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現在はもうその痕跡すら緑に埋もれつつある山奥の村。

村を見下ろすように在った大木の下で。ソロは止める術を失くしたよう、ぽろぽろと涙を

流し続けていた。

掛ける言葉もなく見送った背中が消えた後も、いつまでも泣き続けるソロに、彼の隣に座

り込んだシンシアが、そっと彼を抱き寄せた。

「ごめんなさいね、ソロ。今あなたを哀しくさせているのは、私‥よね…」

申し訳なさそうに謝るシンシアに、ソロがふるふると首を左右に振る。

「…シン‥が、悪い‥じゃ…ないっ。オレが…オレが、全部っ…う‥っく、え‥‥‥」

しゃくり上げながら、言葉を紡いで行くソロの顎を上向かせると、コツンと額を合わせて、

シンシアが微笑んだ。

「…聞いて、ソロ。彼に帰って貰ったのは、あなたと大事な話があったからで。あなたを

 責めるつもりなんて、全くないの。あなたがどういう選択してもね。」

「でも‥オレ…あいつは‥村の皆の仇‥なのに‥‥‥」

「そうね‥確かにそれは変えられない事実だわ。でも‥それでも、あなたにとってかけが

 えのない存在になってしまったのでしょう…?」

「‥ごめんなさい…」

消え入るようにか細く、ソロは伏し目がちに答えた。

「言ったでしょう? 責めるつもりはないって。」

「でも…」

クス‥と微苦笑浮かべるシンシアに、眉を下げたソロが口を開くと、彼の口元にそっと指

が押し当てられた。続く言葉を飲み込むソロに、シンシアが続ける。

「あなたがその事でどれだけ悩み、苦しんで来たのか‥ずっと見ていたの…あなたが見つ

 けてくれた、あの石の中で。だから‥知ってるの。あなたの葛藤も、あの人の後悔も‥」

そう言うと、シンシアは白んできた東の空へと目を移した。

「…あなたがお護り見つけてくれた後、どれだけ過ぎていたのかは分からないのだけど。

 とても懐かしい気配が酷く動揺しているのを感じたのが最初。自分がどこに在るのか、

 それすら曖昧な中でも、少しずつ周囲の状況も理解したわ。ソロが仲間を得て旅をして

 いる事。辛い恋をしている事。その相手が‥あのデスピサロだった事も…」

ぽつぽつ語るその声音は柔らかく、その横顔はとても穏やかだった。

 それを不思議そうに見守るソロに構わず、シンシアは続ける。


「流石に最初に気づいた時は、びっくりしたわよ。だけどね…何度か彼を見ている内に

 納得したの。あなたが彼に惹かれた理由。‥まあ、どちらも忘れているようだったけど。

 もう思い出せているのかしら?」

「何を…?」

「結婚の約束したんだ‥って、嬉しそうに報告してくれたじゃない。ずっと昔に…」

うふふ‥と笑って話す彼女に、ソロがかあーっと頬を朱に染める。

「な‥なんで、それ?!」

「あら‥思い出せてたの?」

「‥ううん。聞かされただけ。あいつも…ずっと忘れてたって。」

「そう。先に思い出せたのは、あの人の方だったのね‥」

「…あいつが。‥あいつが進化の秘法を使って、化け物みたくなっちゃった時。ロザリー

 ‥あいつが大事に匿ってたエルフの女の子が必死で呼びかけて、記憶を取り戻させたんだ。

 ‥あいつ、自分が誰だったかも覚えてなくてさ。必死で呼びかけてた。

 彼女が流した涙がルビーへ変わって、あいつに触れると光が弾けたようキラキラ輝き出

 して…2人の思い出が次々浮かび上がってさ…それがきっかけになって、元の姿と記憶

 取り戻したんだけど。その時に、思い出したんだって…昔オレと逢った時の事を…」

ソロはぽつぽつと、苦い思いを含んだ記憶を辿るよう語った。

「…あいつを助けた後、同じ敵を倒すんだからって、オレ達と行動共にする事になって‥

 本当にいろいろあったんだ。いっぱい助けられたし‥支えになってくれた‥んだ‥‥」

ピサロが仲間に加わった後の、様々な出来事が走馬灯のように流れて行く。

恐ろしい目にも遭ったし、消えてしまいたい程哀しみにくれた事もあった。

けれど…

「…シンシア。」

ソロは顔を上げると、真っすぐ彼女を見つめた。

「あいつは‥確かに村の皆の仇だし、その事を許すつもりはない。だけど…

 オレを何度も助けてくれたのも本当なんだ。進化の秘法を完全に葬り去る事が出来たの

 は、あいつが居たからで…そうじゃなかったら‥オレは途中で旅をリタイアしてた。

 オレが最後まで[勇者]をやれたのは‥ピサロが側に居てくれたからだと思う―――」

真っすぐ真剣な瞳で語るソロに、シンシアがふわりと微笑んだ。

「‥うん。きっと‥いろいろな事、乗り越えて来たんでしょうね。最初からそんな顔で

 紹介してくれれば、もう少し柔らかく対応したのよ、私も…」

そうにっこり笑った後、「ああでも、やっぱり意地悪はしたくなってたかな‥」ブツブツ

とこぼしたが、いつもの彼女らしいカラリとした言い方で、そこから負の感情は窺えな

かった。

「怒って‥ないの?」

「…あなたが心配する意味では、怒ってないんだと思う、多分。村の皆もね‥」

おずおず訊ねて来たソロに肩を竦めさせたシンシアが答えた。

「あなたが何れ勇者として旅立つ日が来る事を、皆知っててココに居たの。魔物が勇者を

 狙って来る事も想定内だった。だからね、戦いの果てに命を落とす覚悟も当然持って居

 たの。勿論、そうならずに無事旅立たせるのが本来の役目だったんだけど…」

そういうと、彼の両肩に手を乗せて、向かい合わせになったシンシアが、正面から真っす

ぐソロを見つめた。

「だからね‥あなたの為に犠牲になった‥なんて。背負う必要はないのよ?

