しばらく外の風に当たっていたソロだが。

落ち着いた頃合いを見計らって、クリフトが室内へと連れ帰った。

流石に少し疲れた様子だったので、昼寝を勧めるとソロも素直に頷いて。しばらくベッド

で休む事となった。



カタン…

戸口から聞こえた物音に、微睡んでいたソロの意識が向かう。

コツコツと近づいて来る足音は、もうすっかり覚えてしまった彼のもの。

ソロが耳で気配を窺っていると、ベッド側で止まった彼がすっと翠髪を梳いてきた。

「‥起きているのだろう、ソロ。」

「…うん。分かった‥?」

苦笑交じりの声に、ぱちっと目を見開いたソロがえへへ‥と笑った。

「お帰りなさい、ピサロ。早かったんだね。」

「ああ。思ったより早く用件が済んだのでな。」

ムクっと起き上がると、ぽむ‥と再び頭を撫ぜられる。

甘やかしてくるような仕草に、ソロは照れたように微笑った。

機嫌の良さそうなソロに、ピサロも口元を和らげる。ベッド端へと腰掛けると、ピサロは

逡巡するよう目線を外した。

「どうしたの?」

「ああ‥うむ‥‥‥」

常にない表情で言い淀む魔王を、不思議そうにソロが見つめる。

「…ここを発つ前に、お前に渡したい物があって‥な。」

「渡したい物…?」

きょとんと蒼の瞳が窺ってきて、ピサロは小さく吐息を落とした後、徐に懐から何やら取

り出した。

小さな箱をスッと押し付けられて、ソロが躊躇いがちに受け取る。

促されて箱を開けると、中には…

「…ピサロ。これ‥‥‥?」

中身を見たソロが、更に不思議顔でピサロを覗った。

真っ白なケースに並べられた、白金のペアリング。

「これ…オレに‥?」

「ああそうだ。」

「え‥っと。これ‥って…。あの‥‥ピサロが、オレに??」

「そうだ。」

「なんで?」

本当に理解らない‥といった面持ちのソロに、ピサロが苦く笑いかける。

「…お前は忘れてしまったようだが。昔約束したからな。」

「え…」

「‥私は、まだ幼なかったお前と一度出逢っているのだ。そして…」

ぐっと彼の両肩を掴むと、顔を間近へ寄せ、唇を重ねさせた。

「別れ際にお前の方からな‥。誓いのキス‥だと求婚された。」

「ええっ!? オレが‥!? し‥知らないっ。覚えてないよ?」

「3つか4つくらいの子供だったからな。覚えてないのも無理はない。」

「ほ‥本当に。本当なの‥?」

「ああ。疑うなら神官に確認すれば良い。奴も知っている事だからな。」

「ええ? どうしてクリフトが?」

ますます混乱を深めるソロに、ピサロが苦笑し扉へと声をかけた。

「おい。貴様からも説明してやれ。」

隣室から姿を見せたクリフトが、ゆっくりと歩み寄る。ソロは狐に摘ままれたような顔を

しながら両者を見守った。

「ピサロさんの仰ってる事は本当ですよ。ソロ本人から伺いましたから。」

「オレ‥? だってオレ全然覚えてないよ?」

「以前天空城へ赴いた折に、竜の神から解呪を受けたでしょう?

