「お‥おお〜〜〜っ!」

それを見守っていた城の魔物達から、まず歓声が上がった。

それは、いけ好かない邪神官が討たれた故の歓喜というよりも、この戦闘そのものへの称

賛を込めた歓声だった。興奮した様子で、「人間を見直した」とか「強ええ〜」と、魔物から

見ても化け物めいた邪神官との戦い振りを称えている。

最前線で戦っていたメンバーは、まだぼんやりとしたままだったが。少し余力の残ってい

たトルネコが、商店街の懇親会さながら応対していた。

―――ソロよ。

頭に直接呼びかけて来る声があった。

「…竜の神…?」

―――ソロよ。戻りなさい。我が天空の城へ‥‥‥

その声はパーティメンバー一同にも聴こえたようで。皆の視線がソロへと注がれる。

移動呪文に似た光に包まれて行くメンバーを見渡して、コクンと頷く。

光はそれを合図としたように、次々天へと昇って行った。

光に包まれたソロが最後に魔城を離脱する。光が速度を上げて上昇して行くと、先に飛んだ

光が静止した。

『…ソロ。ソロよ、聴こえるか? 私は仮にも魔族を束ねる者だ。天空の城に入る事は出

 来ない。‥さよならだ。私はここで行く。お前とはいずれまた会うだろう。その時は…』

『…ピサロ。うん。また会おうね。一緒に戦ってくれて、ありがとう…!』

すれ違いざまに伝わって来たピサロの声に、了解したよう頷いて。遠ざかって行くその光

に向かって、精一杯の感謝を伝えた。彼の協力があったから、成し遂げられたのだ。


そして…


「私はマスタードラゴン。居ながらにして、此処よりこの世界の総てを知る事の出来る者。

 天空人と人間の血を引きし、勇者ソロよ!

 そなたらの働きで、進化の秘法はこの世から消滅した。」

天空城。謁見の間で。ソロを先頭に導かれし勇者達が竜の神を前に跪いていた。

光が導いた先がこの場所で。到着と同時に、全員に回復魔法が施された。かなり酷い負傷

者もあったので、それはとても有り難かったのだが…

「しかし…自分の腹心すら信じられぬとは、魔族とは悲しいものだな…。

 ともかく、人々が怯える事のない世界がついに訪れたのだ!

 8人の導かれし者達よ! 心から礼を言うぞ!

