その2


翌日。

 クリフトがアリーナにかかりきりで居るのを確認した鷹耶は、そっと宿を出た。

 目指す場所は教会。

「よお。」

 自分を訪ねて来た人間がいると呼び出されたマーカスは、その相手を知り、意外そうに

瞳を見開いた。

「…あなたは‥クリフトの…。」

「今一緒に旅してる鷹耶だ。覚えていてくれたか?」

「…ええ。それで‥私になにか御用ですか?」

丁寧な口調を裏切るような怪訝な顔付きで、マーカスが訊ねた。

「用があるから来たに決まってるだろ。

  …昨夜さ、クリフトに面白い話聞いてね。あんたに確認しに来たんだ。」

「面白い話‥?」

「ああ。ブロマイド‥ってのが流行ったんだってね?」

「え‥ああ。そうですね、そんな話もしましたっけ?」

「あんた‥持ってるだろ…? クリフトのをさ。」

確信持ったように、鷹耶が訊いた。

「あいつ‥鈍いからさ。今でも単なるご学友‥と思ってるみたいだけど。

  俺の目は節穴じゃないぜ?」

「…鷹耶‥だっけ? …ここじゃなんだから。奥で話そうぜ。」

挑むような瞳に応じるように、低い声でマーカスが応えた。



「…適当に掛けてくれ。茶まで出さねえけどな。」

 マーカスは教会の奥にある自室へと案内すると、突っ慳貪に声をかけた。

机とベッドと小さな衣装箪笥があるだけの部屋は、意外に整頓されていた。

「…で。何が言いたいんだ?」

 鷹耶がベッドに腰掛けると、自分は机の椅子に座り、会話を再開した。

「学校時代、クリフトの事狙ってた‥って連中の中に、あんたも入ってるんだろ?」

「…ふ。確かにあいつはモテてたけどね。それは随分と突飛な発想じゃないか?」

「そうか? なら‥どうしてあいつのブロマイド、持ってるんだ? お前。」

「誰も持ってる‥なんて言ってないだろ。何決めつけてんだよ、あんた。

大体あんた‥あいつの何なんだよ!? すっげえ、気に入らねえ!」

苛立ったように言う彼に、鷹耶は笑んでみせた。

「俺も気に入らねー。だからさ。同類だと思ったんだ。違うか?」

「…成る程。やっぱ‥嫌な野郎だな、あんた。」

「お互い様だろ。」

「…あいつ。想い人が居るぜ…?」

「知ってるよ。解りやすいからな。」

「はは‥相変わらずなんだな、それは。」

苦く笑う鷹耶に、マーカスもつられたように笑んだ。

「…それでも。やっぱり少し‥変わったんだよな、あいつ。

  …それって、あんたのせい‥なんだろう?」

淋しそうにぽつりと彼が零した。

「さあ‥。どうかな…?」

「あいつ…底抜けのお人よしで。不器用なとこあるからさ。ほおっておけなくて‥。

本当‥皆から大事にされてたんだ。常に首席をキープしてる割に、どっか抜けててさ。

…でも。いつもまっすぐで‥直向きで‥‥‥」

「自分の傷みより‥他人の傷みを優先させちまったりするんだよな。」

マーカスの言葉に鷹耶が続いた。

「ああ…そうだな。そういう所は変わってないんだな、やっぱ…。」

マーカスは静かに立ち上がると、机の上の棚から本を1冊抜き出した。

「…こいつが見たかったんだろ?」

 鷹耶の前に、本に挟んであった1枚のカードを差し出した。

 昨日見たカードと同じセピア色。少し幼さを残すクリフトが、こちらを向いて笑ってい

た。

「これが‥3年前のクリフト。なんだかずっと幼く見えるな。」

アリーナも幼く見えたが、クリフトはそれ以上に印象が違って見えた。

「そうだな。可愛いかったぜ? 明るい笑顔がよく似合ってた‥。」

「ああ‥本当に。‥来て正解だったぜ…。」

にんまりと口の端を上げる鷹耶。

「じゃ‥こいつは貰ってくぜ?」

そう言いながら、鷹耶が立ち上がった。

「な‥!? 誰がやると言った!?」

「‥クリフトがな。お前がもし、自分のブロマイドを持っていたら‥絶交だってな。言っ

  てたぜ? 証拠隠滅しといた方がいいだろう? 友達続けたかったらさ。」

「お前‥最初からそのつもりで?」

「こいつは口止め料に貰ってってやる。じゃ‥な。」

「ち‥ちょっと、待てよ! そんなの納得行かねーよ!」

部屋を出て行こうとする鷹耶を、マーカスが慌てて留めた。

