異界への入口は、訪ねたゴットサイドに開いていた。

そこで千年花の話も訊くと、世界樹の花の別名と教えられた。

それを聞いていたソロが、「ああ、そういえば!」などと、ぽんと相槌した時には、そこ

へ集っていた仲間から「重要な情報はちゃんと覚えてて!」と説教ぽく言われたが。

あの時様々な意味で一杯一杯だった事を知るクリフトから慰められ、気を取り直した。



ゴットサイドからその日のうちに移動した世界樹の麓‥エルフの里。

そこへ到着したのは昼前だったが、少し早めの昼食を取ると、ソロはパーティを組んで、

早速木登りに挑戦する事を決めた。

メンバーはソロ・アリーナ・ミネア・マーニャ。

伝説の花になにより興味持っていた女性陣を引き連れ、ソロは大木の探索を始めた。

樹木へ棲み着いた魔物との戦闘をこなしながらではあったが。

やがて、一行は捜し物をみつけた。

「見て、ソロ! あれがそうじゃない!?」

スルスルと枝を登ったアリーナが、枝葉の間に見え隠れする葉とは明らかに違う形状をし

たモノを見つけ指さした。

早速彼女が見つけたモノの確認に向かう一行。

はたして。

そこに在ったのは、とても大きな花の蕾みだった――



「‥でね、花はあったんだけど。咲くのはまだまだ‥って感じで。とっても堅いの!」

樹木を降りると、広場で車座に座り、樹木に登ったメンバーがその報告を行った。

「千年花‥って言われてるんでしょ?

 蕾みから花が開くまで、どれだけかかるのかなあ‥?」

主な報告を担当したアリーナが、ぽつんと付け足した。

「それなんですけれど…」

里の情報収集に当たっていたクリフトが、続けて口を開いた。

彼の報告に寄ると、世界樹の花が咲くのには、特殊な条件が必要で、どうやらそれが、異

界出現と関係ある‥との事だった。

「それじゃ‥ゴットサイドに現れた、あの洞窟、結局トライしなきゃいけないのね。」

ふう‥とマーニャが嘆息交じりにこぼした隣で、はりきり顔のアリーナが闘志を燃やす。

「ソロ、ゴットサイドへ戻りましょう!

