「‥う、痛た‥‥」

「大丈夫か、クリフト?」

「あ‥ええ。鷹耶が無茶するから…」

クスリ‥とクリフトが微笑んだ。

最近よく利用させて貰ってる見張り小屋で営んだ後、宿へ戻ろうかと身体を起こした彼

だったが、貪欲に鷹耶に貪られた躯が幾分悲鳴を上げていた。

「‥すまない。俺は‥お前に負担を強いてばかりだな…」

「‥え? 何言ってるんですか、らしくないですね。」

「そうか‥? …そうだな。」

苦く笑んで返した鷹耶がふいと視線を落とした。

「‥なにか、あったんですか? 今夜の鷹耶、変ですよ?」

案じるようにクリフトが訊ねる。

「‥‥‥。‥俺は‥随分強引に、お前を奪っちまった。俺の都合で勝手に‥‥!」

「鷹耶…。後悔‥してるんですか?」

「…かも知れねー。」

悔やむような呟きに、そんな応えが返ると思ってもいなかったクリフトは目を見開いた。

「僕は…」

言いかけて口を噤むと、乱雑な動作で服を着込み、クリフトがスクっと立ち上がった。

座り込んだままの鷹耶をきつく一瞥し、小屋をさっさと後にする。

「…今更だろうが‥。くそっ…」

残された鷹耶が、苦々しく顔を歪め吐き捨てた。

アリーナがクリフトへ想いを伝えた時、これまでの関係が崩れるかも知れない‥

そんな不安がふと過る。

彼女が本気で彼との未来を考えるならば‥身を引くべきは‥‥‥

ふつふつと沸き上がる迷いに、鷹耶は苛まれていた。





ザッザッ‥茂みをかき分け歩を速めたクリフトは、小道へ出た所で足を止めた。

追う様子も見せない鷹耶を振り返り、深く嘆息する。

「僕は‥後悔なんて、した事ないのに。」

そう呟くと、近くの樹木に身体を預け、涙を零した。

「…鷹耶の‥馬鹿‥‥‥」



一頻り泣いた後、顔を直したクリフトが宿へ戻ったのは一番鶏の鳴く少し前。

窓際のベッドで独り眠るピサロを起こさぬよう、こっそり部屋へ戻った彼は、一番奥のベッ

ドに向かい静かに布団へ潜り込んだ。

気が立ってたせいか、なかなか寝付けなかったが、空が白々明けてくる頃には、疲れも手

伝いスウ‥と眠りに落ちて行った。



(…鷹耶。結局戻らなかった…?)

昼近くに目を覚ましたクリフトが、真ん中のベッドに使われた跡がないのを見ると吐息を

吐いた。

今日洞窟へ向かうメンバーは既に出立している。

宿に残っていたのは、今日待機のマーニャとロザリーだけで、同じ待機メンバーのブライ

とライアンは外出中との事だった。鷹耶の姿は2人とも見てないらしい。

(どこに行ったんだろう‥)

