「こら、マーニャ。」

 洞窟に入った途端、鷹耶が切り出した。

「あん。なによ?」

「お前ピサロに妙なコト吹き込んだろ?」

「妙‥?」

「だぁれが、漫才コンビだ!?」

「ああそれ。事実を述べたまでじゃない。」

悪びれずマーニャが答えた。

「ねえ、ぴーちゃん?」

続けて言いながら、彼女はピサロに話題を振った。

「‥女。その呼び方はなんだ!?」

「あら。気に入らない? いつまでも人の事[女]呼ばわりするより可愛いでしょ?」

「おう。ぴったりじゃねーか。ぴーちゃん。」

「鷹耶さんまで…。」

 洞窟内を進みながら、昨日とは打って変わった空気が流れるのを、別の意味でハラハラ

しながらクリフトが嘆息した。

「…人が生まれた時から持つ名は、その者と共にある。その者自身なのだ。だから囚わ

  れてしまう。それは本意ではないからな。」

「なによ、それ…?」

訳が解らないと言った面持ちで、マーニャがピサロを窺う。

「チャームを知らぬか?」

「それって‥魅了してしまうとか言う…本当にある魔法だったんですか?」

クリフトが意外そうに訊ねた。

ピサロは口の端を少し上げて返事をすると、マーニャに向き直った。

「女‥それでもいいのか?」

「‥‥‥」

「おい! お客さんが早速やって来たぜ。」

マーニャの答えを待たず、鷹耶が戦闘準備を促した。



じごくの番犬2頭は、彼らの前までやって来ると果敢に攻撃を仕掛けて来た。

鷹耶・ピサロがそれぞれの相手を引き受ける。後方から、クリフト・マーニャが援護の

タイミングを見計らっていた。

「おい。さっきの話‥本当なのか?」

 剣で応戦しながら、鷹耶はピサロに話しかけた。

「その‥魅了ってやつ。」

「…まあな。」

「そんなに効くのか?」

「ザラキと変わらんな。」

「効く奴と効かない奴がいるって事か。だがそれじゃ‥魔法の効果かどーか、判断着か

  ねーだろ?」

「それは言えるな。」

戦いながら会話を続ける2人。じごくの番犬はいいようにあしらわれていた。

「…なんかさ。あたしらの援護、いらなさそうだね。」

マーニャがそんな事を零しながら、楽しげに映る2人を追う。

「…ですね。」

いつもと変わらぬ鷹耶の姿にほっとしたクリフトが答えた。



「‥なんなら試してみるか? 鷹耶。」

ピサロは相手をしていたじごくの番犬が倒れると、余裕たっぷりな微笑を彼へと向けた。

「あ。鷹耶さんが剣を落とした!」

 後方で戦いの様子を覗っていたクリフトが、前触れなく剣を落とした鷹耶を意外そうに

見つめた。

「…っつーか。固まっちゃったね? どうしたのかな?」

前方の会話が届かずにいる2人が首を傾げる。

結局。そのままフリーズしてしまった鷹耶に代わって、ピサロが残る1体を片付け戦闘

は終了した。

「鷹耶さん! どうしたんですか!?」

 慌てて駆け寄るクリフト。

「鷹耶さん‥?」

クリフトが彼の肩に手を乗せると、その身体がわなわなと震えているのが伝わった。

「ピサロ!! お前っ、二度と俺を呼ぶなよ!」

「クックック‥。気をつけよう。」

真っ赤な顔で怒鳴る勇者に興が乗った様子のピサロが、いつになく楽しげに笑った。

「なになに? どうしたのよ、一体!?」

「…なんでもねーよ。先に進むぞ。」

興味津々なマーニャを無視して、鷹耶はスタスタ歩きだした。

「おいピサロ。こいつも呼ぶんじゃねーぞ。解ったな!?」

隣に居たクリフトの肩を抱きながら、鷹耶がピサロに念を押した。

「鷹耶さん‥? あの‥‥‥」

「いいから、行くぞ。今日は先が長いからな。」          承知り→わかり

「はあ‥。承知りましたから‥その。腕‥外してくれませんか?」

いつまでも肩に腕を回された状態に、落ち着かないクリフトが申し出た。

「や・だ。いいじゃん、これくらい。」

「じゃあ、教えて下さい。さっきはどうして剣を落としたんです?」

「クリフト‥。」

「僕には聞く権利あるかと思いますが? さっきもなにか念押ししてましたよね?」

「…お前。手強くなったな?」

「おかげさまで。」

苦く微笑う鷹耶にクリフトがにっこりと返す。鷹耶はそっと彼を抱き寄せると耳打ちした。

「後でな‥」



「ねえぴーちゃん。…もしかして、鷹耶の名前呼んだとか…?」

マーニャがピサロに歩み寄ると訊ねた。

「‥‥‥。成る程。勘はいいようだな。」

「ふふーん。本当だったの、あれ?」

「お前も試してみたいか? あいつはお前には試すなと禁じなかったぞ?」

「とりあえず遠慮しとくわ。あんた、タイプじゃないし。」

「賢明だな。」

「そうそう。ミネアやアリーナも駄目よ。あたしより彼女達の方が心配だわ。」

「子供は範囲外だ。」

「ふうん。で。彼らは‥?」

マーニャが前方をなにやら話し込みながら歩く2人を指した。

彼女の質問に愉しそうに笑んで返すピサロ。

「ふうん。それはそれは‥。でもさ。ロザリーが居るのに…?」

