「よかったですね、ソロ。」

「‥クリフト。…うん、ありがとう。」

その夜。寝室から出て来た2人をクリフトがにっこりと出迎えた。

気恥ずかしそうにしたソロが俯く。

そんな彼の頭を撫ぜて、ソロの後ろに立つ魔王へも笑みを送ると、クリフトは彼らをテー

ブルへと招いた。

「うわあ‥すごいや! ごちそうだ!」

居間のテーブルに並べられた彩り豊かな食卓の風景に、ソロが感嘆した。

夕食‥というより、これからパーティでも始まりそうな、そんな料理が盛られた皿達。

その中央には主役とばかりに、真白な粉砂糖で飾られたパウンドケーキが、で〜んと置か

れている。

「今夜はお祝いですからね。ちょっとはりきって見ました。

 まだアルコールは避けた方が良いでしょうけど。これならソロも食べられるでしょう?」

にっこり話すクリフトに、ソロはこっくり頷いて、嬉しそうに頬を緩めた。

「ありがとうクリフト。オレ‥すごく嬉しい。」

喜ぶ彼の頭に、ぽむ‥と大きな手が乗せられる。ふと仰ぎ見ると、ピサロが優しく微笑ん

だ。それにつられたように、ソロもふうわり笑う。

そんな風に始まった食事は、華やいだ雰囲気も手伝ったようで、ソロの食欲を刺激してく

れた。



「クリフト、これ美味しいよ。」

ぱくんとほおばったケーキを味わいながら、隣に座るクリフトに、にんまり笑顔を見せる。

優しい甘味が口の中にじんわり広がる度に、ソロは「美味しい」を繰り返した。

「‥でも本当、クリフトすごいよね。なんだかお菓子屋さんひらけそうだ。」

ここに居る間に修得してしまったレシピが並んだテーブルを眺めて、ソロがほう‥と吐息

をつく。そのままこて‥と彼へもたれ掛かって、反対隣へ座る魔王へ目を移した。

「ね、ピサロもそう思わない? クリフトのお菓子、美味しいもんね。」

にこにこ話すソロに、ピサロがちょっぴり眉を寄せて、徐に咳払いをする。

「料理の評価はともかく。‥ソロ。

 これが婚約祝いの宴だと、忘れそうになるのは何故だろうな?」

苦くしゃべる魔王に、神官が気の毒そうな表情を作って。ソロは思い出したよう目を丸く

した。

「‥えへへ。…だってさ。なんか‥落ち着かないんだもん。」

そう言って、ソロがそおっとピサロの腕に手を回し、寄り添った。

「…オレ、こんなの貰えるなんて‥考えてもみなかった。」

薬指に輝くリングを見つめ、熱っぽい吐息交じりに呟き落とす。

「‥お前は幾ら言葉を贈っても、忘れてしまうみたいだからな。

 それなら‥見る度自覚も沸くだろう?」

そっと翠の髪を梳って、ピサロが柔らかく諭すような口ぶりで紡ぐ。

「お前は私のものだ‥」

「…うん。ずっと一緒で‥いいんだよね?」

こつん‥とピサロの胸に顔を埋めて、ソロがひっそり確認する。

「ああ。忘れるな。」

コクン‥頷いて、顔を上げたソロがピサロに笑いかけた。

「じゃあね、ピサロも一緒にケーキ食べる?」

テーブルへと向き直ったソロが、食べかけのケーキの乗った皿を寄せ訊ねた。

「本当に美味しいよ?」

そう言って、フォークを握った彼が一片差し出す。

「‥やっぱり、いらない?」

甘い菓子は苦手だと言った言葉を思い返して、ソロが手を引っ込めかけた。

(どうやらこれは試練らしい‥。)

ぽそっと思ったピサロが、その腕をぐっと掴み、自らの方へ引き寄せ口元へ運ぶ。

ぱく‥っと口に含むと、ソロは嬉しそうに微笑んだ。

(酷く甘い…)

