥使いにくいんだよね、この剣。」

「伝説の名剣‥のはずなんですけどねえ。どうもこう輝きが‥いえいえ。」

「うん。オレもそう思う。ずっと封印されてたせいかな? 元気ない‥って感じだよね。」

愚痴っぽくなりかけて。慌てて口を噤んだ彼に、ソロが同感と笑いかけた。



「でさ‥どんな感じだった?」

夕食の席。たき火を囲って食事を取りながら、マーニャが声をかけた。

塔の探索を終えて戻って来た一行が、様子を思い浮かべる。真っ先にアリーナが答えた。

「う〜ん、なんだかてこずるかもね、この塔。」

「塔内部にも、魔物が随分入り込んで居るようじゃからの。」

「うわあ‥最悪。ただでさえ、途方もなく高い塔なのに。」

マーニャがうんざり‥と肩を竦めた。

「しかも強い魔物ばかりなの。ある程度マッピング済ませてから、最上階目指した方が

 いいかもね。ね、ソロ?」

「‥‥‥‥」

「ソロ?」

ぼんやり炎を映しているだけの彼に、アリーナが再度声をかけた。

「…あ、なに?」

「聞いてなかったのね。」

「‥ごめん。オレ…ちょっと疲れちゃったみたい。…先に休むから。」

ソロは不器用な笑みを作り立ち上がった。

「ソロ…」

心配顔でアリーナがぽつっと呟く。

ルーシアが誰よりも早く席を立つと、彼の後を追って行った。

出遅れたクリフトがそれを心配そうに見つめていたが、ミネアにやんわり制されて、座り

直す。彼女はずっとソロと話したがっていた。だから、いい機会なのだと言い聞かせて。