「…村がさ、[勇者]の命を狙った魔物に襲われた時さ。‥オレ独りだけが身を隠すよう

 地下倉庫へ匿われて‥。幼なじみのシンシアは、オレに変化して、オレの身代わりに‥

 殺されてしまった。[地獄の帝王]を倒す為、[勇者]は必要なのだから‥って。

 そうまでして生かされたんだから。オレは託されたその使命を真っ当しなくちゃ‥って。

 ずっとそう思ってきたけど‥。」

ソロはぽつぽつ語ると、隣に居るクリフトへ視線を向けた。

「…オレは、[地獄の帝王]を倒す剣でしかないのかな?」

哀しげな瞳で微笑を作ったソロに、クリフトが困惑顔をみせた。

「ソロ‥一体…!?」

「オレ自身の気持ちなんかより、結局‥[勇者]である事が優先されちゃうんだ‥。

 でもさ‥そしたら…、本当のオレって、本当は誰も‥必要としてないんじゃ‥っ‥!?」

言葉にするうち感情を昂ぶらせたソロを、クリフトがきつく抱きしめた。

「‥クリフト?」

「そんな哀しい事、おっしゃらないで下さい。あなたが伝説の勇者の器を備えているのは

 確かなのでしょう。けれど。あなたを守った村人達も、そして私達も、[勇者]よりも

 ソロ…あなたを大事に思っているんですよ!」

「…オレが‥ヒトで‥なくても?」

どこにも感情がこもらぬ呟きを、ぽつんとソロがこぼした。

「ソロ…」

クリフトは彼が抱えていたもう1つの悩みを知り、苦しさを覚えた。

「…私が通った神学校は、もともと貴族の学校でして。今の王様になってから、平民出身

 者も受け入れるようになったのですけど…それでも、通う為の条件は厳しいものでした。

 私は必死で勉強して、常に首席を維持して…。でもそれを面白く思わない生徒からよく

 言われたものです。『所詮平民出じゃないか』‥と。貴族とは違うと蔑み込めてね。」

ソロを抱きしめながら、クリフトがどこか他人事のように語った。

「そんな‥。クリフトはクリフトじゃないか。一所懸命勉強して、一番になったのはクリ

 フトの努力の結果だろう? 貴族だとかなんとか、そんなの関係ないだろう!?」

「ふふ‥。私もそう思います。

 ソロ‥あなただって同じですよ? その身に例え人間以外の血が流れようと、それが何

 だと言うんです? そんな事で距離を置くような人間は、このパーティには居ません。

 それは私が保証します。」

そっと彼の頬を掌に包み込むと、揺らぐ瞳を真っすぐ見つめ、クリフトが微笑んだ。

「クリフト…」

「みんなソロを大事に想っていますよ。今回の件では、本当にそれを思い知らされました。

 無事戻ったあなたの傷ついた姿に、皆がどれだけ悔やんだ事か‥。」

「…オレ、みんなの事、家族みたいに大事に思ってるけど。でも…もしかしたら、そう思っ

 ているのはオレだけで。みんなが側に居てくれるのは‥[勇者]だからかも‥って。

 だから‥勇者が必要じゃなくなったら、オレは…。オレの居場所は‥どこにもないのか

 な‥って‥‥。」

声を悸わせ、ソロが抱えていた想いを吐露した。

「本当に‥あなたは。どうしてそんな風に思い詰めてしまったのか知りませんが。もっと

 自分に自信持っていいんですよ? メンバーの中で一番愛されてるって事、ちゃんと自

 覚して下さい。」

大袈裟な溜め息の後、元気づけるような口ぶりで語ったクリフトが、優しく微笑んだ。

「え…? オレが‥みんなに…? …ほんと?」

「ええ。こと戦闘に於いては、なんの心配もいらないあなたが、どうもそれ以外の部分で

 は危うくて。庇護欲を誘られるんですよね。…私も見事に嵌まりましたから。」

間近でにっこり微笑まれ、ソロが顔を赤くした。

「…旅が終わっても‥オレ、独りにならない‥かなあ…?」

「きっと独りにはなれませんよ? 誰も望みませんから。」

ソロは嬉しそうに微笑うと、安心したのか、ぽすんと彼の胸に顔を埋めた。

クリフトが子供をあやすよう、ぽんぽんとその背を叩く。

やがて。彼は得心したよう呟いた。

「‥帰ってから様子が変だったのは、それをずっと考えていたからなんですね。」

こくり‥とソロが小さく頷く。

「よかったら聞かせてくれませんか? あなたがそんな事を考えたのは、何かきっかけが

 あるのでしょう?」

「…うん。」



ソロはクリフトにデスパレスで出逢った少年の話を語った。

魔族と人間の間に生まれた子供があの城で暮らしていた事。魔族の父親が人間に殺され、

残された母子は、人間の町でなく魔物の城を寄り処とした事…



「…そんな事が‥。それでソロは、その彼と自分を重ねてしまったんですね。」

一通りの説明を終えると、クリフトが深く嘆息した。

「…あの子が、[人間]から排除されちゃうとしたら‥オレだって同じだもん。

 でもオレは‥どこにも…行き場がないから‥‥‥」

天女なんてどこに居るかも知れないし‥と呟きながら、すっかり甘えモードのソロが、

クリフトに寄りかかった。

「あなたの場所はここですよ?‥と、毎日呪文のように唱えないといけませんね。」

小さく微笑ったクリフトが、翠の髪を梳きながら優しく話す。

