危険中毒者―――ククール



ただ‥振り向いて欲しかった

動機は至って単純。

ただ‥それだけ。

そうそれだけだったんだ。


なのに―――



「‥ってぇ。おい、いったい何のつもりだよ、あんた達!?」

人気の少ない裏庭で。俺はいわゆる先輩方に囲まれてしまった。

生意気だと、真面目な連中から、常に煙たがられていたのは自覚している。

けれど…

もともと優等生組の彼らだけに、呼び出された所でたかが知れてると、軽く考えてた。

それが―――

いきなり乱暴にどつかれて、体勢を崩した所に腕を掴まれ、縄がかけられた。

3人がかりの連携プレーが見事に決まった形で、俺は側にあった樹木に後ろ手を縛られた

格好で括られてしまった。

「なんのつもりだよ?」

「さあて‥なんだろう?」

腰に手を宛てふんぞり返った青年が、くつくつ笑い返した。

左右に立つ仲間達に目で窺うと、ニヤニヤ下品た表情で俺を見下ろしてくる。

本当になんのつもりだ?

「お前さ、街ではそれなりに遊んでるようだけど。その分ここのルールにゃ疎いよな。」

「‥ふん。規則も規律も興味ねぇからな。」

お説教かよ…と吐き捨てるように返すと、フ‥と鼻で笑われた。

「だけど…マルチェロさんには興味あるんだろう?」

「‥な、なんだよ、それ?!」

「やたらと突っかかってるだろ?ミエミエなんだよ。」

「ふん…あんたらには関係ねぇだろ。俺はあいつが嫌いなだけだ。」

「嫌いねぇ…。どっちでも構わないけど。目障りなんだよ、お前さ。だから…」




「くっそ‥。あいつら好き放題しやがって…」

3人がかりで他人の身体を蹂躙していった奴らが去った後、俺は軋む身体を引きずって

自室へ戻ろうとしていた。そして、曲がり角へ差し掛かった時‥ドンと誰かにぶつかった。

普段ならばともかく、身体がガタガタになってた俺は、その衝撃にドシンと尻餅ついてしまう。

「あいたたたっ‥一体どこ見て‥あっ。…兄貴‥」

文句の1つも‥と顔を上げると、最悪な奴が目の前に立って居た。

マルチェロは俺の格好に違和感を覚えたのか、眉を寄せ、じろじろと全身を眺めて来る。

「…なんだよ? また説教か?」

厳しい瞳を向けられて、俺がムスッと口を尖らせると、マルチェロは一端開きかけた口を閉ざし

思いがけない行動に出た。

「な‥なにしやがるっ!?」

膝を折った彼がふわりと俺を抱きかかえ、立ち上がる。そして、そのままスタスタ歩き出した。


運ばれたのは彼の部屋。そのバスルーム。

「医務室から薬を取って来る。貴様はその泥落として待ってろ。」

それだけ言うと、マルチェロは踵を返し部屋を出て行った。

「‥なんだよ、それ…」

遠退く足音を聴きながら、ぽつんと独りごちると、脱力する身体を騙し騙し動かし、シャワーを

浴び始めた。温かな湯が全身の強張りを解してゆく。俺は一通りの汚れを流した後、ぺたん

とその場に腰を落とした。

降り注ぐ湯の温かさが、昔出逢った頃に向けられた兄貴の笑顔を思い出させて、苦しい。

酷い目に遭ったばかりで、悔しくて、痛くて、腹立だしくて。酷く荒んでいるのに‥

逆立てていた毛がシュンと萎れていくような、心細さが身内に広がってゆく。

「どうした‥? どこか傷むか‥?」

シャワーのコックを捻ると、床に膝を抱えて座る俺へマルチェロがそっと声をかけて来た。

虚ろな目を声のした方へ向けると、どこか心配しているように見える眼差しとかち合う。

―――こんな風にまっすぐに、俺を見てくれた事、もうずっとなかったのに。

「…兄貴‥」

すっと伸ばした両腕を彼の首へ回して縋りついたら、振り払われなかった。

兄貴‥兄貴…どれだけ呼んでも、届かなかったのに。

今は、触れさせてくれるんだ。

傷だらけの俺だから‥?

ドクン‥

不意に昏い何かが湧くのを思う。


―――ドウシタラ フリムイテ クレルノカ…


その糸口は―――





2009/7/7



このまま続きも‥と思いましたが。
まあ、それは別の機会に‥とゆーコトで。
このままいくと、これってマルククだね。きっと。

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