 村の皆が一番心配していたのは、最悪になった場合、あなたを追い詰めてしまわないか

 ‥って事だったの。」

交わされる眸から伝わって来る労りと慈しみの心が酷く切なくて、ソロは再び涙を落とした。

「あなたは忘れっぽいから、よく覚えてないかも知れないけれど。村の皆…あなたが本当

 に大好きだったのよ? 愛されていたの。家族のように‥子供や孫のようにね。」

そっと頬を伝う涙を拭ってやると、両頬に手を添えてコツンと額を合わせる。

「シンシア‥も…?」

ぽつんとソロが呟くと、眸を円くしたシンシアが破顔した。

「当たり前でしょう‥? …まあ、皆とは若干意味合い違ったかも知れないけれど‥」

「え…?‥‥‥!」

両肩を竦めさせ、クスっと笑ったシンシアが眉を寄せるソロに口接けた。

「シンシア…」

触れただけで離れていった唇。ソロはビックリ目を開いて、間近にある彼女の顔をじっと

凝視めた。

「もうお子様じゃないんだから。意味は正しく理解してくれたわよね?」

「‥うん。多分…」

顔を真っ赤にしながら、もじもじとソロが頷いた。

「あ〜もう、本当に可愛いわね、ソロは!」

ピンクな声を上げながら、シンシアがソロの頭を掻き抱くよう抱き締めた。

「やっぱり、あんなのには勿体ないわ。預けたくないわ。このままお持ち帰りしたい〜」

「し‥シンシア?」

すりすりと頬を寄せて謎の言葉を発する彼女に、ソロがオロオロする。

「え‥えっと…大丈夫…?」

「うふふ‥ビックリさせちゃったわね。ごめんなさい、ソロ…」

そう笑って、シンシアが躰を離すと立ち上がった。

「見て‥ソロ。夜明けだわ‥!」

白んでいた東の空、眩しい光が山の稜線を縁取って行く。

「…本当だ。」

シンシアに倣って立ち上がったソロが、眩しそうに朝陽を眺めた。

「シンシアとまたこうして朝陽を眺める事が出来るなんて、考えもしなかった…」

「ええ‥そうね。私も‥もう一度、あなたに会えるなんて、思わなかったわ…」

隣に並んで立つ2人の手が触れ合うと、どちらからともなくしっかりと手が繋がれた。

「シンシア‥あんなお別れは、もう絶対しないでね‥」

キュっと繋いだ手を強めに握って、ゆっくり昇って来る太陽を見つめたまま、ソロが堅い

声音で吐いた。

「ソロ…」

「オレの時間全部シンシアに上げる…だから‥側に居て欲しいんだ‥」

本当は寿命上げられたら良かったんだけどさ‥そう呟いて、ソロは彼女の肩に頭を預けた。

「馬鹿ね‥そこは簡単に譲らないでいいのよ‥」

そう小さく笑って、シンシアはそっと彼を抱き寄せた。



「…うん…はっ!? シンシアは‥?」

太陽が昇って来る姿を眺めながら、いつの間にか眠ってしまっていたソロは、意識を浮上

させるとガバッと半身起こした。

「ここに居るわよ…おはよう、ソロ。」

すぐ隣で眠って居た様子のシンシアがクスリと笑う。

「よ‥よかった。夢じゃ‥なかった…」

「ええそう。ちゃんと居るわ‥だからね、そろそろ手を離して欲しいわ‥」

そう微苦笑すると、ずっと繋がれたままだったらしい手を持ち上げた。

「あ‥ごめん。痛かった‥?」

「ううん。ただ‥私もずっと動けなかったから、何も用意出来なかっただけ…」

「用意?」

「お腹‥空いたでしょう?」

「あ‥そっか…。‥随分陽が高くなったねえ。シンシアもお腹空いたよね。」

空を仰ぎながら、ソロがのほほんと返した。

「私は平気。ソロの為に用意してあげたかったの。」

「ありがとう、シンシア。…でも、何の準備もなく帰って来ちゃったから、実は何もない

 んだよね…」

「ああ‥そうよね。考えてみたら‥今晩眠る場所ももう、残ってないのよね…」

周囲を見渡しながら、シンシアがふう‥と嘆息した。

「まあ‥そういう事だね。オレはともかく、シンシアにはまともな寝所で休んで欲しいし。

う〜ん…」

「あら…何かしら?」

考え込むソロをニコニコ見守っていたシンシアが、キラリと光ったものがグングン近づい

て来るのに気づいて首を傾げさせた。

「え…ルーラの光?」

彼女に倣って顔を上げたソロが、不思議そうに呟く。彼が立ち上がったのと、光が到着し

たのはほぼ同時だった。村の入口に複数の人の気配が現れる。

「行ってみよう、シンシア。」

ギュッと彼女の手を繋いで、2人は光が到着した場所へと急いだ。



「マーニャ、ミネア、トルネコ…それにクリフトまで! どうしてここが‥」

「ソロ‥! もう、あんたったら、黙って行っちゃうなんて、酷いじゃない!