 流石に今日は無理だけど。明日朝一番で、洞窟探検出発よ!」

「あ‥ああ、うん。そうだね。

 トルネコ、洞窟探検に必要な荷って、揃ってる?」

「ええ。船旅でも魔界でも、すぐ発てるよう準備は万全にしてありますから。」

「ありがとう。じゃ‥みんな、とりあえずゴットサイドに戻ろう!」





異界へと通じるとされる洞窟は、思った以上に広く、深かった。

フロアごとにまるで違う次元の場所へ移動しているような。そんな不思議な洞窟。

そこで出会った魔物から、千年花の奇跡の正体を知らされる。

それは…死者をも蘇らせる事が出来るという、まさに奇跡の存在だった。

一旦拠点の宿へ戻った一行が、その場に居なかったメンバーにそれを伝える。

「‥なるほどな。すでに黄泉路へ旅立ってしまった死者すら蘇らせるとは…蘇生呪文すら

及ばぬ世界へ干渉出来るというのか、その花は。」

ブライが納得顔で頷いた。

「死んだ者をな‥。ならば‥それで、ソロの村の者を蘇らせる事も出来るのだろう?」

ライアンの言葉に、ソロが顔を曇らせた。

「…それは、多分無理だと思うよ。みんなのお墓‥ないから…」

全滅したのは確かだろう。だが‥ソロが外へ出た時には、誰の遺体も残っていなかった。

「すまぬ‥知らなかったのでな。」

「ううん。それよりさ…その千年花の話だけど。

 …ロザリーを蘇らせるコトが出来れば、あいつ‥デスピサロも説得出来るんじゃないか

 …って。そう‥思うんだ。」

「そうよ! それだわ! ソロ、すごいじゃない! それよ!」

「そうね‥うん。イケると思うわ。彼女を救って、デスピサロの暴走を止めるの。」

アリーナ・マーニャがうんうんと頷く。他のメンバーも異論はない様子で、静かに頷いて

いた。



長い洞窟の途中で宿屋がある事を知った一行は、翌日の出立を少し遅めに設定し、その日

は解散した。

宿の部屋へと戻ると、クリフトが待っていたように話しかけてきた。

「ソロ。本当に‥それで良いのですか?」

「うん‥?」

「千年花の事です。‥あなたの村の人間だって、もしかしたら救えるかも知れませんのに。

それで…本当に、いいのですか?」

「…うん。多分‥そうなるって知ってたから、あいつ‥アドンも教えてくれたんだって

思う。ピサロもそうだけど、あいつ‥ロザリーを救けたかったんじゃないかな‥って。」

静かに話すと、ソロはベッドに腰掛けた。

「なんだか気に入りませんね。」

憮然とした表情で、クリフトがソロの向かい側に座る。不機嫌さを滲ませる彼に、ソロが

微笑し悪戯を仕掛けるよう彼の両肩に手を置き圧し掛かった。

「珍しいね、クリフト。‥そんな風に怒ってくれてるのは、オレの為?」

「そうですよ。あなたを便利に使われては適いませんからね。」

クスクスと自分を組み敷いて来たソロに、笑んで返したクリフトが手を伸ばした。

翠の髪を梳り、そっと頬へと滑らせる。

「でもおかげで‥希望が出来た。オレにとっても‥さ。」

「‥そうでしたね。上手く行くといいですね。」

「うん…」





長い洞窟の終着点は、とにかく変わった場所だった。

地上とも魔界とも違う空の広がる世界。

丘を登りきった場所のずっと先、ぽつんと見える木の側に、なにやら諍う人影2つ。

エッグラ・チキーラと名乗った2人は、ヒトというより魔族のように思えた。

一行が側へと寄っても、2人は言い争いを続け、話を聞くのにかなりてこずらされたが、

どうにか千年花について訊ねるコトが出来た。

彼ら曰く。自分達に勝てば、その花を咲かせてくれるという。

「た‥戦うって、あんた達と!?」

今にも戦闘突入‥といった空気が流れると、マーニャが頓狂に訊ねた。

「ああ。ここまで来た‥っつー事は、強いんだろ? お前達。」

「そりゃ‥まあ。なんてたって、勇者一行だし‥ね、ソロ。」

ぽむ‥とマーニャがソロの肩を叩く。2人の視線が一斉に彼へ注がれた。

「成る程なあ‥。勇者か、お前?」

「あ‥ああ。そう‥ですけど。

 あの‥でも、オレだけじゃなくて、みんなが居たから戦って来れた訳で‥あの…」

じろじろと値踏みするような視線を送られて、タジタジとソロが答える。

