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泣いた顔は見せられないからと、ソロはクリフトを引っ張って、彼女達から離れた池の辺

へと移動した。

「‥それで、クリフトはピサロと何話してたの?」

辺に到着する頃には、すっかり涙も止まったソロが、顔を整えるようしながら訊ねた。

「あ‥ええ。まあ‥いろいろと…」

「…シンシアの事、何か言ってた?」

「昨晩の事‥ですか?」

「それもあるけど…。なんか‥いろいろ静か過ぎて、変‥‥‥」

「変…ですか。ははっ‥まあ、常と比べたら確かに‥‥‥」

ム‥と唇尖らせるソロに、クリフトが気が抜けたように笑い立てた。

「…まあ、確かに。妬きもちやきのピサロさんにしては。静か過ぎるとは思いますけど。

 相手が彼女だから、ピサロさんも途惑ってらっしゃる‥という事では?」

「そう‥かな? 何かいろいろ知ってるのかと思ったんだけど…」

「いろいろ?」

「‥だって。住む場所造る為にあんな積極的に協力してくれるなんて、変じゃない。

 多分‥オレだけだったら、言い出さなかったと思うもん。」

「ああそれは‥やはり気遣ってくれてるんでしょうね‥。ソロにとって大事な家族が戻っ

 て来たのですから。それなりに尽くしたいと思っていらっしゃるんでしょう。」

「それだけ‥かなあ…?」

まだ納得行かないといった様子で訝るソロだったが、にこやかに結んだクリフトからは、

これ以上聞き出せないのを理解して、話を終わらせる事にした。

「…戻ろうか。シンシアも待ってるし‥」

「そうですね‥」



ソロには懐かしい故郷の味を十分堪能して、賑やかで温かい食事を終えると、トルネコが

立ち上がった。

「それじゃ、私はエンドールへ帰りますね。今日伺った必要な物資を用意してお待ちして

 ますので。マーニャさん、昼過ぎくらいに迎えに来て下さいますか?」

「ええ分かったわ。なんならエンドールまで送ってあげるわよ?」

「エンドールなら、キメラの翼で十分間に合いますから大丈夫ですよ。」

にっこり答えるトルネコに、立ち上がりかけたマーニャが腰を降ろした。

「そう? 気をつけて帰ってね。ネネさんによろしく。料理美味しかったわ。」

「本当に今日はありがとうトルネコ。ネネさんにもお礼伝えてね?」

「差し入れ御馳走様でした。しばらくご面倒おかけしますが、どうぞよろしくお願いしま

 す。」

ソロとシンシアがトルネコの前にやって来ると、心からの感謝を伝えた。

「こちらこそ、美味しい食事御馳走様。必要なものがあれば遠慮せず言って下さいね。

 それと‥2人とも身体が本調子じゃないだろうから、無理はしない事。いいね?」

諭すように話すトルネコに、ソロとシンシアが顔を見合わせた。

村の大人達が言い聞かせて来るような口ぶりがなんだか温かくて、2人が照れたように笑

う。そんな姿に一層笑みを深めさせたトルネコに、2人はコックリ頷いた。

「ありがとう、トルネコ。」

「お気遣いありがとうございます‥」

トルネコは彼らの後ろに立つクリフト、ミネア、マーニャにも目を移して頷くと、「では」

と手を上げて村の外へと踏み出した。

数歩離れた所でキメラの翼を使う。光の帯が真っすぐ空の彼方へと伸び、夕闇に溶けた。



「そうね‥考えてみたら、あたし達ものすっごぉ〜く面倒臭い奴と戦ったばかりなのよね

 ‥。心身共に休息が必要なのよ、皆!」

トルネコを見送った後、マーニャがぽんと手を打つと、わざとらしく大仰に主張した。

「‥で。何が言いたいのかしら、姉さんは?」

「ん〜皆でのんびりライフしましょう‥かな? 楽しく過ごしましょーよ、ねえ?」

両腕組んで呆れたように促す妹に、一歩退きながら返す。

「ふふっ‥まあ確かに。マーニャさんの仰る事も尤もかと。幸いピサロさんの手配で力仕

 事はあちらに請け負って戴けるようですし。キャンプのつもりでのんびりするのも悪く

 ないかと…」