昨夜の言葉に怒っていたはずなのに。こうして姿が見えないと気を揉んでしまう。

クリフトは無意識に、彼を探しに町へと飛び出して行った。





「‥鷹耶の話は解りましたけど。やはりきちんと彼の気持ちを確認するべきでは?」

肩へ落ちた長い金髪をかき揚げながら、青年が諭すよう口にした。

ここはエンドール。早朝から知人宅へ押しかけた鷹耶は、2人の仲を知る彼に相談を持ち

かけたのだった。鷹耶が旅立って間もない頃世話になった青年ルーエルに。

キッチンへ置かれたテーブルに、隣り合わせに腰掛けた鷹耶とルーエル。

すっかり冷めてしまったコーヒーを淹れ直そうと、彼が席を立つ。

鷹耶はテーブル上で組んだ腕の先へ視線を止めたまま、じっと考え込んでいた。

「あなたが言う程、一方的な関係だったとは、私には見えませんでしたけどね…」

何度か顔を合わせてるクリフトを思い出しながら、ルーエルが声をかけた。

「…けど。俺がちょっかい出さなけりゃ、あいつは‥‥‥」

「なんだ。まだグダグダ悩んでたのか、鷹耶?」

午前の仕事から戻った家主であるオルガが、呆れたように言うと鷹耶の髪にくしゃりと手

を置いた。

「‥んだよ。オルガ仕事行ったんじゃなかったのか?」

「昼飯食いに帰って来たんだ。お前も食ってくだろ‥?」

うざったそうに話す鷹耶に笑んで返し、彼は自分の椅子へ腰掛ける。

「え‥もうそんな時間か。」

「なんだ。ゆっくりして行けないのか?」

「あ‥いや。それくらいは大丈夫だけど。」

「置いて来た彼氏が気になるか‥?」

「別に‥んなコト…。」

「‥まあなあ、お前の気持ちも判らんでもないが。

 やっぱり問題なのは、お前の方だと思うぜ?」

朝早く訪ねて来た鷹耶に、大まかな事情を聞いていたオルガが率直に話した。

「ここでグダグダやってる時間あるなら、ちゃんと向き合えって。」

「うるせーなあ。俺はルーエルに相談に来てるんだ。オルガの意見聞きに来たんじゃねー。

ほっといてくれよ。」

「ほう? ここの家主は俺なんだがなあ‥。可愛げないコト言ってると泣かせるぜ?」

泣き顔は可愛いかった‥などと揶揄かいながら、オルガが人の悪い笑みを浮かべる。

「あーもう。ルーエル、こいつ黙らせてくれよ。」

初めてエンドールへ着いた時、一方ならぬ世話をかけてしまったオルガには適わぬ鷹耶が

唸り、頭を抱えた。

「ふふ‥私も見たかったですね。鷹耶が泣きじゃくった顔。」

「あんたらなあ‥」

コーヒーのお替わりを彼に差し出したルーエルが、顔を近づけ悪戯っぽい瞳を見せた。

その瞳にちょっぴり本音が見えて、鷹耶は出されたコーヒーをぐいっと一気に煽る。

「これ以上居ると遊ばれそうだから帰るわ、俺。」

そう言うと席を立ち上がった。

「いろいろ聞いてくれてサンクスな。」

「鷹耶。」

部屋の戸に手をかけた彼の背にオルガが声をかけた。

「またいつでも来い。幾らでも相手してやるぞ。」

「…あんたが言うと、身の危険感じるなあ。」

「私も大歓迎ですよ。」

いつでもおいで‥そう言いながら微笑む彼に、鷹耶も柔らかな笑みを見せる。

「2人ともサンキュ‥。頼りにしてる。じゃ‥な。」





「鷹耶…。姿が見えないと思ったら、他所へ行ってたんですか?」

ゴッドサイド。町の入り口へルーラで現れた彼に、やって来たクリフトが声をかけた。

「ああ‥まあな。」

どこか拗ねた様子のクリフトを窺いながら、鷹耶が短く答える。

「‥どちらへ?」

「…エンドール。」

「エンドール? …彼らの所ですか?」

買い物へ出掛けたようには見えない‥だとしたら、わざわざ訪ねる知人は限られる。そう

判断したクリフトが眉を寄せ確認した。

「‥ああ。ちょっと…相談があってな。」

「…そう、ですか。僕には何も話してくれないけれど。彼らは頼られてるんですね‥」

きゅっと拳を握り込み、声を堅くしたクリフトが嘆息する。

「クリフト‥」

「それとも。昨夜言ってた後悔というのは、それでだったのですか?」

「え…」

悔しげに歪んだ表情は、哀しみを堪えるようで、鷹耶は何事かと目を丸くした。

「僕は結局、あなたの寄り所として不適格だった…そういうことでしょう?」

「な…!? なんでそんな話になるんだ!? 俺はただ‥‥」

「もういいです。後悔‥してるんでしょう? だったら‥きっぱり終わらせましょう。」

「クリフト!? ‥‥そうだな。一度‥ゼロにした方がいいのかも知れないな。」

感情を乗せないよう静かに言葉を紡ぐクリフトに、慌てて彼の肩を掴んだ鷹耶だったが、

大きく嘆息した後、掴んだ腕の力を緩め、吐き出した。

クリフトの顔からサッと血の気が引く。

「…今夜から、個室を別に頼みます。‥簡単に割り切れそうにないですから。」

顔面蒼白になりながら、それでも平静を装い彼が告げた。

「…解った。」

鷹耶の言葉がただ記号のように頭へ入り込む。

もう用件は済んだのだと、機械のように分析すると、クリフトは踵を返した。



てくてくと、歩を繰り返すうち、ぽたりと地面に滴がこぼれ落ちた。

何故そんなやりとりになってしまったのか、クリフトには解らない。

ただ…終わりとは、こうも唐突に訪れるものなのだ‥と、世界から切り離されてしまった

ような孤独感にクリフトは見舞われていた。



呆然と立ち尽くしたまま、クリフトの背を見送る鷹耶。

『終わらせましょう』

その言葉は鋭く深く鷹耶を貫いた。

だが、あまりの痛みに呻く胸中のどこかで、昨夜から苛んでいた不安が和らぐのを感じ、

気がつくと、承知の言葉を紡いでいた。



――終わりになどしたくないのに‥!!



アリーナが本気でクリフトを想い、告白した時‥彼の気持ちへの枷となる訳にはいかない。

鷹耶はそう考えていた。

自分との事があるから‥と、ずっと想い続けた恋が実る好機を逃すようになってはならな

いのだ…と。それは最初に決めていた覚悟だったから。



「…自信ねーんだよ‥」



ぽつん‥と鷹耶が呟いた。

彼にとって、自分と居る方が倖せなのだと言い切れる自信がないから…

だから‥‥



――解放、してやるよ。



[倖せ]は突然壊れるものだから。



深く刻まれた喪失感が鮮明に蘇る。緑の原に変わりつつあるだろう故郷が…



「…大丈夫。最初に戻っただけだから‥」



鷹耶はハラリと零れた涙を乱雑に拭うと、腰の剣に手をかけ、そのまま町の外へと飛び出

して行った。






2006/1/2


             

あとがき

まだ続く予定ですが、キリがいいのでごあいさつ。
新年早々、別れ話ですみません(++;
元々その予定は最初からあったのですが、2人ともすっかりラブラブで、半分諦めてました。
なのにまあ…後半急展開、一気にそっちへ向かってしまいましたわ(@@;
すれ違い・・ってやつですけどね。

まあ、このままにはならないでしょうが。
どんな方向へ向かうコトやら(^^;
ここのぴー様も、さりげに勇者くんに興味津々みたいだし?(^^
さてさて…


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