「よし、解った。んじゃ、その『みんな』とやら、呼んでやるぞ。」

「えっ!?」



結局。

街で待機していたメンバーもこちらへ召喚され、戦闘は避けられなくなってしまった。

独特のテンポを持った2人のペースに巻き込まれ、否応なく始まった戦いは、想像以上に

厳しくて。それでも8人全員の力を合わせ、どうにか2人に『まいった』を言わせる事に

成功する。



「楽しかったから、また来い!」

などと、あんまり嬉しくないお誘いを受け、一行は近道だと教わった穴から帰路へと着い

た。





地上へ戻った一行が、早速エルフの里を訪れると、彼らの話していた通り、見事千年花が

花開いていた。

無事奇跡の花を入手し、そのまま今度はロザリーヒルへと向かう。

村へ着いた時には、すっかり夜の帳が降りていたが、ここまで来れば一刻も早く試したい

と、夜の墓地へ一行は赴いた。



世界樹の花は見事奇跡を起こした。

虹色の輝きが彼女の眠る墓を包み込んだかと思うと、クルクルと螺旋を描き昇ってゆく連

なる珠が空へと消える。光の珠を飲み込んだ空は、一瞬閃光すると、銀の光を金に変え、

逆回転の螺旋でゆっくり降りて来た。

「なんだかすごいわね…」

その光景を見守っていたアリーナが、ぽつんと呟く。

光のショーに驚いた村人達も、遠巻きに事態を見守っていた。

虹のカーテンが上がると、最後に残った白の光も消え、人影だけが残された。

「「ロザリー!!」」

「ロザリー‥良かったわ。」

「これは‥!?」

自らの姿を顧みながら、不思議そうにロザリーが呟く。

傍らに役目を終えた世界樹の花がしおれているのを見つけると、ハッと顔色を変えた。

「!! それは世界樹の花…。

 では、あなた達が私の御霊を呼び戻して下さったのですね。

 ソロさん、みなさん‥ありがとうございます。」



ロザリーヒルは大騒ぎとなってしまったので、一行は早々に移動を決めた。

やって来たのはエンドール。

そこでこれまでの経緯などをかい摘まんで説明すると、彼女はゆっくり頷き、現在ピサロ

の身に起こっている事を理解した。

そして、自分を彼の元へ連れて行って欲しいと願い出た。

流石に厳しい戦闘の後、すぐ出立する訳にも行かず。明日一日身体を休めて、それから魔

界へ赴く事を決め、一同は解散した。

大部屋が空いていたので、女性4人が同じ部屋となった他は、いつも通り。

解散を決めると、ロザリーがソロの元へ歩み寄って来た。

「‥あの、ソロさん。お疲れとは思いますが‥少しお話よろしいでしょうか?」

「‥うん。オレも‥話があるから。

 クリフト、部屋使っていいかな?」

隣に居た彼にソロが声を掛けると、クリフトがにっこり頷いた。

「ええ。どうぞゆっくり使って下さい。」

「そんなに時間掛からないと思うよ。適当に戻って来て大丈夫だから。」

クスクスと笑うソロが付け足す。「解りました」と答えると、クリフトは風呂へ向かった

メンバーに続くよう、場を去って行った。

「‥それじゃ、あたし達もお風呂先に済ませて来ちゃうわ。

 ロザリー、話が済んだら部屋で待っててね。あ、部屋解る?」

「ええ。大丈夫です。ありがとう、マーニャさん。」

「じゃ、行って来るわね、ロザリー。」

「はい。行ってらっしゃいませ。」

マーニャ・アリーナに手を振って、軽い会釈を残して行ったミネアに会釈を返して。

食堂の大きなテーブルの前に残されたのは、ソロとロザリーの2人だけとなった。

「‥じゃ、行こうか。」

「はい。」



「どうぞ‥」

ロザリーを伴って部屋へ戻ったソロは、ベッドを椅子代わりに使って‥と勧めた。

彼女が腰掛けるのを待って、ソロが向かいのベッド、斜め前の位置へと座る。

ロザリーが話を切り出せずに居たので、ソロの方から会話が始められた。

「‥えっとさ。身体の方、大丈夫? あんまり丈夫じゃないって聞いてるけど。」

「あ‥はい。大丈夫です。ありがとうございます、ソロさん。」

「あの‥ね。一応確認しとくけど。オレとピサロのコト…前に話してたみたいな話、仲間

の前では絶対しないでね。オレとピサロはもう‥本当になんでもないからさ。」

