特別の不在―――5主人公


捜しても捜しても…見つからなかった。

志し半ばで、逝った父。けれど…

あの頃はまだ…世界のどこにも居なかった。

特別の存在―――



夜半。目を覚ました僕は、荒く脈打つ鼓動を鎮めようと、深い呼吸を繰り返した。

体を起こし、隣で眠る息子をそっと眺める。宿の狭いベッドに潜り込んできた双子の片割れ。

クセのある金髪をそっと撫でて、起こさぬよう梳る。

僕の息子…そして。父が捜し求め、僕がその意志を次ぎ、追い求めた勇者。

ポタ‥‥と、彼の頬に置いた手の上に滴が落ちた。


この涙はなんだろう‥?


双子の誕生を祝う宴の最中、攫われてしまったビアンカ。

その彼女を捜しに城を出て10余年‥帰る事の叶わなかった自分。

赤ん坊だった子供たちの成長を側で見守ってやれなかった事‥

それを申し訳なく思うと共に、何かしら沸き起こるこの感傷…

閉じた瞼の裏に浮かぶのは…いつでも頼りがいのあった優しい父。


勇者―――闇を払い世の安寧を齎す光の存在。


その誕生は‥彼の死後―――20余年を待たなければならなかった。



「‥父さん?どうしたの?」

ぼんやりと目を開けた息子が、不思議そうに訊ねてくる。

「…ごめん、起こしちゃったかい?」

「ううん。‥あのね、夢見たんだよ。」

「夢…?」

「うん。小さい父さんとね、若いおじいちゃんとね、一緒にね‥おばあちゃんを迎えに行くの。

 おばあちゃん‥優しく笑ってたんだ。」

ふふふ‥と、本当に逢って来たかのような微笑みに、つられて僕も頬を緩めさせた。

「‥そっか。本当に叶えたいね、いつか…」

「うん。母さんを見つけて、みんなで迎えに行こうね!」

「ああ‥きっと…!

 さ‥夜明けまで、まだまだあるんだから。眠りなさい。」

「うん‥父さんもだよ?」

くい‥と腕を引かれて、僕も再び横になった。

「うふふ‥父さんとね、一緒に寝るのいいね!」

「‥うん。僕も嬉しい。一緒に過ごせなかった分、甘えてくれていいからね?」

「うん。お兄ちゃんでも、父さんになら、甘えていいもんね。」

体を寄せて、顔を綻ばせた息子が瞼を閉ざす。

すぐに聞こえてきた寝息に笑って、額の隅っこに唇を落とした。

目線を伸ばせば、隣のベッドですうすう眠る娘の横顔が映る。

おやすみ‥‥声にならない言葉をかけて、僕も瞳を閉ざした。


特別の不在―――


今は‥あの日離れ離れになってしまったビアンカを、追い求める日々。

子供たちにとって。

そして‥僕にとってもかけがえない君だから‥

家族揃うその日を願いながら、柔らかな温もりに誘われ眠りに就いた。




2007/5/29



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