「…美味しい?」

ドキドキ訊ねるソロに、嚥下したピサロ微かに頷く。

「ね‥本当でしょ? 食べないの、勿体ないよ。」

にこにことソロも一片ほおばって、もぐもぐと味わった。

「‥もっと食べる?」

「…お前が寄越すなら‥な。」

半ば諦めたように、ピサロが妥協した。ソロ仕様の甘味は、はっきり言って甘過ぎる。

だが‥ソロが笑顔で側に在る方が大事な魔王さまだ。



魔王にはちょっと胃に重い夕食も和やかに進み、ソロは終始機嫌良く過ごした。



「おや‥ソロは眠ってしまったんですか?」

華やいだ夕食の後。食堂に飲み物を取りに行っていたクリフトが戻ると、ソロはピサロに

もたれ掛かって、すやすや寝息を立てていた。

「貴様を待つのだとがんばっていたがな。疲れが勝ったらしい。」

「今夜は食も進んでくれましたしね。…本当に、よかったです。」

盆をテーブルに乗せ、クリフトがソロの隣へと腰掛ける。

「‥ああ。そうだな。」

彼の視線の先にあるソロの寝顔へピサロも目を移して、ふ‥と目を細めた。

手にしたグラスの酒を空けて、手酌でおかわりと注ぐ。ついでに‥と新しいグラスにも酒

を注いで、ピサロがクリフトへ差し出した。

「‥少し付き合え。」

「…はあ。いただきます。」

物珍しげに彼を窺った後、クリフトがグラスを受け取った。

琥珀の液体をゆっくり味わうクリフトを見届けた魔王が、思い切ったよう口を開く。

「…貴様には、本当に世話になった。」

「ピサロさん‥」

「今度の件だけではない。…ソロの事。どれだけ貴様が心砕いてきたか‥

 支えてやってくれたのか…それが、よく解った。

 ‥素直に感謝する、クリフト‥。」

「ピサロさん‥。そう直球で来られるとは…。

 もしかして、結構飲んでいらっしゃいます?」

まっすぐな視線に苦笑いしながら、クリフトが茶化す。余り顔色に変化はないようだが。

酔いが回ってるのだろうか‥?

「‥まあな。だが‥飲まれた訳でもないぞ。今宵は気分が良いから特別だ。」

「‥そうですか。それはまあ‥良かったですね。」

ふん‥と存在に言い捨てるピサロに、クリフトも適当に返した。

「貴様が何を考えてるのか、理解出来ぬが。それでも…

 認めねばなるまい? 貴様が確かな支えである事をな。だから―――」



翌日。

朝目を覚ましたソロは、昨日までと変わらずに、両隣で眠る2人を確認し、安堵の吐息を

もらした。

昨晩『婚約のお祝い』を受けながら、漠然と感じてた不安――

それが杞憂に終わって、知らずこぼれる吐息。

「‥おはようございます、ソロ。」

すっと伸びた手がソロの頬に触れて、柔らかな声音が届いた。

「クリフト…おはよう。」

一瞬泣きそうになりながら、ソロは微笑を作り応えた。

ピサロの手を取ったら、離さなければいけない…そう思っていた。

けれど‥

目を覚ましたら、いままでと変わらぬ朝で。

なんだかとても安心してしまった。

「ソロ‥」

ぐい‥と反対側から伸びてきた手がソロを引き寄せ、翠の髪に口接けが降りる。

「ピサロ。‥おはよう。」

導かれた胸の中に顔を埋めて、ソロがふわり微笑んだ。そのまま手をついて躰を伸ばした

ソロが、彼の頬へ口接ける。

「えへへ‥」と照れくさそうに微笑って、ソロはむっくり起き上がった。



穏やかな朝から始まった1日は平穏に終わり、翌日も彼はさわやかな朝を迎えた。



「今日元気に過ごせたら、皆の所に戻るんだよね?」

昼食を庭のテーブルでとりながら、斜めに座るピサロに、ソロが確認する。

「ああ‥そう約束したからな。」

「その時は、コレも外してね?」

首のチョーカーを指し示して、ソロが一応と念を押す。

「ああ‥。だが‥まだ魔法は禁止だぞ。今はまだ体力回復を優先させろ。」

「むー、ピサロって口やかましいんだ、意外に。」

子供へ言い聞かせるような口ぶりに、むくれたソロが頬を膨らませた。そんな仕草がまた

幼さを強調するのだが‥当人は気づいてない。

「まあまあ。ピサロさんも心配なんですよ。

 ルーラの追い駆けっこの後、ソロ倒れてしまったでしょう?