「ソロさん‥。ピサロ様のコト‥諦めないでいて下さって、本当にありがとうございます。

 あの方の野望を阻止する為に、戦わない道を残して下さったコト‥どんなに感謝しても

足りません。」

しんみり語るロザリーが、眸を揺らす。潤んだ翡翠の瞳から、深紅の塊へ変化する涙がこ

ぼれ落ちた。

「‥そんなに感謝されるコトじゃないさ。…オレが、あいつを救いたかったから。

 だから…あなたになら、それが出来るかも知れないって‥それだけなんだ。」

「ソロさん‥」

「あいつが誰より大切に想う、あなたの声なら‥届くかも知れないから。」

「ソロさん‥それは…っ‥」

「いいんだ…もう‥。元々オレ達は‥あいつにとってオレは、ただ‥

 ただの…退屈凌ぎでしかなかったんだから‥」

きゅっと拳を握り込み、ソロは言葉を紡いだ。

「ソロさん‥、でも‥‥‥!」

「オレのコトはいいよ。とにかく、みんなはオレとピサロのコトなんて、知らないんだ。

余計なコトしゃべらないでね? ‥全部終わるまではさ。」

「はい‥承知りました。ですが‥ソロさん。                
承知り→わかり

 あなたは違うと仰るかも知れませんが…ピサロ様にとって、あなたが大切な方であった

事は確かなのです。どうか‥それだけは、汲んで下さい。」

「‥‥‥話はそれだけ? だったら、もう‥‥」

言外に退出を求めるよう含め、ソロが声を低めた。           
お暇→おいとま

「あ‥すみません。ソロさんもお疲れでしたね。…それでは、お暇させて頂きます。」

ロザリーが立ち上がると、控え目なノックが届いた。

小さな間の後、静かにノブが回り、扉が開く。やって来たのはクリフトだった。

「クリフト、お帰り。」

「あ‥はい…まだお話が済んでないようでしたら、また出ますけど?」

本を取りに戻っただけですから‥と、ロザリーに目を止めて、クリフトが微笑んだ。

「あ‥いえ。私は丁度お暇する所でしたので。すみません、気を遣わせてしまって‥。

 それではソロさん、クリフトさん、失礼します。お休みなさいませ。」

ぺこり‥と会釈を寄越し、ロザリーがクリフトと入れ違いに部屋を後にする。

「お休みなさい、ロザリーさん。今夜はあなたもゆっくり休んで下さいね。」

「はい、ありがとうございます。では‥」

扉を閉めながら、再度会釈を寄越したロザリーに、ソロが小さく返す。安堵したような

微笑を残し、彼女は自分に与えられた部屋へと戻って行った。



「お邪魔したのではないですか?」

「ううん。本当にもう帰るトコだったんだ。それよりごめんね、部屋を追い出しちゃった

 みたいでさ。」

「いえ‥それは全然構わないのですが。ソロ‥?」

スクッと立ち上がった彼に、どうしたとクリフトが訊ねた。

「オレも風呂行って来る。大浴場って、まだ使えたよね?」

「あ‥ええ。」

「じゃ、行って来る。クリフト、まだ寝ないよね?」

「ええ。待ってますよ。」

「うん。じゃ‥後でね!」

慌ただしく準備を整え、ソロが部屋を飛び出した。残されたクリフトがそんな姿に苦笑す

る。ロザリーとどんな会話があったか知らないが。平静ではいられないのだろう。部屋に

戻った時、その表情は少し沈んでいた。

ここしばらくは落ち着いた様子でいたソロだが、今夜は荒れるかな‥そんな事を思うクリ

フトだった。



「ただいま〜。」

やけに明るく風呂から戻ったソロは、片手に酒瓶を手にしていた。

「食堂がね、まだ開いてたから、これ貰って来ちゃった。明日はオフだし、飲も?」

「‥飲むのは構いませんが、それ‥ブランデーみたいですよ? ソロにはキツイんじゃ‥」

「大丈夫。だってこの前マーニャが言ってたよ。オレも強くなったって。」

「‥‥‥‥」

アルコール度数の低いカクテル2杯を越えると酔っていたソロが、先日3杯目でもケロッ

としていた。それを見たマーニャが揶揄かい交じりにそう話してたのは、隣で聞いていた

クリフトも確かに覚えている。が…

「…いつもあなたが飲んでる、甘いモノでもありませんよ?」

替えて来ましょうか?‥とクリフトが提案した。

「ううん、いいよ。クリフトはこっちの方が好きでしょ?  