 その時の副作用で、幼いソロに会えたのだと話したの、覚えてませんか?」

「…あ。そういえば‥。」

「私が会ったのは、5歳のソロでした。その時にいろいろな話聞かせて貰ったんですよ。」

「じゃあ…」

ソロがピサロをじっと見つめる。窺うような眸に、ピサロはフッと紅の双眸を細めさせた。

「…ホント‥なの?」

「ああ。そうだ‥」

「でも、だって…ずっとそんな事‥‥‥」

「‥私も最近まで忘れていたからな。

 憶い出したのはソロ、お前達があの進化の秘法を打ち砕いてくれた時だ――」

ピサロはそっと彼の顔を手のひらで包み込むと、ゆっくり言葉を紡いだ。



『にーた。』

幼児特有の甘さを含んだ声音。

翠の髪。蒼の瞳。こぼれ落ちそうだと思った瞳は、人懐こく自分を映していた。

『にーた。ソロとあそんれ?』

舌足らずな口調で甘えてくる柔らかな存在。

その温もりは、存外悪くないものだと…そう知った。

遠き日の何も持たずに居た自分――



「どこまでも昏き闇の中で、急速に弾けた光…その中心に、幼いお前の姿が在ったのだ‥」

「ピサロ…。それで‥オレのコト、光‥って…?」

彼を仲間へ迎えてから、度々言われていた言葉の意味に、やっとソロは触れた。

「ああ‥。忘れていたのが不思議な程、今は鮮明に思い出せる。光の記憶だ…」

「ピサロ‥」

「‥随分遅くなってしまったが。その時の返事だ。受け取って欲しい。…婚約の証だ。」

「婚約‥。だってオレ達男同士で…」

「人間はやたらと種に拘るようだが。我らから見れば下らぬものだぞ?」

惑うソロにきっぱりと、ピサロが言い捨てた。

「そもそも男女の区別自体、実際には曖昧なものだからな。」

「…そー‥なの?」

不思議そうにソロがこぼす。ピサロはフッと微笑んで、言葉を続けた。

「エルフの多くは性を持たぬ者だし。地上で暮らす魔族の中には成体になって分かれる者

 もある‥。環境に応じて変化する者も在るな…」

ソロの頭にクエスチョンマークがたくさん浮かんだ所で、言葉を切ったピサロがじっと彼

を覗き込んだ。

「…で? 受け取って貰えるのか? 貰えぬのか?」

「‥あ、えっと…。本当に‥いいの…?」

難しい話が吹き飛んで。原点へと戻ったソロがシンプルに問題と向き合う。



婚約――結婚の約束。



ソロはドキドキと眼前にある整った顔を見つめた。

「私と共に生きて欲しい…そう願う資格は、本来ない身かも知れぬが‥」

苦く微笑んで、乞うようにピサロが紡ぐ。

「ピサロ…。オレ‥‥‥」

ぽろぽろと泣き崩れるソロの眦に溜まった涙を指で掬って、ピサロはこつんと額を合わせ

た。

「…愛してる、ソロ‥」

そう囁いて、ピサロは悸える唇に口接けた。

しっとり重ねられた唇はすぐに解け、今度はしっかりその胸の中に抱きしめられる。

早鐘を打つ胸の音が、自分のばかりでないコトに気づいて、ソロは込み上げてくる想いの

ままに涙を落とした。

「…レも。‥オレも…ピサロが‥‥好き…だ。」

ぎゅっと抱き着いて、ソロが彼に応えた。

「‥やっと、聴けたな。」

抱く腕に力を込めて、ピサロが安堵の吐息をもらす。

「撤回は認めぬからな。覚悟しておけよ‥?」

そう微笑って、ピサロはソロの手の中にある小箱からリングを1つ抜くと、ソロの手を恭

しく取り、そっと人差し指へと嵌めた。

「お前は私のものだ…」

誓うように、ほっそりした指に光るリングへ口接ける。

「ソロ。」

言葉を失くしたように白銀に輝く指輪を見つめる彼に、ピサロが促すよう声をかけた。

「…ピサロ。ピサロは‥オレの‥もの…?」

残されたリングを手に取って、ソロが確かめるよう瞳を交わす。

「ああ‥」

紅の眸が優しく眇められて、ソロは頬を一気に火照らせた。

震える指先をどうにか宥めながら、その長い指にリングを潜らせる。

ソロはその手を掴むと、自らの頬へ導いて、愛しむように擦り寄せた。

「…オレ、夢‥見てるのかな?」

「これが夢なら…なんとも私に都合の良い夢なのだがな‥」

微苦笑し呟く魔王に、ソロがクスリと微笑んだ。

「ピサロ‥大好き。」

夢ならば、言ってもいいかな‥そんな思いが、ずっと伝えられずに居た想いを語らせる。

交わされる瞳がゆっくり閉じられて、唇が重なった。



寝室をとっくに退出していたクリフトは、身体を隣室の壁から離すと、わずかに開いたま

まになっていた扉を閉めた。

ゆっくり歩き出したクリフトが、そっと振り返り微笑を浮かべる。



――良かったですね、ソロ。



頑なに想いを伝える事を拒んでいたソロが、素直になれた‥それは大きな前進だろう。

それは。一番深く刺さっていた刺が取り除かれた証拠でもあるのだから。

(とりあえず。お祝いの御馳走、用意しましょうか。)

