「あーやっぱり、地上はいいわねえ‥!」

う〜んと伸びをして、アリーナが顔を綻ばせた。

一行は彼らの元から地上‥ゴットサイドへ移動した。真っ先に馬車から降りたアリーナに

続いてメンバーが続々と大地を踏み締める。

「本当、空気が違うわよね。」

「そうだね。やっぱり落ち着くよね。」

体を解す仕草で話すマーニャに、ソロが続いた。

「そうそう。流石にあいつらとの連戦は堪えたわ。

 あー温泉にでも浸かってのんびりしたいっ!」

ふんわり笑うソロの頭を撫ぜながら、マーニャが楽しげに零す。

「温泉いいですねえ。キツイ戦いが続きましたし。」

「温泉かあ‥。そうだね、みんな大変な連戦終えたばかりだもんね。明日はオフとして…

 折角だし、温泉のある町でのんびりしようか。」

トルネコの言葉に頷くブライや女性陣を眺めて、ソロが一同を見渡した。

ぱあーっと表情が輝くのを見て、ソロが「決定だね」と笑う。

「じゃ‥移動するから、みんなもう1回馬車に乗ってくれる?」

そう促して、ソロが移動呪文を唱えた。



やって来たのはアネイルの町。

温泉の町として有名なこの町へ初めて立ち寄ったのは、まだ旅を始めて間もない頃だった。

「じゃあ‥明日の晩ミーティングして、今後の予定詰めるってコトで。今日は解散ね。

 本当に疲れたでしょう? ゆっくり休んでね。」

宿のホールでそうソロが伝えた所で、一行は散会した。



「う〜ん、美味し〜。」

部屋に荷物を置いたソロ達は、空腹を訴えた彼に付き合う形で、まず食堂へ向かった。

やって来たパスタをほおばりながら、ソロが舌鼓を打つ。

「ふふ‥。朝よりずっと元気になってるようで、安心しました。」

「うん。なんかね、あの結界ってさ、ほら‥地下遺跡の魔法陣みたいな感じで。消耗した

 体力と魔力、回復したみたいなんだ。」

「朝と全然顔色が変わってますからね。彼らは最初からその為に、ソロをメンバーから外

 して下さったのかも知れませんね。」

「…うん、かも知れない。でもさ、オレが抜けても、全然関係なかったみたいに、みんな

 すごかったね。連携とかもバッチリでさ。気合入ってた‥っていうか‥」

「ふふふ…彼らがソロまで景品にとか言い出したので。あの目茶苦茶さなら、本気でやり

 兼ねない方達だけに、皆焦りましたから。ね、魔王さん。」

「‥本当に。奇妙な連中だったな。聞いていた以上に訳判らん。」

「ふふ‥本当にね。変わってるよね‥。でも‥ピサロは剣と盾を手に入れられたし。

 奴との決戦前に、いい経験だったんじゃないかな、みんなにも。」

苦い顔を浮かべるピサロに小さく笑って、ソロがそうまとめた。

「あら‥ソロ。先にこっち来てたんだ。温泉、すごく気持ちいいわよ〜。」

マーニャ・アリーナ・ミネアの3人が、食堂へ立ち寄り声をかけて来た。

「オレお腹ぺこぺこでさ。クリフトもピサロも付き合うって言ってくれたんだ。」

「そう。朝は顔色悪かったけど、調子戻って来たみたいね、良かった。お腹満たしたら‥

 温泉で疲れとっていらっしゃいよ。」

「あ‥うん。‥‥でも‥」

「はい、これ。宿の人に聞いたらね、貸し切り風呂のある部屋が空いてるって。だから、

 あなた達の部屋変えて貰えるよう話したの。」

「え…?」

「部屋の移動済ませたら、今使ってる部屋の鍵を帳場へ持って来て下さいって。」

「勝手に決めて気を悪くした?」

気遣うように訊ねて来るミネアに、ソロがブンブンと首を振る。

「ううん。ビックリしただけ。…ありがとう。」

誰が訪れるか判らない大浴場は最初に諦めていたソロだったので。彼女らの気遣いが嬉し

く、ソロは差し出された鍵を大事そうに受け取った。



「うわあ…すごいや。温泉だよ、温泉。温泉付きの部屋なんて‥すごいのあるんだ…」

早速移った離れにある貸し切り風呂付きの部屋。

ソロはまっすぐ風呂場を目指すと、露天風呂を眺め、感嘆の声をあげた。

「はあ‥本当に。これは思っていた以上ですね。ふふ‥よかったですね、ソロ。」

「うん! こんな広いお風呂貸し切りなんて、贅沢だねv」

大浴場に比べたら小ぶりではあるが。普通の部屋風呂の数倍ある、ゆったりした岩風呂に、

ソロはワクワク顔で答えた。

「ふむ‥確かにな。人間の宿はどこも変わり映えないものかと思ったが。これは良いな。」

にんまりと満足顔で笑むピサロが、ソロを背後から抱きしめた。

「な‥何?」

「風呂場で服は邪魔だろう‥?」

耳元で囁きかけながら、上着の裾から手を忍ばせてゆくピサロ。

「ち‥ちょっ、ピ‥サロ。ダメ‥だって…」

悪戯な手をどうにか払って、ソロがピサロと向き合い距離を取る。

「オレ、温泉ゆっくり入りたいっ。だからえっちは禁止! いい?」

キッと魔王を睨みつけて、ソロがしっかりクギを刺した。

あからさまに落胆した顔で、ピサロが恨めしげにソロを見る。

「連日の戦闘でフル活動させられた私に、何の労いもくれないのか、お前は?」

「…う。‥お風呂の後なら‥いいよ。付き合うよ。だからさ、温泉はゆっくり浸からせて!?