「‥皆本当にそれでいいの? 故郷の方がのんびり休めるんじゃないの?」

まだ疲れを残しているのは皆同じ‥と、ソロが案じるよう訊ねた。

「逆よ逆。故郷に居たらのんびりなんて絶対無理。休まらないわ‥」

ちちち‥と立てた指を振って、マーニャがうんざり顔を浮かべる。

「ですよねえ…。寧ろ仕事が山のように積み上がってましたから‥」

逃げ出せてよかった‥と本音を呟きながら、クリフトが同調した。

「ふふふ‥本当に何もない所ですけど。どうぞのんびり過ごして下さいな。」

そう微笑んで、シンシアがソロの腕に手を絡ませる。

「ソロ‥あなたの旅の仲間は皆本当に温かいのね‥」

彼らの気遣いを肌で感じふわりと微笑むシンシア。

「…うん。自慢の仲間なんだよ、本当に…」

込み上げて来る温かな感情を思いながら、ソロは嬉しそうに目を細めさせた。



「え‥と。オレ‥シンシアと一緒がいいんだけど。」

夕食の片付けも終えて、しばらく談笑した後向かった今夜の寝所。2つのテントの前で、

ソロが困ったようこぼした。

「あら‥彼女にはあたし達姉妹と一緒に休んで貰おうと思ってたんだけど‥。シンシアは

 どう? ソロと一緒の方が良い‥?」

「…そうね。ソロと一緒の方がいいかな。‥クリフトさんが迷惑でなければ、それで。」

一同見渡した後、少し考えるようにしながら、シンシアが答えた。

「私は構いませんけど‥。えっと‥寧ろ私がお邪魔になりませんかね?」

「え‥なんで?」

気遣うように遠慮がちに話すクリフトに、ソロが意外とばかりに聞き返した。

そんな彼の様子に姉妹は苦笑いを浮かべ、クリフトも一瞬目を丸くする。

「まあ‥いいんじゃないの? ソロを真ん中にして3人並んで眠れば。」

やれやれ‥とマーニャが半ば呆れを滲ませ提案すると、ソロがコックリ頷いた。

「うん、そーする。いいよね?」

シンシアとクリフトに確認するよう目線を送るソロに、2人はにっこりと頷くのだった。



といった訳で。3人川の字になって横になったテントでは‥

「あ〜なんか、こうしてテントで横になると、まだ旅の途中みたいに思えて来るけど…

 シンシアとは、こんな風に寝た事なかったよね。なんだか不思議だ‥」

「そうね‥村から出た事なかったから‥こういうのって、なんだか新鮮ね…」

ニコニコ話すソロにシンシアも笑んで返す。

「‥寒くない?」

季節としては過ごしやすい時期だけれど。昼間に比べれば夜は冷えるので。身体の負担に

なってないかと案じるようソロが訊ねた。

「ええ‥大丈夫よ。ありがとう‥」

「クリフトも平気? サントハイムに居たら、もっと寝心地良いベッドで横になれたよね。

‥でも、来てくれて本当に嬉しかった。ありがとう‥」

「まあ‥テントで眠るのは慣れっこになってますから負担には思いませんよ。あなたと

 ゆっくり話も出来ないまま別れてしまって、気になってたのも事実ですしね‥」

「うん‥なんかいろいろあったから、村に戻ってからもぼーっとしてたんだ、オレ…」

そう答えて、ソロは低い天井を見つめそっと瞼を綴じた。昨晩この村へ帰ってからの自身

を振り返って、ほお‥と長い息を吐く。

「…いろんな事考えなくちゃ‥って、そう思って。樹木の根元に腰掛けたら、そのまま眠

 ちゃって‥そしたらシンシアが‥‥‥。まだ夢見てるようで、本当は、少し怖い…」

ぎゅ‥とソロは繋いでいたシンシアの手を強く握る。

「夢なんかじゃないわ…。私はここに居るわ、ソロ…」

握った手をそっと重ねさせて、横を向いたシンシアがそう静かに応えた。

「うん…側に‥居てね‥シンシア‥‥‥」

ホッとしたよう微笑んで、ソロが深い呼吸を始める。すう‥と眠りに落ちて行った彼を見

守って、シンシアとクリフトがほんのり笑んだ。

「相変わらず寝付きいいですね‥」

「安心出来る人の側だから‥でしょうね。」

寝顔を覗うようにしながら、シンシアが微笑む。

「…ソロの事、ずっと支えてくれて、本当にありがとう…クリフトさん。」