 折角回復してきた体調が、一気に後退してしまいましたからね、あれで。」

にこにこと、以前ソロが臥せった原因を憶い出した折の騒動を蒸し返されて、ソロがグッ

と黙り込んだ。

再び同じ事はしてくれるなと、示しているのだ。

(…やっぱり。こっそり抜け出したら、不味いかな。)

例え体調悪化を招かずとも、こっそり魔法使った時点でアウトだな‥ぽそりソロが思う。

現状で一番恐ろしいのは、こんな時のクリフトを怒らせた時だ。

過去の教訓から学んでいるソロは、小さな吐息の後、ふと目線を手元へ移した。

白銀の輝きを称えるリングをじっと眺めて、それから魔王へと視線を注ぐ。

「…どうした?」

「‥ん。ピサロはさ…午後はどう過ごすの? ‥また、書類とにらめっこ?」

「‥ああそうだな。そのつもりだが…」

「そっか‥」

頬杖ついて俯くソロを、少し身を乗り出したピサロが覗う。

「なんだ‥? 何か用でもあったのか?」

「…別に。なんでもない。ごちそうさまでした。」

カタン‥ソロは席を立ち上がると、食器をまとめ手に持った。

「ソロ、私が片付けますからいいですよ?」

「自分の分の洗い物くらいやらせて。もう熱もないんだしさ。」

そう答えて、ソロはスタスタ歩きだした。

その背を見送りながら、クリフトが嘆息する。

ピサロは眉を顰め、ソロを見送ると、クリフトを睨みつけた。

「…あれは怒っているのか?」

「いえ‥そういうのでもないと思いますけど。…まあ午後は、ソロと一緒に過ごして下さ

 いね。後で彼だけ2階へ帰しますから。」

クスクス笑いの神官に、苦虫を噛み潰したように返して、ピサロは曖昧に頷いた。



「ソロ。後は私がやりますから、いいですよ。」

厨房へ戻ったクリフトが、水場で食器を洗うソロに声をかけた。

「ん‥、もう終わるし。ついでにそれもオレがやるよ。」

クリフトが下げて来た盆を受け取ろうと体を捻ったソロだったが、少し離れたテーブルに

置かれてしまう。彼の動作を見守るソロを、側へとやって来たクリフトが抱き寄せた。

「ソロは意外に甘え下手ですね。」

「な‥なんのコト!?」

「一緒にいたい‥そう素直に伝えていいんですよ?

 ‥言葉にしなければ、伝わりません。」

「だって‥そんなの。…我がままだもん。」

「それは無理を強いれば…でしょう? それに。

 私は随分あなたに振り回されてるんですけど?」

困ったように苦笑するクリフトに、ソロがかあーっと頬を染めた。

「だって…クリフトは、いっぱい甘えても怒らないもん。」

「ピサロさんだって‥過去はともかく、現在の彼なら間違いなく、喜ぶだけです。」

「‥そっかな?」

にっこりきっぱり断言されて、ソロが「う〜ん」と考え込んだ。

「…本当に、いいの?」

それでもどこか躊躇いがちに、ソロがクリフトを仰ぎ見る。

「ええ。明日には皆と合流するのでしょう。ゆっくり過ごせるのも今のうちですよ?