 あたし達、あんたの事が心配で心配で…あ、もしかして、お邪魔だった‥?」

ズカズカすぐ前までやって来たマーニャが、彼の隣に立つ少女に気づいて声のトーンを変

えた。

「ソロ‥その方は?」

「あ‥うん、紹介するね。オレの幼なじみのシンシアだよ。昨晩ここへ帰って来てから、

 彼女も戻って来てくれたんだ。ずっと天界で保護されてたんだって‥ビックリしたよ‥。

 シンシア、この人達はね、オレと共にずっと旅をしてくれた仲間なんだ。」



それぞれが名乗り上げて簡単な挨拶を済ませると、トルネコが大きなバスケットを掲げて「お

昼を共に」と誘ってくれた。

折り畳み式の小さなテーブルを2つ、平らな地面の上に設置して、バスケットの中の籠を取り

出し並べる。2段重ねの籠の中身はサンドウィッチとマフィンがたっぷり詰まっていた。バス

ケットの中にはリンゴやオレンジといった果物まで入っている。ポットの中身はアイスティ。

銘々にカップが行き渡ると、テーブルを囲んで適当に腰掛けたメンバーが「乾杯」とカップを

掲げて昼食会は始まった。

「‥本当にビックリしたよ。まさかここへ来てくれるなんて、考えてもいなかったし‥」

コクンと甘い紅茶を口に含んでから、ソロがメンバーを見渡した。

「本当は昨晩のうちに追いかけたかったんだけどね。あんたの故郷って、詳しい場所知ら

 ないし‥だからね、朝になってから、知っていそうな人を問い詰めようと思ってたの。」

そう言って、マーニャは目線を斜め前に座るクリフトへと注ぐ。

「そしたらさ‥意外な人物がやって来てね‥」

「意外な人物…?」

「ね、クリフトさん?」

姉の隣に座っていたミネアが、にこやかに彼を促した。

「? ‥クリフトが、モンバーバラに行ったの?」

「はあ‥まあ。‥私も、ある人に早朝叩き起こされて…だったんですが。」

そう疲れたように肩を落として、躊躇うようにソロと隣に座るシンシアを窺った。

「‥成る程。昨日は随分あっさり引き上げたと思ったら、いろいろ画策してたんですか。

あの銀髪男。」

納得した‥と言わんばかりに頷いて、シンシアが刺を孕んだ声音で呟いた。

いきなりガラリとイメージが変わった彼女に一同ビックリ眼で見つめる。

「あ‥そっかあ、ピサロか。あいつだったら、ココへも来られるもんね。確かに…

 じゃあ‥さっきのは、やっぱり気のせいじゃなかったんだ…」

一同の来訪に驚いてたのもあって、タイミングを逃してしまったが。彼らが到着した時、

確かに彼の気配も感じていたのだ。それを思い出して、ソロが頷いた。

「まあ‥そーゆー事よ。ソロはしばらくこの村で過ごすつもりだろうから、力になって

 やって欲しい‥ってさ、そうよね、クリフト?」

「はあ‥まあ。そんなような所です…。ここで暮らすつもりなら、それなりの準備が必要

 だろうと。ですから、トルネコさんにまず相談して、そこでシンシアさんの事はマーニャ

 さん達に協力戴いた方が早いだろうと、モンバーバラへ伺った次第で…」

「‥そうだったんだ。わざわざオレの為に出向いてくれて、ありがとう。皆だって、いろ

 いろ忙しかったんじゃないの?」

「流石に姫様とブライ様は、こちらへいらっしゃれませんでしたが。とても残念がっては