同じようにソロの様子を見守っていたクリフトに、シンシアが心からの感謝を述べた。

「シンシアさん…」

「‥ソロが見つけてくれたお護りの中でね、時々だけど感じてたの。外の様子…」

「え…」

「まあ‥感じるといっても、ソレを持っていたソロの感情がダイレクトに伝わって来てた

 のが殆どで、周囲の事は、ソロの感情が大きく動いている時にちょっと伝わる程度だっ

 たんだけど…。あなたとあの人の事は、その中でも何度も見えたから‥」

「お護りの中に‥居たんですか? あなたが…?」

「ええそう。あの日‥深い傷を負った私は、消えてしまいかけた生命のかけらを、側に落

 ちていたお護りに避難する事で繋ぎ止めたの。‥お護りは元々その為に用意されたモノ

 だったから‥私の躰は仮死状態を保ったまま、竜の神様に保護して貰えたわ。本来は、

 そこで躰の傷を治癒させて、お護りに避難した[私]を戻す手筈だったのだけど‥お護

 りはそれよりずっと以前に紛失させて居たから、天界へは届かなかったの…」

「竜の神はそのお護りを見つけられなかったのですか?」

「‥ええ。手元から離れていた期間が長過ぎたので、追えなかったそうよ。」

「ソロが見つけた後は‥? その時点で竜の神もその所在を知ったのでは?」

「ええ。だけど…私が、ソロの側に居る事を選んだの…」

「そうでしたか…。ソロは‥あのお護りに随分励まされていました。何か‥感じ取って居

 たのかも知れませんね、無意識にでも…」

「‥そうだったら、嬉しいわ…」

穏やかな寝息を立てるソロの髪を撫ぜながら、シンシアが呟いた。

「…私が側に在ったのは、ソロが天空城へ訪れる時までよ。それ以降は何も知らないの。」

そう言って、シンシアがクリフトへと目を移した。

「‥困りましたね。何から話せば良いやら…」

彼女が知りたがってる事を理解はしたが、そうあっさり纏まるような内容でもなく、クリ

フトが苦笑浮かべる。

「‥聞いても良いかしら?」

「はい‥?」

「単刀直入に言うわ。結局、あなた達の関係ってどうなっているの?」

ソロの頭上に身を乗り出して、更に声を顰めさせたシンシアが、きっぱり訊ねた。

「‥ストレートに来ましたね。」

はは‥と乾いた微笑を浮かべて、クリフトが嘆息した。

「‥ピサロさんが仲間に加わった時、私とソロはあなたが察する通りの仲でしたよ。で‥

 まあ、共に旅をしている内にいろいろありまして。3人で過ごすようになったと‥」

「‥あなたは、それで良かったの?」

「私だけでは、支えきれなかったですし…それに‥思っていたよりずっと愉しい関係なん

 ですよ、これでも。」

寂しそうに笑んだ後、ケロっとした様子で明るく笑んだ。

「うわあ‥思っていた以上にいい性格してるのね、クリフトさんて‥」

「クリフトでいいですよ。‥まあ、シンシアさんも聞いてた姿からは大分遠いようなので。

お互い様かと…」

にっこり返すクリフトに、シンシアもクスリと笑う。

「私もシンシアでいいわ。ソロの事、またいろいろ聞かせてね?」

そう言って、シンシアはソロの隣に横になった。

「はい。私にもいろいろ教えて下さいね。」

彼女にそう返した後、寝る体勢に入ったのを見届けて、クリフトも目を瞑る。

しばらくすると、テントに静寂が訪れた。



「ふあ〜よく寝た〜」

寝ぼけ眼を擦りながら、ソロがのっそり身体を起こした。

「おはようございます、ソロ。昨晩はぐっすり眠れたようですね。」

「おはようクリフト。うん、そうなんだ。なんかいい夢みてたみたいなんだけど。全然覚

 えてないくらい、落ちてたみたい‥」

隣から掛けられた声に応えて、ソロが残念そうに笑うと、クリフトがそっと彼の頬に手を

添えた。

「それは勿体なかったですね‥」

「‥そうでもないさ。‥‥‥」

こつんと額を合わせて来るクリフトにふうわり微笑むと、自然と唇が重なった。

「おはよーソロ。いい朝ね。」

触れるだけの口接けが解かれると、背中に明るい声が掛けられた。

「しっ‥シンシア!? ‥みっ‥見てた、今の?」

