哀歌(elegy)―――5主人公






僕はどうやら母に似てるらしいと知ったのは、母の故郷へ訪ねた時の事。

なにより瞳がそっくりと、母を知る彼らが懐かしむよう語ってくれた。



不思議な絵の導きで。僕は過去へとやって来ていた。

サンタローズ。

ほんの僅かな時間だったが、宿屋でなく、そこには帰れる家があった。

その懐かしい家へ赴いた僕は、父さんの前にいた。

(父さん‥)

つい、口からこぼれそうな言葉をぐっと飲み込んで、ずっと会いたかった切ない姿を

見つめる。

過去を変えるような言葉は、決してしゃべってはいけない‥そう約束したのだ。

でも‥

何か‥何か出来ないだろうか?

考え込む僕の横顔を、ふと気がつくと、父さんが見守っていた。

「‥あの?」

気づかれたのだろうか?

「ああ‥済まぬな。君は大切な人によく似てるんだ。特に‥その瞳が…」

ずっと正面から間近で覗き込まれる。

哀しそうな眼差し。こんなに心細い表情、僕は知らない。

「‥では、私はその遣いなのかも知れません。」

椅子に腰掛けた父を、そっと抱きしめる。

「きっと‥逢えます。その大切な人に、また‥」

「‥ありがとう。君も‥大切な人を探しているのかい?」

しばらく経って、父さんがそう訊ねてきた。

「‥はい。」

「そうか‥。見つかるように、君の分も共に祈るよ。」

(父さん‥!)

なんだかとても苦しくて。ポタポタと涙が溢れ出した。

「‥お城に‥行ったら駄目だ。」

知らず、言葉がついて出た。

「‥どうしてそれを? まだ決めたばかりの用件を‥」

「あ‥。その‥なんとなく‥です。」

怪訝そうに窺ってくる父さんから顔を逸らして、ぼそりと答える。

「まあ‥良い。占い師の忠告と心に留めておこう。」

(父さん‥)

ちゃんと伝えられたら、未来は変わるかも知れないのに…。

でも‥

それは許されない事なんだ。


―――こんなに近くに居るのに‥


「‥あの、パパスさん。その‥探している方が早く見つかるといいですね。

  私もあなたの為に祈ります。」

「ありがとう。共にその祈りが届く日を信じたいものだな。」

「はい…」



―――父さん‥

母さんは必ず僕が助けるから…!

母さんも‥ビアンカも‥きっと見つけて、あの暖かな故国へ帰る。

それが‥今の僕の願いなんだ。

逢えるように、導いて下さい。


教会の前で、ひっそりと祈りを捧げる。


そうして、ふと飛び込んできたのは‥

過去の、哀しみを、無力さを‥知らない小さな自分の姿だった―――





2007/9/5
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