 居ましたよ? 私はゆっくりソロと話す時間もないまま別れたのが気になってましたし

 ‥。本当にね、戦いの途中から目まぐるしく世界が変化して、まだちょっと実感が伴わ

 ないというか‥。だからね、抜け出せて実はホッとしてたりするんですよ…」

「ああ‥実感沸かないってのは確かにそうね。まあ‥今後の事をゆっくり考える意味でも、

こうして馴染みのメンバーの顔見ている方が落ち着くかなあ‥」

「私もソロの力になれるなら、とても嬉しく思いますし、ピサロさんから仕事として依頼

 受けてもいますしね。問題ありません。」

「ピサロが…」

「実はですね、人手が必要なら‥との申し出もあったんですよ。ただ‥」

トルネコがチラリとシンシアを見て、思い直したよう言葉を切った。

「皆さん大体の事情はご存じなんですね。…お気遣いありがとうございます。でも…

 そうね。あの人がそうしたいと言うのなら、力を借りても良いと思いますよ。昨晩は‥

 ちょっと邪険に扱ってしまいましたけど。出入り禁止にしたつもりじゃなかったので‥

 影でコソコソ動かれるより、堂々と姿見せてくれた方がスッキリするわ。」

「あはははは‥! シンシアちゃん、好きだわ! あたし気に入った!」

「ええ‥なかなか気持ち良い方ですね。」

シンシアの隣に立ったマーニャがばしばし彼女の肩を叩く。ミネアは紅茶を啜りながら、にっ

こりと彼女へ微笑んだ。

「マーニャあ。シンシア病み上がりなんだから、乱暴にしないでくれる?」

「あ‥そうだったんだ。ごめんね、大丈夫だった?」

「あ‥ええ。大丈夫です。マーニャさんもミネアさんも、気が合いそうですね‥ふふ…」



賑やかな食事の後、シンシアの許可もあって、早速やって来たピサロが連れて来た魔物達

が、次々建築資材を運び入れる作業に着いた。

その一連の作業場から離れた場所に、クリフトとトルネコ、ソロが中心になってテント作

りが進められた。簡易テントとはいえ、雨風ばっちり凌げる頑丈なタイプのそれは、大人

3人が悠々眠れる大きさで、2張り立てられた。

料理をするための竈も設置されると、シンシアが早速大鍋に火をかけうきうきと調理を始

めた。

「ソロ‥出来たら呼ぶから、あなたも作業に行っていいのよ?」

「でも…」

「いきなり消えたりしないから。本当よ‥?」

「うん‥じゃ、行って来る。ミネア、シンシアの事よろしくね。」

「ええ任せて。」

離れ難い様子のソロに安心させるよう微笑むミネアに促されて、ソロは資材を運び入れて

る魔物達の元へ向かって行った。

「あなたの事が心配で堪らない様子ね、ソロは。」

彼の背中を見送って、ミネアがぽつんとこぼした。

「…ええ、そうね。‥あまり長くは居られないから、余計不安何だろうと思うわ‥」

「長く居られないって‥それは‥‥‥」

微苦笑するシンシアに、声を顰めさせたミネアが真っすぐ彼女を見つめた。

「私の時間‥もうあまり残ってないのよ。‥ここにこうして在る事自体、奇跡みたいなも

 のだしね。」

ふふ‥とシンシアが微笑んだ。

「ソロはそれを…?」                              愁い→つらい   