ビクっと躰を跳ねさせて、ソロが冷や汗たらたら彼女の顔を窺った。

「ええもう‥バッチリ。ソロ‥私には朝の挨拶してくれないの?」

「お‥おはよーシンシア。」

「おはよーソロ。‥って、それで終わり?」

「え‥だ‥だって…ええい‥!」

不満そうに唇を尖らせて顔を突き出したシンシアの頬に、ソロがチュッと唇を寄せた。

「お‥オレ、顔洗って来るから…!」

そのまま勢いよく立ち上がって、テントを飛び出す。

真っ赤な顔であたふた飛び出して行った彼を見送って、残された2人がクスクス笑う。

「‥まあ大体こんな感じですよ、シンシア。」

普段のソロの様子が知りたいのだとシンシアに頼まれていたクリフトが、そう微笑んだ。

「本当にベッタリなのね…あなたに。…彼にも、あんな感じなの‥?」

「‥う〜ん。最近は割とそうかも知れませんね。やっと素直に甘えられるようになったと

 いうか‥」

「ああ‥いろいろと素直になれないのね、まだ‥」

そう嘆息すると、シンシアも立ち上がった。テントを出て行こうと足を踏み出す彼女に、

口を開き掛けてたクリフトが押し黙る。

「私達も行きましょうか。朝ごはんにしましょう。」

「そうですね。」

そう笑んで、気持ちを切り替えるよう小さく吐息を吐き、クリフトも彼女に続いた。



「あ〜おはよ、シンシア。クリフト。」

「おはよーございます。早いですね、2人とも。」

食事の用意を始めていた姉妹にシンシアが微笑んだ。

「昨晩は早く休んだからね。おかげで久しぶりに早起き出来たよ。」

「姉さんが規則正しい生活を身につけるには、良い場所みたい。早朝の散歩が一緒に出来

 る日が来るなんて、思わなかったわ‥」

「本当に緑以外何もない所ですけど…。あら‥ソロは?」

姉妹の側までやって来たシンシアが、キョロと辺りを見回した。

「ああ‥あの子なら、顔を洗ったら建設現場の方へ走ってっちゃったわよ。」

「朝食前に進行状況確認して置くんですって。」

「そうですか。」

「見に行って来る? ここはあたし達がやって置くからいいわよ?」

彼が向かった方角を見つめるシンシアに、マーニャが声を掛けた。

「あ‥いえ。私もお手伝いします。」

「では‥私がソロの様子見て参りましょう。」

「ええ‥お願いします。」

軽く会釈して彼の元へ向かうクリフトを見送って。その背中が小さくなるとマーニャが

ちょいちょいとシンシアの服を引っ張った。

「ねえねえ、昨晩は大丈夫だった?」

ひそひそと耳元で訊ねられて、シンシアがきょとんと首を捻る。

「え‥何がですか?」

「あ‥だからさ。ソロはともかく、殆ど初対面の男も一緒で、ちゃんと眠れたかな‥って」

言葉を探すようにしながら、マーニャが無理に笑った。

「ええ‥それは問題なく。あの人にソロも随分懐いてるようでしたし、興味深いお話も聞

 けて良かったです。」

「そ‥そーなんだ‥」

にっこり返すシンシアに顔を見合わせた姉妹は、苦笑いを浮かべるのだった。



「ソロ。」

建設現場の側の岩に腰を下ろしている彼に、クリフトが声を掛けた。

「クリフト。酷いよ‥知ってて何も言ってくれないんだから。」

「さっきのですか?」

プンとむくれるソロに、クリフトが微苦笑浮かべた。

「寝起きはぼんやりしてるの分かってて、教えてくれなかったんだろ?」

「ええ‥まあ。彼女のリクエストだったので‥」

「シンシアの?」

ソロの前にしゃがみ込んで目線を合わせたクリフトに、頓狂な顔を浮かべ聞き返す。

「シンシア‥もしかして、知ってるの…?」

「お護りの中から見ていた‥と聞いてませんか?」

「…言ってた。‥そうだよね。あいつの事も知ってたし‥そっかあ‥‥‥」

「大体の事情は察してくれてるようでしたが。ソロの普段の様子を見てみたいと仰られて。

後で2人でソロに怒られましょう‥と、まあ。」

肩を竦めさせて、クリフトが苦く笑う。ソロはそんな彼に微苦笑を返した。

「怒ってはいないよ。本当にびっくりしたけど‥。