 オレだって、こういうの飲みたい気分の時あるんだ。だから、これでいい。」

「そう‥ですか?」



水差しに添えられていたグラスにソロが持って来たブランデーをクリフトが注いだ。

グラスに半分も注がなかったが、それだけで普段のソロの許容はオーバーしているかも知

れない。水で割ることを勧めたクリフトだったが、普段ロックで飲んでるクリフトを見て

いるソロは、自分も同じでいいと譲らなかった。

「無理しないで、駄目そうでしたら薄めて下さいね?」

そう念を押して、クリフトはグラスを彼に手渡した。

自分の分のグラスを片手に、彼の隣へ腰掛ける。ベッドサイドに、並んで座ると、ソロは

早速と口に運んだ。

「…辛い。」

試すよう口に含んだソロが、顔を顰める。

「水‥足しましょうか?」

やっぱり…とクリフトが苦笑いを浮かべた。

「ううん…いい。」

まるで薬でも飲むように、覚悟を決めてコクンと煽る。

「うう‥辛〜い‥‥‥」

思い切り顔を歪め、うへえ‥と顰める。そんな姿にやれやれと肩を竦めながら、クリフト

もグラスを煽った。

「…美味しい?」

隣で顔色変えずに煽るクリフトに、上目遣いでソロが訊ねた。

「ええ。」

「そう‥かなあ…?」

自分のグラスの中の液体を回すよう揺らし、もう一度口を付ける。

「…なんか、火を飲んでるみたい。」

「薄めた方が飲みやすいと思いますよ?」

「だって‥。このまま飲んでみたかったんだもん。」

「もう十分でしょう?」

「駄目。これ全部飲むって決めたんだもん。」

「また変な意地を‥。困った人ですね。」

クリフトは肩を竦めると、ソロからグラスを取り上げた。

「あ‥クリフト、返してよ。」

「薄めず飲み干せればいいのでしょう?」

そう言うと、クリフトは彼のグラスを口に運び、ソロを抱き寄せた。

「ん‥ふ‥‥‥」

口に含んだ酒が、絡められた舌へゆっくりと移される。それを口腔で弄ばせ、口接けは更

に深まってゆく。じんわり広がる熱が喉を通ると、胃の腑がかあっと熱くなる。けれど。

それはどこか優しい熱へ変わっていた。

こくん‥と蜜ごと飲み干すと、唇が離れた。少々息の上がったソロが、ぼんやりした表情

で、クリフトの肩口に頭を寄せる。

「少しは飲み易かったですか?」

「‥うん。なんか‥甘かった‥かも。」

「もう一口飲みますか?」

「うん…頂戴‥」



「あの‥ね…」

そのまま房事へともつれ込んだ2口目。

その余韻に浸っていたソロが、彼の肩口に顔を埋めたまま、ぽつんと口を開いた。

「ずっと‥前にね。ロザリーヒルへ行った時‥

 オレ…ロザリーと逢ってたんだ。みんなと行った後に、独りで訪ねたんだけど…」

「‥知ってましたよ。」

「え‥?」

がばっと頭を上げ、ソロがクリフトの表情を覗う。彼はふわりと微笑むと、そっとソロの

髪に手を入れた。

「あの夜の外出がいつものとは違うと‥なんとなくですが、感じてました。」

「そう‥だったの。」

ぱたん‥とソロが再び頭を落とす。緩やかな仕草で髪を撫ぜてくる感触を心地よく思いな

がら息を吐くと、ソロは話を続けた。

「ロザリーがね、オレに話があるって言うから、オレ‥行ったんだけど。

 そしたらね…ロザリー、オレがピサロと‥その…すごく親しくしてるって勘違いしてて。

オレ‥違うって言ったんだけど。でも‥‥

 ピサロにとって、オレは大切な存在だって…今でも信じてるみたいなんだ。」

「ソロ‥」

「そんなのある訳ないのに。誰よりあいつに大事にされてるのは、彼女なのに。

 ‥ズルイよ…」

「ソロ…。ロザリーは何故、あなたと彼の事を? ‥全部知ってるのですか?」

「‥全部は知らないと思う。だってね、彼女‥‥」

ふるふると小さく首を振ると、ぽつっと何か言いかけて、逡巡したよう口を噤んだ。

彼の様子を覗うクリフトが、少し頭を起こすと、ソロは眉を寄せ奇妙な顔を浮かべていた。

「どうしたんです?」

「う‥ん。…あのね。‥‥ロザリー、オレのコト‥ずっと翠のウサギだと思ってたんだ。」

「翠のウサギ‥?」

「‥うん。なんかね、ピサロが曖昧に話すから、勝手にそう想像しちゃったって‥。

 だから…ロザリー、オレとピサロのコト、本当には解ってないと思う‥」

「翠のウサギ‥ねえ。それ程掛け離れては居ないみたいですけどね。」

クスクスと想像したのか、クリフトが笑い出した。

「なんだよぉ…。だから話したくなかったんだ。絶対笑うと思った。」

頬を染め、ソロがぷうっと膨れっ面で彼を睨む。やがて、表情を和らげると、こつんと肩

口に頭を戻した。

「…ありがとう、クリフト。側に居てくれて‥‥‥」

ぽつんと呟くと、瞳を閉じる。規則的に伝わる鼓動に耳を寄せていると、一気に眠気が襲っ

てきた。

「オレ‥いつか‥‥」

スウ‥と眠りに就いてしまったソロの髪を梳きながら、クリフトも瞳を閉ざした。

『いつか…』

その先に続いただろう言葉を浮かべ、自嘲気味に微笑う。

ソロの願い通り、デスピサロが悔悛するとは思えなくとも、『人間を滅ぼす』という野望

は捨てられるかも知れない。そうなった時――

ソロには彼との未来が拓かれるのだ。

それをソロが望むならば――

今この腕の中で眠るソロ。

なのに…その心はどこか遠くて。



願ったのは、笑顔。



それだけだったはずが‥



――その時が来たとき。自分はこの手を離せるのだろうか?



そう自問しながら、クリフトも眠りに誘われていった。