せっかく広いお風呂なんだもん。のんびり楽しみたい。」

「ソロは賑やかに過ごす大浴場が好きでしたものね。」

「うん。いろんなおしゃべりしながら入るのって、楽しいもん。」

隣に立ったクリフトに、にっこり話しかけられて、ソロも嬉しげに笑い返した。




「ね、ね、オレが2人の背中、流してあげるよ。連戦を労ってさ。」

洗い場で身体を洗い始めたピサロとクリフトに、ソロがはりきり声で話しかけた。

「‥では、ピサロさんからどうぞ。今回の戦闘の最大貢献者ですから。」

一瞬お互い顔を見合わせて、クリフトが笑顔で譲った。

「じゃ、クリフトは後でね。」

コックリ頷いたソロが、にっこり話してピサロの方へと移動する。

「う〜ん、この髪邪魔だなあ…」

ピサロの背後に膝立ちしたソロが、洗い立ての銀髪を眺め、ぽつんと呟く。

「ねえねえ、結わいてもいい?」

「‥好きにしろ。」

「うん、そうする。…ふふ。なんか、変な感じ。」

身を預けてくる魔王の背中を見つめながら、ソロがクスクス笑って、長い銀髪を束ねてゆ

く。不器用な手つきで三つ編みを完成させると、クルッと捻って髪止めで固定させた。

「これで準備OKと。じゃ、ピサロ。それ貸して。」

身体を洗っているスポンジを指すソロに応えて、泡立ったそれをピサロが渡す。

広い背に、ソロは早速スポンジを滑らせた。

「‥そーいえばさ。オレ‥ピサロの背中流すのって、初めてだよね?」

「ああ‥そうだな。逆は何度もあるがな‥」

フッと口元を和らげるピサロに、ソロが頬を染める。

「半分眠ったままだったり、疲労しきってたり。今日は随分元気だが。」

「…だって。狭い部屋風呂で一緒する時は、大抵えっちの後だもん。仕方ないだろ。」

「まあ‥確かにな。」

一通り洗い終えた様子のソロへと振り返ったピサロが、すっと手を彼の頬へ当てた。

「こういうのも‥確かに悪くない。」

「えへへ‥。そうでしょ? …じゃ、ピサロはこれで終わりね。」

柔らかな眼差しに、ソロが羞耻んだように笑って、スポンジを返すと立ち上がった。

そのまま今度はクリフトの背後に回って、膝を折る。

「クリフト、お待たせ。」

「それじゃ‥お言葉に甘えさせて頂きます。」

スッと差し出された手にスポンジを手渡して、クリフトが微笑んだ。

「うん。クリフトとも、こんな風に入るの久しぶりだよね。」

「そうでしたね。後でソロの背も流してあげますね。髪もついでに洗いましょうか?」

「私がやっても良いぞ?」

1人分間を置いた隣で石鹸を洗い流していたピサロが口を挟む。

「ソロが選んでくれて良いですよ?」

2人を見比べ迷っているソロに、クリフトが声をかけた。

「…オレ、クリフトがいいかな。」



朝とは打って変わって元気な様子を見せるソロが、華やいだ声でクリフトと語らっている

のを聞きながら、ピサロは一足先に湯船へと浸かった。

『愛が薄い‥』

踊り子の言葉がふと頭に浮かんで、眉間の皺が深くなる。

まあそれでも、明るく楽しげなソロの声を聴いてると、安堵の吐息がそっとこぼれる。

あの不思議な洞窟の最深部で。変わった住人との戦闘を終えた後の、ソロの消耗具合は、

かなり深刻に思えた。が‥その住人達が用意した結界の効果で、そのダメージもすっかり

回復したようだ。後は、邪神官との決着までに、どれだけ萎えたスタミナをカバー出来る

ようになるかだが…

「ピサロ。何難しい顔してんの?」

全身を洗い終えたソロがクリフトと共に湯船へやって来ると、声をかけた。

「‥別に。待ちくたびれてただけだ。」

