うさみみ魔王さま、はじめてのおしごと‥の巻





「ピサロ、ピサロ!」

ミニミニうさぎ姿のソロが、ピンク衣装に身を包んだうさみみ魔王の肩の上で、

ぴょこんと跳ねた。

「‥今度はなんだ?」

はあ‥と重い吐息をはいて、長〜いピンクの耳をうなだれさせた魔王が返事を

する。

「ほら‥あっち。ねぇ‥聞こえない?」

短い腕を真っ直ぐ伸ばして、ソロが茂みを指した。

「ふぇ‥ん。‥しくしく‥‥」

耳を澄ますと、微かだが、子供の泣き声が届いた。

ソロにせっつかれた魔王が、不承不承歩き出す。



果たして。

声の主は、小さなスライムだった。

茂みに隠れるようにして、しくしく泣き続けるスライムに、魔王の肩から飛び

降りたソロが、ぴょこんと近づいてゆく。

「こんにちは。どうしたの?」

出来るだけ優しげに、ソロが声をかけた。

「‥おうちにかえれなくなっちゃったの‥」

答えたスライムが、うわあ〜んと泣き出した。

「迷子になっちゃったのかな?」

ソロが更に目線を下げるべく、しゃがみ込んで訊ねた。

ちびスライムが、ぷるるんと体を左右に振る。

「ちがうの。かえれないの。」

「‥叱られたの?」

ぷるるんと、スライムが再度震えた。

「ちがうもん。かえれないんだもん!」

ぴょんぴょんと跳ねたちびちゃんが、喚いた。

肩越しに振り返って魔王を見つめるソロに、彼が大仰な溜め息を落とす。

「家の場所は分かるのだな?」

努めて静かな物言いで、ピサロが口を開いた。

コクン‥と神妙に、ちびスライムが頷く。

「‥だが、帰れない。」

続く言葉にもう1つ頷いた。

「‥お前の家とは、あの上か?」

ピサロが背後にある崖の上を指し、訊ねた。

ぴょこぴょん。

スライムが跳ね上がって、ピンクのマントを靡かせるうさみみ魔王に近寄った。

「うん、そうなの。ぷるるのおうち、しってるの?」

「知らん。」

嬉しそうに笑ったスライムの顔が、うるる‥と歪む。

「もぉ‥ピサ‥じゃない、うさみみ仮面、子供泣かしちゃダメじゃないか。」

ぴょこんとちびスライムの前に立ったソロが、よしよし‥と宥めながら魔王を

睨んだ。

――― 私が悪いのか?

理不尽なものを覚えながらも、魔王は気を取り直してスライムを抱き上げた。

「あの崖の上なのだな。お前の家は。」

コックリと、円らな瞳が不安げに揺れた。

「そっか。落っこちちゃったから、帰れなくなっちゃったんだね。」

ぴょこんと魔王の肩に飛び乗って、ソロがなるほどと頷いた。

「‥うん。かえれないの。」

「ピ‥じゃない、うさみみ仮面、お願いv」

短い両手を胸の前で組んで、小首を傾げるミニうさソロ。

「‥‥‥了解した。」

シュタ‥と、崖上まで難なく移動を果たして。

ピサロがスライムを地面に下ろすつもりで両腕を伸ばす。

「うさみみ仮面、ついでだもの。この子を家まで連れて行ってあげよう?」

「‥‥了解した。」

‥仕方ない。魔王は諦めた。

ちびスライムの案内で、程なく到着した住処の前。

心配そうに帰りを待っていた母スライムにちびを託して、うさみみコンビが半歩

退いた。

「よかったね。もう落ちないように、気をつけるんだよ?」

並んだ親子にふわりと笑んで、ソロが声をかけた。

「うん。ありがとう、うさみみのお兄ちゃんたち。」

ぴょこぴょんと跳ねたちびスライムが、笑顔を浮かべる。

すると…

その頭上にキラキラと光が集まり、ピンクのハートを形作った。

あっ‥とソロが慌ててポシェットを翳す。

ふわわわ‥んと小ちゃなハートがスライムポシェット目指してやってくる。

そして‥目前まで到着すると、スライムポシェットの口が大きく開いた。

パクン‥とハートを食べたスライムが、ニコッと笑う。

「‥さ。次行こう!」

それをにっこり見守ったソロが、気合い込めた拳を突き上げた。


「バイバーイ!お兄ちゃん!」

ぴょんぴょん跳ねるちびスライムに送られて、うさみみコンビが場を後にした。



がんばれ、うさみみ仮面!

正義の味方の道は、始まったばかりだ。(笑)




2008/3/3