 合流したら、2人きりでのんびりなんて、過ごせないでしょうしね。」

皆ソロの帰りを待っているのだから‥と、クリフトがにっこり続けて。それを想像したソ

ロは、ぽすんと彼の胸に顔を埋めた。

「…あのね。オレ‥甘えてもいい…?」

「ええ。ゆっくり過ごしてらっしゃい、ソロ。」



「ピサロ…」

クリフトに背中を押される形で2階へと上がったソロは、居間でくつろぐ彼に小さく声を

かけた。手招きされて、ソロがゆっくり彼の元へ向かう。

「‥あのね。オレ‥今日はずっと、ピサロといたいんだ。…ダメかなあ?」

彼の前へ所在なさげに立ったソロが、遠慮がちに切り出した。

「ソロ‥」

ぐい‥と腕を引かれて、ソロがピサロへと倒れ込む。

「お前もたいがい忘れっぽいな。」

呆れるように嘆息されて、彼の胸の中でソロがきょとんと目を開く。

「側に居てくれと、幾度も申しているはずだが‥?」

「‥そ、だけど。…でも。あいつの行方を追う方が優先かな‥って。」

「ふん‥どちらにせよ、現状で動けぬのは変わらぬのだ。だから…」

お前が優先だ‥そう囁いて、唇を重ねさせた。

「‥ん、ふ‥‥ピサロ。‥大好き。」

優しい口接けが解かれると、ソロがほお‥と甘やかに微笑んだ。

そのままきゅっと腕を回してくるソロをしっかり抱いて、ピサロがスクっと立ち上がる。

「どうしたの?」

「寝室へ移動する。」

「…昼間から?」

ちょっとだけ目を丸くして、ソロがクスリ微笑んだ。

「お前が煽ったんだぞ。」

「そんなの‥知らないもん。」

ぷいと顔を横向けて呟くソロの頬が朱に染まる。こちらもスイッチが入ったらしい。



やがて。

目的の場所へ到着すると、トサ‥と静かにソロは横たえられた。

シーツの海に身を沈めた彼の上に、ピサロが覆い被さってくる。

「ん…」

啄むようなキスを繰り返しながら、ピサロが手際よくソロの上着を剥いでゆく。

それを手伝うようにしながら、ソロもピサロの上着に手をかけた。

「ね‥ピサロも。」

「ああ‥そうだな。」

請われたピサロがフッと微笑い、上衣を脱ぎ捨てた。



「‥オレ、こうして触れ合うの、好きだ…」

余計な布を取り払った姿で両腕でピサロの背を抱いて、ソロがふうわり笑った。

「‥体温感じるのって安心する。」

「そうだな…」

すっかり細くなった彼の腰を抱きながら、ピサロが頷く。

背を彷徨ってたもう片方の手は、やがて意図を持ったよう動き始めた。

「は‥っ、ん‥‥。ちょ‥、そこは‥ひゃ‥‥‥」

拳大程の翼をくすぐるように触られて、ソロが頓狂に声を上げる。

「もう痛まぬのだろう‥?」

「ん…そ、だけど‥。あっ‥やん‥‥‥」

「感度は良いままみたいだな‥」

クス‥と口の端で笑って、ふわふわな羽毛の感触を楽しむピサロ。

ソロはたまらず逃れようとするが適わずに、甘い声をこぼしてゆくばかりだ。

「ピ‥サロ…ね‥」

彼の頬へ手を伸ばしたソロが、熱っぽい瞳を注ぎ強求った。

導かれるまま口接けて、深く交ざり合う。

熱い口内から溢れた蜜が躯を伝う頃には、ソロの息もすっかり上がってしまった。

「はあ‥はあ‥‥。あ‥、んっ‥‥‥」

躯が再びシーツに沈むと、覆い被さって来たピサロの唇が鎖骨へと降りた。

そのままゆっくり移動する唇が胸の飾りに辿り着くと、そっと口に含まれる。

甘く広がる感覚にビクっと躯を震わせたソロだったが、緩々触れて離れていってしまい、

不満気な声が上がる。

「あっ‥。や‥もっと‥‥」

「もっと‥?」

手を止め、愉快そうにソロを窺うピサロ。

「…ちゃんと触って。」

赤い顔を更に染め上げて、ソロが口を開いた。

それを待っていたように、小さな果実に唇が降りる。もう片方へは湿らせていた指を宛て

がわれて、ソロが艶やかに啼いた。



「ピサロ‥っ、ピサロっ‥!」

全身に愛撫を施されて、蕩けた躯がより確かな熱を求め渦巻き始める。

「ね‥もういいから、早く‥っ、ピサロでいっぱいにして…」

「可愛い事を…。手加減効かずとも知らぬぞ‥!」

そう吠えて、綻ばせた蕾みを熱塊が穿ってゆく。

「オレを‥好き?」

ぎゅっと広い背を抱きながら、ソロが小さく問いかけた。

「ああ。誰よりもな。‥愛してる…ソロっ。」

「オレも‥ピサロが、好きっ。いっぱい‥大好きっ!」






         

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