「ソロは忘れっぽいようですから‥。」

クスクスと付け足され、ソロが上目使いに彼と視線を交わした。

「忘れ‥られるかな…?」

「え…?」

「‥ううん。なんでもない。

 クリフト‥もう少しだけ、このままでいさせて?」

ソロはふっと目線を落とすと、彼の鼓動を確かめるよう顔をクリフトの胸に埋めた。



―――忘れたい。あいつのコトを‥



トクントクン‥繰り返される優しい音。

伝わってくる温かさは、生きて居る証拠。           
証拠→あかし



たった独り遺されたあの日の孤独を、知らずうち、彼との絆で癒してきたソロ。

断ち切れた絆が、ずっと底の静かに深く広がった晦い海への道を拓いてしまった。



聴こえてくる潮騒が深い闇に広がる海の音のようで。ソロは小さく身震いする。

迫る音を排除したくて、ソロは優しい鼓動に更に耳を寄せた。



トクントクン‥



独りじゃない。ここに居るよ…



そんな囁きが聴こえるようで。

ソロは晦い海が凪ぐまで、じっと耳を傾けていた。













おまけ



「そんなところに居たのね、2人とも。」

洞窟から戻ったらしいマーニャが、樹木の根元に寄りかかっているクリフトの背に

声をかけた。

「…あら。ソロってば眠ってるの?」

「マーニャさん、お帰りなさい。みなさんに心配かけてしまいましたか?」

「あ‥ううん。それは大丈夫。あんたと一緒だって判ってるから。

 ソロ…少しは浮上出来た?」

気持ちよさげに眠る彼に気遣うよう、少し声を落とした彼女が訊いた。

「そうですね‥。恐らくは‥‥‥」

「そう‥なら良かった。あんたに任せて正解だった‥ってコトかしらね。

 ま、でなかったら許さないけど。」

「怖いですね。」

「当ったり前でしょ? ソロのコト心配だったのはみんな同じだもの。

 側に居たい気持ちを敢えて抑えて、あんたにそれを譲ったのは、その方がソロも

 落ち着く‥って、踏んだからなんだから。結果出して貰わないとね!」

マーニャが一気にしゃべり終えると、さっきまで寝ていたはずのソロとバッチリ目が

合ってしまった。

「…ソロ。起こしちゃった‥?」

(そりゃ、あれだけ大きな声出せば…)

そんなコトを思うクリフトだが、もちろん口には出さない。

「…マーニャ。いっぱい心配かけちゃったね。…ありがとう。」

ソロは身体を起こすと手を伸ばし、屈んだ状態のマーニャに抱きついた。

「ソロ‥。よかった‥少しは元気出たみたいね。それから‥ただいま。」

マーニャは安堵の笑みを浮かべると、彼の頬にキスを贈った。

「‥あ。お帰りなさい、マーニャ。」

一瞬きょんと不思議そうに彼女を覗ったソロが、ふわっと微笑むとキスを返した。

ムッ‥と傍観していたクリフトの表情が強張る。

「あら‥嬉しいわね。」

「え…?」

「返してくれたのは初めてじゃない。ふふふ‥」

「そーだっけ…? うわ‥っ、ま‥マーニャ…!?」

すっかりご機嫌な彼女に、さらにお返しに‥と両頬へキスを贈られてしまうソロ。

流石にそれには照れた様子で彼が身動いでいると、尖った声が割って入った。

「マーニャさん、ソロが困ってますよ。」

言いながら、クリフトがソロを引き寄せた。

「まあ、ケチねえ。ずっとソロを独りじめしてきたんだから、ちょっとくらい譲って

 くれたっていいじゃない。」

「誰もそんなコト言ってません。ソロが困っている‥と話しているんです。」

「可愛い弟くんとのスキンシップを楽しんでいるだけじゃない。ねえ?」

マーニャがソロへ返事を求めた。

「あまり度が過ぎるのもどうかと思いますが?」

困惑するソロに代わって、クリフトが冷ややかに答える。

「あんたにだけは言われたくないわね。…ま、いいわ。ソロ。」

やれやれと嘆息したマーニャが、ソロを指で招いた。

「今度は2人の時にスキンシップしましょうねv」

そうこっそり囁くと、そのままもう一度頬へと口づけ、「先に戻る」と行ってしまった。

残されたソロが真っ赤な顔のまま彼女を見送る。

そんな彼の視線の外では、ムッカリとしたクリフトが、込み上げてくる感情に途惑いを

覚えていた。



――マーニャと2人きりには絶対させない。



そう心に決めたクリフトだった。






2005/6/21




あとがき

おまけ・・・の部分は、本文書き終えた後、ふっと浮かんだやりとりが面白かったので
こんなカタチでUPしてみました(^^
ソロにベタベタなマーニャに、なんか「カチン」ときてしまうクリフト。
クリフトはソロに甘いけど、このままいったらずっと保父さんのままじゃん☆と思ってた矢先、
しっかり後押し(?)してくれるイベント発生しちゃいました(^^;
ソロを泣かしてばかりいる「彼」にも、最近ムッカリきてたんですが、身近な存在の彼女に
目の前でベタベタされて、すっかりライバル意識が芽生えた模様v

甘えたがり・・・な状態のソロを挟んで、どうなるコトやら☆

ここまでお付き合い下さった方、ありがとうございました(^^