ソロが喜びそうなメニューを考え巡らせながら、階下へ向かう足取りは、どこか呑気で。

上々の気分に浸るクリフトだった。





ゆっくりと傾いだ上体が柔らかなベッドへ沈む。

ソロは覆い被さってくる彼と目が合うと、嬉しげに微笑んだ。

「‥躰が辛かったら言ってくれよ?」

「うん。でも‥平気‥。オレも…欲しいから‥」

そう笑って、ソロがさらりと胸をくすぐった銀髪を梳く。

さらさら指の間を擦り抜けるそれを、ソロは愛おしむよう見つめた。

「‥ふ‥ぁ。あ‥っ‥ピサロ‥‥」

緩々と露になった滑らかな肌を辿って居た指先が、抱きすくめるよう背後に回されて、ふ

と発現して間もない小さな翼へと触れた。

甘やかな衝動がツキンと走って、ソロの白い肌が見る間に桜に色づいた。

痛んでる様子はないと確認したピサロが、そのまま唇をぷくんとした彩りへ這わせる。

「あっ‥ん。ふ‥あ‥‥‥っ‥」

ねっとりした口内へと含まれた飾りの縁を舌が巡り、尖端をつつかれて。ソロがびくんと

躰を悸わせた。

「相変わらず敏感だな…」

クスリ‥と口角を上げるピサロに、すっかり上気した様子のソロが潤んだ瞳で抗議めいた

目線を向ける。逆に煽ってくるようなその瞳に、ピサロは更にくつくつ笑った。

「‥可愛いと褒めてるんだが?」

「あ…っ、ふぅ‥ん‥‥っ‥は…や‥ん…」

耳元に囁き落とされたと思うと、濡れた突起を指で摘ままれ、クニクニと弄くってくる。

時折爪先で引っ掻くようにもされて、ジンジンと疼いてくる感覚に、ソロは甘く喘ぐしか

出来ない。

「ズル‥い。…オレばっかり‥余裕‥ない‥‥っ…」

「そう思うか?」

グッと躰を押し付けられて、ソロが目を見開いた。

苦く笑う彼と視線が交わされる。

「ピサロも…余裕‥ない?」

「‥ああ。お前の前では‥いつもそうだ…」

「そ‥なの…? …だって‥全然そう見えな…っ、あ…ん‥」

貪るように口接けられ、続く言葉が飲み込まれて行った。

全身を支配されてしまいそうな、熱を帯びた接吻。思考もなにもかも奪われてゆくような

陶酔感。嚥下しきれなかった送り込まれる蜜が、口の端を伝い溢れ出す。

「ふぁ…あ…ん‥。んっ…はあ‥はあ‥‥」

唇が解放され、すっかり息の上がったソロが足りない酸素を補おうと呼吸を繰り返した。

「感情を掴ませぬよう、常に律して居た。…それでも。

 お前の前では、よく感情のコントロールを失ったものだ…」

「そう‥だった‥の?」

憮然と話すピサロの表情が、実は照れから来てるのかと、ぼんやり気づいて。ソロは不可

思議なものを見るよう目を丸くする。その表情をもっと間近で見たくて伸ばした手に、彼

の手が重ねられて、ソロの指に光るリングへ口接けが降りた。

「ピ‥サロ…」

「‥二度と手放さぬからな。これはその誓いの印。よく頭に叩き込んでおけ。」

独りになどなれぬと言う事をな‥そう囁いて、涙に濡れる目元へ口接ける。

ソロはコクコク頷くと、覆い被さるピサロの頭を掻き抱いた。

「好き‥って、言って‥いいんだよね? もう‥

 終わりに…ならないよね‥?」

「ああ‥そうだ。‥何度でも繰り返してやる。‥愛してる…ソロ。」

「‥嬉しい。ピサロ‥大好き。」

どちらからともなく唇が重なって、それはすぐに深いものへ移った。

甘い熱を誘う口接けが解かれた後には、あえかな吐息が上がるばかりで。

白い肌がすっかり薔薇色に染まる中、熱い熱塊がソロを満たした。

「ピ‥サロっ。ピサロ…好きっ‥好き‥だよ‥‥っ、ふっ…あぁ‥」

彼を最奥まで受け入れて、ソロがしがみつきながら言葉を紡ぐ。

ずっと封印しなければならないと、幾度も戒めた想いだったけれど…

「ソロ‥愛してる…」

ふ‥と目が合うと、逢瀬の頃に渇望した言葉が贈られて。

(やっぱり‥夢かな…?)