 そして‥魔族の王デスピサロ…。

 彼の者の力がなければ、真の巨悪を倒す事は出来なかったであろう…」

竜の神がこの場へ訪れなかったピサロをそう評価すると、集ったメンバー1人1人に労い

の言葉を述べた。そして…

「そしてソロよ! お前は見事やり遂げたのだ! 最早地上に戻る事はあるまい…

 と言いたい所だが。その者達と一緒に、地上に戻るのであろう?」

「オレの居場所はここじゃないからね‥」

コクンとはっきり頷いて、ソロが微苦笑し答えた。

「分かった‥止めはせぬ。…気をつけて行くのだぞ、ソロ。

 気球を呼び寄せてある。それでそれぞれの故郷に送り届けよう。

 巨悪が倒れた世界を見届けながら帰ると良い。」


謁見の間を後にすると、常になく浮かれた様子の天空人から次々声をかけられた。

戦闘終了からすぐにこちらへ転送されて。竜の神に謁見して。あまりに目まぐるしくて、

思考が追いつかないが…

「私達…とうとうやったのよね‥?」

アリーナが胸につまった気持ちを吐露するよう零した。

「そう‥よね? なんだか、あんまり展開早過ぎて、頭回らないんだけど…あたし達、邪

 神官倒したのよね。進化の秘法を葬ったんだよね?」

「ええ‥姉さん。お父さんもこれで安心して眠れるわ…」

涙ぐむ姉妹に、トルネコとブライが労るように寄り添い声を掛ける。

そんな様子を少し離れた後方から見守ってたソロが、ふと足を止めた。

「‥どうかしたんですか、ソロ?」

隣を歩いていたクリフトが一緒に足を止めて窺った。

「あ‥うん。なんか視線感じてさ…」

「まあ…皆さん好意的に出迎えて下さってますからねえ‥。以前よりも熱烈に…」

「あ‥うん、まあ…そうだね‥‥‥」

キラキラと話しかけたいオーラ纏ってこちらを覗う視線を幾つも感じながら、初めてここ

を訪れた時とは雲泥の差だとソロが苦笑した。


城の外へ出ると、竜の神の言ってた通り、雲の上で気球が待って居た。

「…じゃ、出立しようか?」

ルーシア・ドランとも別れを済ませて。気球の前へと集まったメンバーを見渡して、ソロ

が声を掛けた。

メンバー全員が気球に乗り込むと、声がソロの頭に直接届いた。

―――もういいかね?

「皆、準備はいいか‥って竜の神が‥」

「ええもちろん。」

「帰りましょう‥それぞれの故郷へ…」

「うん、帰ろう。オレ達の故郷へ…」

アリーナ・ミネアの言葉に他のメンバーも頷いて、ソロが竜の神に合図する。

気球はふわりと浮かび上がり、ゆっくりと下降始めた。

山々がはっきり見渡せるくらいまで高度を落とした気球が、進路を定めたように移動を開

始した。


「‥まあ。サントハイム城が見えて来たわ!」

最初に到着したのは、サントハイムだった。城が見えて来る頃になると、更に高度を落と

して、アリーナ・ブライが身を乗り出すよう地上の様子を覗う。

「あっ‥あれ、お城にも人が随分いるよね…?」

上空からでも人影が確認出来て、ソロがアリーナ達に声を掛けた。

「ほ‥本当! 人が居るわ…! あんなに沢山…!」

「えっ‥人ですって?」

籠の中央から動かないままだったクリフトが、弾かれた様子でやって来て、ソロの隣に

立った。

「おお…あれは…! 消えたはずの城の者達…!」

地上が近づくにつれて、はっきりと確認出来て来る姿を食い入るように凝視めて、ブライ

が涙ぐんだ。

「ああ‥本当に。これは奇跡なのか…?」

クリフトも身を乗り出すよう、城の様子を凝視めていた。

サントハイム城の人々は、邪神官が倒れた後、世界を覆いかけていた闇が払われると、突

然光に包まれ、忽然と姿を消していた城の人々が舞い戻ったという。

城内はまだ騒然としていたが、アリーナ姫と従者達の凱旋に一気に沸き立った。


サントハイム一行を降ろした後、気球は次の目的地目指して舞い上がった。

バトランド、エンドール、そして…

「あら…コーミズ村?」

モンバーバラを目指していると思った気球が、姉妹の故郷に降りた。

「‥お墓参り、しておいでって…竜の神が‥」

「‥いい所あるじゃない。…ありがとう…」

コーミズ村でも、世界の暗雲が払われた事で村中に明るい顔が溢れていた。

姉妹とソロが揃って彼女達の父エドガンの墓参りを済ませ、再び気球に乗り込む。

モンバーバラでは、姉妹が世話になっていた一座が無事の帰還を心から祝ってくれた。


―――もう行くのか?

「うん‥オレも帰るよ。故郷に…。送ってくれるんだろう?」

―――ああ…

祝いの宴をそっと抜け出して、独り戻ったソロが気球に乗り込んだ。

すっかり夜の帳に包まれた空。だが、頬を撫でていく風はほんのり温かく心地よい。

気球がゆっくり上昇始めると、劇場から飛び出した人影が、上空を見つめて何か叫んで

いた。

「あれって…マーニャ?」

『何やら怒っているようだな。黙って出て来たのだろう‥?』

「まあ‥ね。だって…お別れとか‥苦手なんだもん…」

『…またすぐに会えるだろう。』

「うん…」

                 















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