「ええ知ってるわ。変に期待させたら、その分愁いかと思って…」

「そう‥。私達‥お邪魔じゃないかしら?」

「いいえ。寧ろありがたいわ‥。ソロはすぐ思い詰めちゃうから、人が多い方が紛れるも

 の。それに‥私も会っておきたかったの。ソロを支えてくれた人達に…」

そう笑むと、シンシアは仕切り直しとばかりに腕を振って、差し入れられた野菜を切り始

めた。その様子を見守っていたミネアも、指示を仰いで手伝って行く。今夜はシンシアが

腕を奮って、集ったメンバーに御馳走してくれる事になっていた。



「レン、任せっきりで悪いね‥」

資材を運ぶ魔物達に指示を出す魔族の青年に、ソロが声をかけた。

アイスブルーの長い髪を1つに編んだ端整な顔立ちの男は、アドンの友人であり、彼の折

にデスパレスで勇者一行に協力してくれた者でもある。今回はここでの作業の責任者とし

て、協力してくれている魔物達の監督を務めてくれていた。

「いえ。今日は資材運びだけですから、問題ありません。ソロ様には建物をどこへ、どの

 ような規模で必要かを伺えたら、すぐにでも作業に入らせます。」

「本当に任せちゃっていいのかな?」

「はい。邪神官との戦いで、すっかりあなたのファンになった魔物も多くあるので。人材

 は募ればすぐに集まりますから、遠慮なく頼って下さい。陛下からも、こちらの作業を

 優先して良いとのお達しが出てるので。あまりお待たせせずに工事完了出来ますよ。」

「ありがとう‥助かるよ。そういえば、ピサロはどうしたの? さっき村に来てたよね?」

こちらの様子を伺いに来たものだとばかり思っていたソロが、キョロと周囲を見渡した。

「陛下なら、先程神官殿とあちらの方へ…」

「クリフトと? そっか…。まあいいや。こっちの用事先済ませないとね…」

少し考える素振りを見せたソロだったが。優先すべきはこちらだと、レンと共に土台が剥

き出しになった地面を歩き出した。



「‥じゃあ、そんな感じで頼むよ。普通に住めれば問題ないから、凝った細工とかいらな

 いからね?」

デスパレスの内装を思い出しながらソロが念押しした。

「はい。1日でも早く完成させるよう、徹底させます。」

「ありがとう。ピサロにもお礼伝えてくれるかな? オレそろそろ戻らないと‥」

そわそわと彼女の居る方向を気にするソロにレンが苦笑浮かべる。

「‥はい、お伝えしておきます。」

「ありがとう! じゃ‥よろしく頼むね。」

そう笑って、ソロは踵を返し走り出した。

村の入口近くまで戻って来ると、風に乗って懐かしい匂いが運ばれて来る。

ソロは足を止めると、少し先で賑やかな話し声が聞こえて来る様子をぼんやり眺めた。

シンシアがマーニャ・ミネアと楽しそうに談笑してるのが酷く不思議で。でもどこか懐か

しい。

「ソロ‥? どうかしたんですか?」

道端で立ち尽くしたままの彼の背中に、クリフトが声を掛けた。

「クリフト…」

「ソロ…」

振り返った彼がぽろぽろ涙を落としているのに気づいて、クリフトがそっとその肩を抱いた。

「‥なんかいろんな感情がごちゃまぜになって‥。嬉しいのに‥なんか苦しくて…」

ぽたぽたこぼれて行く涙を拭いながら、ソロが泣き笑いのような顔を浮かべた。