「こんにちは、初めまして。」

「初めまして。ようこそロザリーさん。」

しばらく待って。ピサロは彼女を伴って戻って来た。

丁寧に挨拶を交わす2人の後方に、ピサロとソロがそれぞれ立ったまま、和やかに語り

合うシンシアとロザリーを見守る。互いに自己紹介する姿が、なんとも不思議な気が

してピサロを窺うと、彼もまた同様な感想を抱いているのか、滅多にみない表情を浮

かべていて。互いに目が合うと微苦笑し合った。

「ソロさん、今日はお招きありがとうございます。」

「あ‥うん、急な誘いだったのに、来てくれてありがとうロザリー。元気だったかい?」

「ええ。トルネコさんご一家も、孤児院の方々も皆さん親切にして下さってますから‥」

「ああそうか。孤児院の手伝いしてるんだってね、ロザリー。」

テーブルへ案内しようと歩き始めたソロが、彼女がエンドールに残る事に決めた理由を

思い出して頷いた。

「ええ。」

「今日はそちらは大丈夫だったの?」

「はい。ピサロ様が顔を出したら、院長様が、たまにはゆっくりしていらっしゃいと、

 仰って下さったので‥

 あ、そうそう。院長様がソロさんにもよろしくと仰ってました。」

「あら‥ソロとも縁のある方なの?」

会話を聞いていたシンシアが、隣に居るソロへ訊ねた。

「ああ、うん。以前エンドールに寄った時にちょっとね。そっかあ、覚えててくれたんだ‥」

そんな会話をしてるうちに到着したテーブル席に、今日のお客様であるロザリーと

ピサロを案内する。

昼食の入ったバスケットをピサロはシンシアに預けると、もう1つのバスケットを

テーブルに乗せ、中身を取り出し始めた。冷たい飲み物の入った瓶を受け取ったソロが、

テーブルに用意してあったグラスにそれを注いでいく。

ピサロは浅い籐の籠をテーブルに置くと、バスケットの蓋を閉めて、シンシアの元へと

持って行った。

「わあ‥いい匂い。」

テーブルの中央に置かれた籠から漂う香りにスンと鼻を鳴らして、ソロが顔を綻ばせる。

ロザリーが籠の覆いを外すと、更に甘い香りが周囲に広がった。

「さっき焼き上がったばかりのクッキーなんですよ。

 院長様が是非‥と持たせて下さったんです。」

「え‥もしかして、これ、子供達のおやつだったの?」

「あ‥いいえ。お店に置いて頂いて販売してるんです。評判いいんですよ。」

申し訳なさそうに言うソロに、ロザリーがにっこり説明した。

「わあ‥本当に美味しそうね。」

テーブルへと戻って来たシンシアが、そう微笑むとソロの隣の席に着席した。

ピサロもロザリーの隣へと腰掛けて、4人が席に落ち着いた所で、改めてシンシアが

挨拶をする。

「いろいろ心遣い頂いてありがとうございます。 

 今日は難しい話は脇に置いて、ゆっくり過ごして下さいね?」

「はい‥お招き頂きありがとうございます。昼食までまだ時間ありますので、軽いもの

 をとお持ちしました。どうぞ召し上がってみて下さい。」

手を添えて対面に座るシンシアとソロにロザリーが勧める。

「ありがとう、ロザリー。頂きます〜」

「頂きます‥あ、美味しい‥‥」

サクっと口の中で崩れるクッキーは、ほんのりした甘さが口内に広がりじわっと溶ける

ように染み込んで行く。

「うん、本当に美味しいや。これ結構好きかも‥」

にっこり笑んだソロは、そのままパクパクと立て続けに頬張った。

「お口に合って良かったですわ。」

2人が食べる姿に安堵したようロザリーが微笑む。

「ひょっとして、このクッキーロザリーさんが焼いたの?」

「あ‥はい。子供達にも手伝って貰いながらですが‥」

シンシアの問いかけに少し羞恥みながら、ロザリーは頷いた。

「へえ、子供達かあ‥みんな元気にしてる?」

「ええ。あの時皆さんが助けて下さった事で、町の人達とも交流が深まるきっかけに

 なったそうで。以前よりもずっと賑やかになったと、院長様がそれは嬉しそうに

 語ってました。」

「そんな大した事はしてないけど。でも良かった。」

そう答えたソロが、ジュースの入ったグラスを置くと、隣で不思議顔を浮かべている

シンシアと目が合った。

「ああ、あのね‥」

ソロがエンドールへ立ち寄った際に、町中で病に倒れた男の子を拾った所からの事情を

掻い摘んで説明した。



「‥まあ、それで薬草を? それは本当に助かったでしょうね。」

「ええそうなんですよ。それにね、届けられた薬草は孤児院で臥せっている子供達だけ

 でなく、噂を聞いて頼っていらした町の方へも分けられたのですって。

 ソロさんがピサロ様と余分に摘んで来られた分があったおかげで、それが叶ったのだと、

 仰ってましたわ。」


「流行病だって聞いたからね。次々倒れてたら、すぐ足りなくなりそうだったから、

 そうしたんだけど。良かった。役に立って。ね、ピサロ?」

「まあな‥」

ずっと聞き役に専念してたピサロだったが。ソロに振られて、そう短く答えた。



クッキーもジュースもすっかり空になってしまった頃合いにシンシアが立ち上がると、

時間も丁度良いだろうと言う事で、昼食がテーブルへと並べられた。

バスケットの中に入っていたのは、サンドウィッチとスコーン、果物、ポットが2つ。

ポットの中身は冷たいレモネードとコーヒーという事で。ピサロとシンシアがコーヒー