「ふうん‥。」

しゃがみ込んだソロは、湯加減を確かめるよう手を入れた後、彼の隣に身体を沈ませた。

「あ〜気持ちいい。癒されるね‥」

う〜んと手を天に伸ばして、くつろいだ表情でソロがほっこり話す。

「本当ですね。いいお湯です。」

ソロの隣に腰掛けたクリフトが、彼へと微笑みかけた。

「クリフトはさ、アネイルに来た事あるの?」

「ええ。立ち寄りましたよ、一度。砂漠越えの後にね。」

「ああ、やっぱり。同じ道通ったんだ、オレ達と。」

「そのようですね。」

「ソロがこの町へ寄った時には、まだ神官は一緒ではなかったのだな。」

にこやかに話を弾ませるソロとクリフトに、ピサロも加わる。

「あ‥うん。この町へ寄った時のパーティは…オレとマーニャとミネア、それからホフマ

 ンが一緒だったかな。ホフマンとは砂漠越えの時知り合ってね、メンバーが増えてくれ

 たおかげで、オレ、女の子部屋から出られたんだ。」

「女の子部屋?」

「ミネアとマーニャ。3人だとさ、もったいないからって、1部屋しか頼まないんだもん。

そのせいか、宿の人にオレ、何度も女と間違われたんだ。」

当時を振り返って、顔を顰めるソロに、ピサロとクリフトがくつくつ笑う。

「もお、笑い事じゃないんだよ? なんかさ、女の子と居ると、大抵そう見間違われるの。

前にミントス寄った時だって…」

「ああ‥、ナンパがすごかったって、アレですか?」

「うんそう‥って。あれ、クリフトに話したっけ?」

「なんだ? ナンパとは?」

ムム‥と顔を顰めさせ、ピサロも訊ねる。

「‥アリーナとミネアと3人でね、美味しい甘味の食べ歩きした事があるんだけど。

 なんかさ‥やたらと声をかけられてね。うんざりさ。ヘラヘラ笑って近づいて来て‥」

「ミネアさんが随分辛辣に撃退なさったとか。」

「うん。なんかすごく頼もしかったよ。ああいう所は、マーニャに似てるんだな‥って。」

「確かに‥あの占い師の娘も、情が強いようだな。…このパーティの女共は皆逞しい。」

「ふふ‥そうだね。」                 強い→こわい



取り留めない会話を楽しみながら、のんびり湯船に浸かって。しばらくした頃‥

「そろそろ上がります。」

立ち上がったクリフトがそう話すと、湯船に足を浸からせていたソロも立ち上がった。

「え‥クリフトもう上がるの?」

「ええ。やはり連戦は堪えたみたいなので‥先に休ませて貰ってますね。」

「そっか‥。うん、ゆっくり休んで。」

「ソロも‥あんまり長湯しないようにね。」

「うん…ん‥ふ‥‥‥ぁ‥」

額を合わせるように囁いた後、降りた口接けは、思いのほか深かった。

「それじゃ、魔王さん。後はよろしくお願いします。」

頬を染めたソロにふうわり笑んで、クリフトは苦い顔のピサロに声をかけた。

湯から上がるクリフトの背をぽーっと見送ったソロの背後でざっと湯が波立つ。

「ソロ、我々も上がるか‥?」

「ピサロ…。」

「それとも‥ここで始めても良いか?」

背中から抱きしめて、ピサロがそっと耳元で囁いた。

「…もぉ。どっちにしても、やる気満々じゃん。…ピサロは疲れてないの?」

「だから労いが欲しいのだろう? …いい加減お預け解除してくれぬか?」

乞うように言われて、ソロは彼の腕の中で身を捻らせ瞳を交わす。

「‥オレも。あんまり余裕ないかも‥。」

さっきの口接けですっかりスイッチオンになってしまったソロが、熱っぽく微笑む。

そのまま緩く彼の首に腕を回すと、互いに吸い寄せられるよう唇が重ねられた。