「俺が持って行かなくても、クリフトにバレたら没収されるのがオチだぜ? 失くすモノ

は、少ない方がいいだろう‥?」

「…お前。本当に嫌な奴だな。」

「あんたに[いい奴]でいる必要ないからな。」

「は‥。それもそうだな。‥いいさ。そいつはあんたにやるよ。けどな‥1つだけ誓っ

  てくれ。あいつを傷つけたりしないと。踏み躙るような真似はするなよ?」

「当たり前だろ。…まっすぐなあいつに一番救われてるのは俺なんだ。だから‥‥

じゃ‥行くぜ? …明日の朝にはここを発つ。‥いろいろ世話になったな。」





「鷹耶さん! どこへ行ってらしたのですか!? 探しましたよ!」

 宿の部屋に戻ると、クリフトが待ち兼ねた様子で話しかけて来た。

「ん‥? なんだ、どうかしたのか?」

「ええ‥実は‥‥‥」

 クリフトは鷹耶が居ない間に持ち込まれた情報について説明した。

その新たな情報とは、アリーナの父王が子供の頃に残したという夢のお告げについて書

かれた立て札の話で。

 それによるとスタンシアラには、竜の神や天空について詳しく伝わっているようだ‥と

いう事。新たな手掛かりを得るべく、そちらへ向かおう‥と、話が纏まったのだという旨

をクリフトは説明した。

「ふ〜ん。いいんじゃないか、それで。皆も納得したんだろ?」

話を聞き終えると、鷹耶も特に異論なく同調した。

「え‥ええ。…あの、それだけですか?」

「なにが?」

「あ‥だって。鷹耶さんが居なかったのに、次の予定が決まってしまって‥その…。」

「予定が決まってよかったじゃねーか。手掛かりがあれば、向かうのは当然だろ?

他のメンバーももう聞いてるなら、敢えてミーティングしなくていい分楽だしな。」

リーダー抜きのまま決定した目的地だったが、鷹耶はこれっぽちも気にしない様子でベッ

ドに腰掛けた。

「…で。アリーナはどうだったんだ?」

「あ‥はい。今は…ただ出来る事をするだけだと‥。王様が‥道を示してくれていた事

  を知って、少しは気持ちにゆとりを持てたご様子でした。」

「‥そっか。…よかったな。」

「はい。鷹耶さんも‥ありがとうございます。姫様の事‥心砕いて下さって。」

「あ‥当たり前だろ。仲間…だしな。」

鷹耶の手を取り、にっこりと笑うクリフトに、照れた様子で顔を背けた。

クリフトには過剰な愛情表現を隠さない鷹耶も、他のメンバーへの気遣いを顕すのは苦

手なようで。改まって礼を言われ、思いきり戸惑っていたのだ。おかげで、珍しくクリフ

トの方から手を握って来てる事実にすら、気づいていなかった。

そんな中。トントン‥。ノックの音が届いた。

「はい‥あ。ブライ様。トルネコさん。」

「鷹耶は帰って来たのか?」

扉の前に立つブライが、目の前に立つクリフトに訊ねた。

「はい。どうぞ‥。」

クリフトは二人を招くように扉を開け放った。

「おお鷹耶。戻ったか。」

「なんだい? どうかしたか?」

部屋の奥へとやって来たブライに、鷹耶が柔らかく訊ねた。

「明日の出立についてな。ちっと話がしたくて来たんじゃ。」

「ええそうなんです。スタンシアラに向かう事は聞きましたか?」

後から入って来たトルネコが確認するように訊いて来た。

「ああ。さっきクリフトに聞いた。それで?」

「行き先が決まったのを船長に伝えて、何か必要な物があれば、買い足しを‥と思いま

  して。…いかがですかね?」

「ああそうか。それもそうだな。じゃ‥トルネコ、一足先に彼らと合流してるか?」

「それでな。ワシがトルネコとエンドールへ向かって、明日の昼頃、船ごとルーラして

  サントハイム沿岸に着けようと思うのだが。」

「ブライが? 確かにそうしてくれたら、手間省けるな。じゃ‥頼もうか。俺達は明日の

  朝ここを出立するから、昼前くらいには待っててくれ。それでいいか?」

「はい。承知しました。では‥荷物を纏めたら、早速あちらへ向かいますね。」

トルネコが嬉しそうに話した。

「ネネさんにもよろしくな。」

「はい。ありがとうございます。では。」

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