を、ソロとロザリーがレモネードをチョイスして、再び先程と同じ席に着いた。

「頂きまーす。」

ソロが早速手を合わせると、手近にあったサンドウィッチに手を伸ばす。

「うん、美味しい。これチョイスしたのって、ロザリー?」

モグモグ1切れ食べ終えると、ソロが訊ねた。

「はい。シンシアさんの好みを伺ってなかったので。こちらで勝手に用意させて頂いて

 しまいました。」

「どれもシンシアが好きなものばかりだよ。ね?」

「ええ。どれも美味しそうだから、目移りしちゃってます。」

シンシアがそう微笑むと、ロザリーもホッとしたよう笑んだ。

「良かったわ‥。どうぞ沢山召し上がって下さいね?」

「ありがとうございます。」



「ふう‥流石にもうお腹いっぱいだ‥」

スコーンと果物がまだ少し残っていたが。ソロはこれ以上無理と食事を終了させる。

「私もこれ以上は無理かしら‥」

残すのは申し訳ないと顔に滲ませて、シンシアも呟く。

「日持ちするものですから、残りは後程召し上がって下さいな。」

2人より前に終了モードに入ってたロザリーがそう話すと、シンシアも頷いた。

「ピサロももう食べないの?」

「ああ‥。もう十分食べたからな。」

ソロが訊ねるとそう答え、ブラックコーヒーを啜る。

「じゃあ、残ったのは片づけてしまうね。飲み物のお代わりは‥」

立ち上がったソロがテーブルの上のグラスを伺った。

ピサロがグラスを差し出したので、ポットを手に取り、お代わりを注ぐ。ついでにシン

シアを見ると、同様に差し出されたので、こちらも注いだ。

「ロザリーは?」

「私はまだありますから。ありがとうございます。」

ソロはコックリ頷いて、自分のグラスへとレモネードを注ぐ。

スコーンと果物が入った小さな籠を手に取ると、バスケットが置かれた場所へと歩き

出した。

これらが収納されていた大きなバスケットへもう一度それを納めてしまうと、ふわりと

香った甘い匂いに惹かれて、隣のバスケットの中身を覗いてしまう。

果たして。中に残っていた甘い香りの正体は、パイだった。

「あ‥パイだ。」

「目敏いな‥相変わらず。」

コツンと軽く頭を小突いたピサロが、呆れ混じりに苦笑する。

「あれ‥ピサロ。どうしたの?」

「お前がそれを1人で食べ尽くしてしまわぬようにな、釘を差しに来た。」

すぐ後ろに立って居た彼を不思議そうに眺めるソロに、ピサロがニッと不敵に笑んだ。

「酷いなあ。いくらオレでも、ご飯の後にこれは食べきれないよ。」

「そうか? 甘いものは別腹だと、女共がよく口にしてるが?」

「まあ‥それはちょっと分かるけど。食べても1切れが限界だよ‥」

(1切れなら食べられるのか‥)

満腹だと言ったばかりなのに。甘い菓子ならまだ入るのかと、甘いもの全般苦手な魔王

が顔を顰めさせた。

「昼食だけじゃなく、おやつまで用意してくれてたんだね。ありがとう。

 後で小腹が減ったら皆で食べよう。」

にこにこと上機嫌にソロが話して、2人はテーブルへと戻った。



「ただいま〜。あれ、2人ともどうしたの?」

テーブルまで戻ると、シンシアがロザリーの隣の席に移動して、何やら話し込んでいた。

「あ、お帰りなさいソロ。あ‥悪いけど。ピサロの席そちらに移動させちゃったわ‥」

彼が飲んでたグラスを指して、シンシアが大して済まなそうでもなく説明した。

ピサロとソロは顔を見合わせたが、そのままストンと席に着いた。対面の席では、

シンシアがロザリーに耳打ちするよう、何かを話してクスクス笑っている。

「‥まあ。シンシア、ロザリーに会いたがってたし。仲良いのもいい事だけどさ‥」

なんとなく置いてけぼり食った思いのソロが、ぽつんとこぼした。

「ああ、ごめんなさいソロ。ふふ‥ちょっとこの後の話を計画立ててたのよ。」

「この後の計画?」

「ええ。私達、ちょっと2人で大事な話があるんだけど。その間ソロの面倒その人に

 押しつけちゃっても良いかしらって。そしたら、ロザリーがね、

『それはいいですね。きっと喜んで引き受けて下さいますわ』って。

 瞳輝かせて言うもんだから‥」

クスクスと笑い立てるシンシアに、ソロが憮然と顔を顰めさせた。

「なんだよお。それじゃオレ、子供みたいじゃないか‥」

「そういう顔していたら、確かにお子さまだな。」

グリっと頭を強めに撫ぜられて、ソロが一層膨れっ面になってしまう。

「ふふふ‥。まあそういう事だから。後で私達席外させて貰うわね。」

「うん‥まあ。それはいいけど。2人で話したいなら、オレ達が席外そうか?」

シンシアの望みなら‥とソロが了承示すと、そう提案した。

「う〜ん。それも考えたんだけどね。ここはちょっと内緒話には向かないかなって‥」

「内緒話‥」

「あ‥シンシアさんは、エルフについていろいろ尋ねたい事があるそうなので‥

 ですからその‥意地悪で仰っているのでは‥」

眉を顰めたソロに、ロザリーが慌ててフォローする。

「うん、ありがとうロザリー。いいんだ。シンシアがオレで遊ぶのいつもの事だから。」

ソロはクスっと笑みを浮かべると、更に笑みを深めさせた。

「でも安心した。ロザリーに来て貰って良かったね、シンシア。」

彼女の前でリラックスしているシンシアに、心底安堵したように、ソロはにこにこ頷くの

だった。