ひたすらに春を待つ―――ピサロ(ソロ編)


初めて会った時、無邪気に微笑みを振りまいた和やかな顔は、今はもうない。

それを奪った自覚があるから、ただひたすらに氷の溶ける日を待とう――


「‥‥なんか変。」

宿の部屋に落ち着くと、ソロがぽつんと口にした。

過保護な神官は他の仲間に捕まってしまった為、束の間かも知れぬが2人きりだ。

どうもソロはこの状況に馴染めぬらしい。

どこかそわそわした様子で、溜息を幾度も繰り返す。

「‥今の私は嫌か?」

「別に‥そんなことないけど。でも‥優しくされると、勘違いしちゃう‥‥」

「勘違い?何をだ?」

ソロが複雑な表情で私を伺う。

「‥‥知らない。」

ぽつっと口を尖らせ呟いた。

「言ってもいいなら、もう一度告げるが?」

「‥いらない。」

緩く首を振って、ソロが小さく返す。

夜闇に紛れ訪って居た頃は、待ってる風でもあったのに。

今はただ、哀愁帯びた瞳で拒絶が返る。

想いはあの頃と変わらぬのだと、口接けは語るのに。

氷に閉ざされてしまったその心には、触れる事が叶わぬのだと、その度思い知らされる。

あの遠い日。

初めての出逢いを、ソロは憶えて居らぬだろう。

私だとて、ずっと忘れてしまって居たのだから。

けれど。

思い出してしまった。

思い知らされてしまった。

あの日の出逢いがなければ、ロザリーとの出逢いも違うものになっていただろう。

そう。

恐らくは『魔王』の話も請けなかった。

護りたいモノなど、なにも持ち合わせては居なかったのだから。

皮肉な巡り合わせだ。

やっと再会出来た時には、天敵でしかなかったとは‥‥

「ピサロ? どうしたの?」

思いを馳せ、ぼんやりとしていたらしい私に、ソロが窺うよう覗き込んだ。

「‥いや。お前は『いらぬ』と申したが‥やはり言おう。」

ソロの頬を手のひらで包み込み、そっと上向かせる。

翠の髪がさらりと揺れ、蒼の瞳が私を映した。

「ソロ‥お前を愛してる‥‥」

そう告げて、ソロが次の動きに出る前に口接けた。

刹那退こうと身動いだソロだったが。

口接けが深まると、やがて応え始めた。

「‥‥信じない‥もん。」

唇を解放すると、途端くるりと踵を返したソロが、ぽつんとこぼす。

「ゆっくり解らせてやるさ‥」

そっと背中から抱きしめ呟く。

「‥知らない。」

跳ね付けるような言葉が返ったが、今度は逃げ出さなかった。


私を闇の縁から呼び戻したお前だから。

今度は私が待とう。

その心にこの想いが届く雪解けの日を――

ただひたすらに―――








2006/8/15

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