「あれはまだ‥子供だからな。」

「ええっ!?」

マーニャが素っ頓狂に声を上げたので、一同の視線がそちらに向いた。

「なんだ? どうした?」

「いや‥ぴーちゃんがね、ロザリーはまだ子供‥って。ちょっとビックリしちゃって。」

「なんだ、そりゃ?」

「彼女はお前達より長く生きてるが、エルフは人間より遥かに永い時を生きる。まだ成

  体にはなって居ないのだ。」

「へえ〜意外。あたしはてっきり‥‥‥。」

「本当に驚きましたね。ロザリーさんて、人間の年齢だと幾つくらいなんですか?」

「あの娘と似たようなもんだろう。サントハイムの…。」

「ははあ。言われてみると、確かにそれ程意外でもないですね。」

呑気な会話はそこまでで。

 戦闘モード突入。

一旦戦闘が始まると、ほとんど立て続けに魔物と遭遇してしまった。



「はあ‥はあ‥。ようやく静かになりましたね。」

 分岐ごとに魔物に襲われていた一行だったが。拓けた場所で襲いかかって来たサンダー

サタンをやっつけた後、ようやく訪れた静寂にホッと息を吐いた。

「まあでも。大分慣れて来たわよね、コンビプレイ。」

「そうですね。この調子なら予定をクリア出来るかも知れません。」

「そうだな。戦闘が重なった割に魔力の消耗少ないしな。とりあえず落ち着けそうな場

  所に入ったら、休憩して先進もう。」



しばらく進むと、張り出た岩だなが天然のベンチを作り出してる場所へ出た。

「ねえ。ここでいいんじゃない? 囲まれない場所だしさ。」

「ああ‥そうだな。んじゃ、ここで昼にするか。」

カーブがかった岩だなに、鷹耶・クリフト・マーニャ・ピサロの順で腰掛けて座ると、

昼食を取りだした。

携帯食は各自少しづつ持ってはいるが、昼用の弁当はマーニャとクリフトが分担して

持っている。それぞれ腰に括りつけた袋から弁当を取り出した。

「ああ。かさ張ると思ったらサンドウィッチだったんですね。豪華だなあ。」

大きめのボックスを開けると、クリフトが率直な感想を口にした。

洞窟に持って行く弁当といえば、パンと干し肉が基本。手間をかけた料理など、まず考

えられなかった。なんせ。冒険中は皆が戦闘要員なのだから。

「アリーナが張り切ってたからね。早起きして作ってくれてたみたいよ。」

「アリーナ1人で作ったのか?」

彼女の料理に何度も気が遠くなった鷹耶が苦い顔をした。

「ふふふ‥。トルネコ中心に、ミネアとアリーナがお手伝いしたそうよ。」

「はあ…。なら大丈夫だな。

ミネアとアリーナだけだったら…俺は携帯食で我慢したぜ?」

どちらも独創的な調理法を披露してくれるので、普段から食事当番はパーティの中でも

料理が上手いメンバーと組ませる事を怠らないでいる鷹耶が、ほっと息を吐いた。

「はい、ぴーちゃんもどうぞ。」

 マーニャが隣に座るピサロに、開いたボックスを見せるように差し出した。

「ちょっとしたピクニック気分だな。背景がなんだけど。」

クリフトが持つボックスからサンドウィッチを摘みながら、鷹耶が笑った。

ピサロはマーニャに怪訝な表情を返しつつも、黙ってサンドウィッチに手を伸ばす。

どうやら[ぴーちゃん]で定着されてしまったようだ。

「確かにピクニック気分よね。せめて昨日休憩とった場所くらい明るければ、気持ちも

  弾むんだろうけどさ。」

「まあな。けど‥こうして差し出された弁当食ってると、熱々カップルデート中v‥

  みたいに思えて来るぜ♪」

「なんですか、それは?」

呆れたようにクリフトが言った。

「はいはい。あんたらが相変わらずなのは解ったから。戦闘中は真面目にやってよね?」

「失礼だな。俺は戦闘中に限らず真面目だぜ?」

「あら。知らなかったわ。クリフト知ってた?」

「‥いえ。」

クリフトが小さく苦笑った。

「ひでぇな。クリフトまで。俺をいぢめて楽しいか?」

「あら解る? 昨日心配させた罰よ。」

「それでしたら。これじゃ温いのでは?」

「クリフトぉ〜。お前マーニャの味方か?」

「この件に関しては。」

「クスクス‥。本当相変わらずねえ‥。ぴーちゃんも気をつけないと、アホが伝染るわ

  よ?」

「こら待て。マーニャは俺達を誤解してないか?」

「あら。理解してるのよ。とってもね!」

マーニャの言葉にピサロが頷いた。

「…どうしてそこで、お前も頷いてるんだ?」

「言い得てると思ったからな。」

食事を終えた様子の彼がニヤリと笑んでみせる。

「ピサロ。お前‥涼しい顔してるくせに根性悪いな。」

「貴様らに合わせてやってるだけだが?」

「ふふふ‥。意外に付き合いいいんだ、ぴーちゃんて。」

 笑顔を見せるマーニャに、ピサロは押し黙ると、そのままそっぽを向いてしまった。

鷹耶とクリフトが顔を見合わせる。どうやらこの中で、一番食えないのはマーニャらし

い。二人は苦笑した後、新たなからかいの対象を得て満足気な彼女を見つめた。