 シンシアさ…呆れてなかった‥?」

少し気不味げにソロが上目遣いに訊ねる。

「何がです?」

「ん‥と。だから‥オレ達の関係にさ…」

小首を傾げて聞き返されて、ソロがもごもごと説明した。

「ああ‥そう言えば。全然気にしてない様子でしたね、そこは。」

ぽむと手を打って、クリフトが記憶を手繰り寄せ回答する。

「そうなの?」

訝しげに眉を寄せて、ソロがよく分からないといった風情で嘆息した。

シンシアとは物心ついた時から共に過ごしたが。時折ソロには謎な言動をする部分も見せ

る少女だったのだと、今更ながら思い出す。

「ま、いいや。そろそろ戻ろうか。お腹空いちゃった、オレ…」



「ごちそうさま、美味しかった〜」

野菜スープとパン、それから果物‥といったシンプルな定番の朝食メニューをきれいに

完食して、満足そうにソロが手を合わせた。

「ふふっ‥朝からお代わりするなんて。戦闘の疲れも大分解消されたのかしら?」

「うん。思っていた程疲労残ってはいないかも。自分でもびっくりするくらい元気だよ。」

安心したよう微笑むミネアにソロが笑顔で返す。

「皆はどお‥? 疲れが残ってるようだったら、遠慮せずのんびりしていてね。シンシア

 も。シンシアの手料理はすごく嬉しいけど。負担だったら言ってね? オレだって、

 簡単な食事くらい作れるんだからさ。」

「あたし達は平気。のんびりしたい時は遠慮なく、そうさせて貰っちゃうから。」

マーニャが明るく話すと、ミネアとクリフトも同意するよう頷いた。

「まあ‥ソロが料理。そうよね‥長く旅したんだものね。それは食べてみたいかも。」

そうシンシアが笑顔を浮かべると、隣に座るマーニャが慌てた様子で付け加える。

「えっとね、基本はマスターしてるけど。味付けは任せっきりにしちゃ危険よ?」

「え、どうして?」

「放っておくと、どんどん甘く味付けちゃうの。恐ろしい程に‥」

「酷い。オレはまだ修正出来るレベルに留めてるもん。」

何かを思い出したように、渋い顔を作るマーニャにソロが抗議する。

「ふふふ‥。監督が必要なのね、ソロの料理には。じゃあ今度、一緒に作ってみましょう

 か、ソロ?」

「うん。いろいろ教えてね、シンシア。」

コツンと額を小突かれて、ソロはにっこり機嫌を直した。



午前中は建設現場へ作業について確認取った後、頼んであった木材を受け取って、食事用

の竈を設けた場所の近くに、テーブルと椅子を設置した。

丸太と板を組み合わせただけの簡易な作りのソレは、組み合わせ部分の凹凸が予め整えら

れていたのもあって、ソロとクリフトの2人の作業は、あっと言う間に終了した。

「午前中費やすかと思ってたけど。なんか組み立てるだけで済んじゃったね‥」

予定より早く作業を終えて、ソロは完成したばかりの椅子に腰掛けぼやいた。

レンに頼んだのは、テーブルと椅子を作るための木材だったのだが。用意のいい事に、

組み立てるだけで済むまで加工されたモノが届けられた。

「‥ちょっとさ。甘やかし過ぎじゃないかな?」

「まあ、いいじゃありませんか。おかげで余った時間のんびり過ごせますよ?

 シンシアを誘って、ゆっくり過ごしてはいかがですか?」

「…いいのかな?」

「ええ。いってらっしゃい。」

にっこり笑顔に促されて、ソロは照れくさそうに笑うと立ち上がった。

朝食の後片付けに向かった女性陣の元へと急ぎ走って行く。

残されたクリフトは、その背中が小さくなると、ふ‥と表情を曇らせた。彼女に残された

時間が少しでも長くある事を祈るように天を仰ぐ。蒼天の空が酷く眩しくて、目を細めさ

せる。

(…聞きたい事がいろいろあるんですけどね。訊いたら、答えてくれるんでしょうかね?

どちらにせよ‥今は見守る事しか出来ないのでしょうね…)

クリフトは長い息を吐き切ると、静かに歩き出した。


2013/7/7
            

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