ぼんやりそんなコトを思いながら、その幸夢に身を委ねた。



「…夢でも、いいや‥‥‥」

そんな呟きを残して意識を手放したソロを、ピサロはそっとベッドへ横たえさせた。

「夢ではない‥そう判らせてやってくれよ。」

そう囁いて、ソロの手を取り、指に光るリングへ口接ける。

時間と共に消滅してしまう所有の印ではない。

いつでも確認出来る、束縛の証明。                  証明→あかし

ピサロは身支度を整えると、すっかり眠り込んでしまったソロの身を整え始めた。

逢瀬で訪なっていた頃もよく、意識を飛ばした彼の身を清めてやったものだが。服まで整

えてやる事はなかった。けれど…

共に旅をするようになって。

それまで触れる事のなかったその日常に身を置いて。

様々に気づかされた。思い知らされた。

なによりも大切な‥その存在の重さ。



雑多な感情の、不思議な心地よさを――



「…ん。‥‥あれ‥?」

茜に染まった空がその赤みを一層強く変え、火点し頃を迎えて、ソロは目を覚ました。

「…夢‥‥‥?」

なんだかとても倖せな夢を見ていた‥そんな風に思いながら、身体を起こす。

「‥これ‥‥」

薬指に納まったリングに目を止めて、ソロが不思議そうに呟きを落とす。

ふと現れた人の気配を辿り目線を向けると、カツン‥と足音を響かせやって来た。

「ピサロ…。夢じゃ‥なかったの?」

「これは‥お前が嵌めてくれたモノだろう?」

すっ‥と左手を挙げて、その指に光るリングをソロに見せつける。

ソロは恐る恐るその手を取ると、そっと両手のひらで包み込んだ。

「…ピサロは‥オレの‥もの…?」

「ああ。そして‥お前は私のものだろう?」

ソロの左手に己の右手を重ねさせて、ピサロが紡ぐ。

「…うん。‥オレでいい? 本当に‥?」

「お前以外に欲する者などない。お前は肝心な所を、いつも忘れてしまうのだな。」

「だって‥‥わかんないんだもん‥」

「何がだ‥?」

「…わかんない‥。」

ふるふると力無く首を振って、ソロは縋るようピサロに抱き着いた。

「ピサロ、もう一度言って? …オレのコト‥本当に‥‥」

「‥愛している。ずっと‥側に居てくれ。」

そっと顔を上げさせたピサロが、こつんと額を合わせ、乞うよう告げる。

ソロはふわっと顔を綻ばせて、瞳を輝かせた。

「オレも…好き。ピサロ‥大好きだよ。」

嬉しげに語るその瞳には、もう憂いはない。

ピサロはふ‥と口元を上げて、もう一度告げた。

「愛してる…ソロ‥」

ひっそり落とした後の唇は、ソロのそれへと舞い降りた。



まだ闇の気配は完全に断たれてはいない。

だが…

光へ導く糸口は確保した。



――お前を闇などにくれてなるものか!



孤独――という闇が、ソロを呑み込まぬように。



ピサロは腕の中にあるソロをしっかり抱きしめていた。




2006/11/2



あとがき

今回も合流適いませんでした(@@;
日数的にはそれほど経ってないはずなのですが。
1日1日のエピソードが長いです。

さて。
実はこの話、執筆途中で私事に追われブランクが出来ました。
丁度ソロとピサロが盛り上がってる最中で止めたため、その間
ソロくんはとっても幸福感に溢れていたわけですv
綴れない間も、その後の展開をシュミレーションしながら。
このままEDになりそうな、そんな甘甘なノリが脳内で交わされてたのですが。

実際素に戻ったソロとピサロの会話が交わされた時点で‥
あれれ? な展開に(^^;

クリフトの科白じゃないけれど。
手強いな〜ソロくん★

まあ。完全復活とはなりませんでしたが。
やっと魔王さまにも「好き」って言えましたv
婚約までしちゃいましたvv(笑)

年内にパーティ合流まで描ききれるかどうか、微妙ですけど。
とりあえず、ソロから「好き」を貰えた魔王さまですし。
ちょっとは変化もあるかも‥知れません。(ないかなあ?)←ソロだし。

といったところで。
ここまでお付き合い下さった方、ありがとうございました!!


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