「…あのね、クリフト。」

緩やかに流れる小川で食器を濯ぎながら、隣で器を洗っている彼へソロが話しかけた。

呼ばれたクリフトが、顔を上げソロへと目線を移す。

「…あのね。‥本当の本当だと思う…?」

「なにがです?」

「…あいつの言ってるコト。」

頬に朱を走らせて、ソロが手元へ目を落とした。



エンドールを発ってから1週間。

馬車での移動を再び開始した一行は、昼食を採るため馬車を止めた木立の中での野営を決

めた。特に時間に追われても居ない当番作業。他のメンバーが近くにない事を確認し、ソ

ロは窺うよう、もう一度クリフトへ目線を戻した。

「‥だってね。あいつの言葉聞いてると…まるで、ずっと前から好きだったみたいに聞こ

 えるんだ。でもさ…そんなの変だし‥。やっぱ…嘘‥かな‥って‥‥‥。

 ね、そうだよね?」

落ち着かぬ様子で目を泳がせて、ソロが言い募る。クリフトはそんな彼にフッと微笑した。

「どうしてですか?」

「だって…オレ達‥敵同士だったし‥。」

「けれど。立場はそうでも、あなたの想いは違ったのでしょう‥?」

「…う、ん‥」

「ならば。あの人だって、そうだった‥としても不思議ではありませんけどね。寧ろ…

 その方が納得出来ると思いませんか?」

「…ずっと、オレを生かしておいたコト‥とか?」

「ふふ‥理解っているじゃありませんか、ちゃんと。」

クスクス‥とクリフトが微笑んだ。ソロが真っ赤な顔で、止まってた手を動かしてゆく。

「よかったですね」そう付け足されて。ソロははたと手を止めた。

「…でも。きっと‥すぐに嫌いになっちゃうもん…」

ぽつりとされた呟きは、泣いているかのようにか細く落とされた。

「ソロ…」

「あのコト‥知ったら…きっと、厭になっちゃうよ、オレなんか‥‥‥」

「そんな狭量な方でもないと思いますけどね‥。そもそもあなたは被害者なんですから。」

小さく吐息をついて。クリフトが柔らかく話しかける。

だが…ソロはブンブンと首を振り、彼を重く凝視めた。

「絶対に、話しちゃ駄目なんだからね、クリフト。

 …奴を倒すまででいいの。その間の‥ちょっとだけでも…一緒に過ごせたら、それで…

 どうせ‥オレは‥‥‥。」

言いかけて、ハッとソロは気不味そうに視線を反らせた。

「…ソロ。これを片付けてから、ゆっくり話しましょう?」



作業を終えた2人は一旦馬車まで戻ると、少し散歩へ出て来る‥と、再び木立の中へ入っ

て行った。

どっしり構えた大木の幹に寄りかかったソロの前にクリフトが立つ。

彼はまるで逃さぬとでも言いたげに、ソロの両脇へ腕をついた。

「‥では。続きを始めましょうか?」

にっこりとクリフトが柔らかな微笑を浮かべる。

「…クリフト。え‥っと。…怖いよ?」

「そうですか? それはね‥あなたに後ろめたいものがあるからですよ?」

「‥別に。なにも…ないもん‥」

つ‥と視線を反らし、ソロが返した。

「…私も、本当は思っている程信頼得てないのですかね‥?」

「そんなコト‥! クリフトのコトは信頼してるし。本当に大事だもん。」

哀しげな問いかけに、慌てたソロが顔を上げた。

「では‥話して下さい。あなたが抱えているものを。

 …なにを思い詰めてらっしゃるのです、ソロは。」

「…なんにも。本当‥だもん。」

「『どうせ‥オレは』‥そう仰ったでしょう? その続き‥聞かせて戴けませんか?」

「知らない‥もん。」

「困りましたね。あなたが話して下さらないなら、ピサロさんにでも相談持ちかけて

みた方が早いかも知れませんね?」

「ピサロは関係ないの。だから‥聞いても意味ないよ?」

「…では。ソロ個人になにかあるのでしょうか?」

「…知らない。」

「ソロをずっと悩ませてる事‥といったら。…天に関わる問題ですね。」

彼の様子を窺いながら、クリフトが質問範囲を狭めてゆく。

「違う‥もん。」

「…その背。最近はいかがですか?」

ビクン‥とソロが肩を跳ねさせた。

「そう言えば。竜の神にお会いした時‥あなたの事も訊いてみたのですけど…」

「‥なに‥を?」

「島へ降りてからの、あなたの体調変化についてですよ。

 あの方ならご存じかと思いましてね。」

「…それで? ‥竜の神は、なんて…?」

不安げに、ソロは瞳を揺らした。

「あの島は天界の影響下にあるので、それがあなたに作用しているのだろう‥と。」

「…それだけ?」

続く言葉を待つように、ソロが彼を凝視める。

クリフトはフッ‥と微笑みかけると、柔らかな翠の髪を梳った。

「…天空人特有の翼。あなたの懸念はそれですか‥?」

コクン‥とソロが小さく頷いた。

「…ゴットサイドですら。あの姿は奇異に思われてたでしょ?

 もし‥あんなのが生えたら…オレ、もう‥皆といられない…から‥っ‥ふ‥っく‥‥」

感情の籠もらぬ声音が、耐え兼ねたのか、やがて嗚咽に変わっていった。

「それで‥? そうなったら、あなたはどうするつもりだったのですか…?」

「‥‥ひ‥独りで‥ひっそり暮らそう‥って。‥村の皆の魂を護って…ずっと‥‥‥」

「…それで。以前花見の時、あんな事を言い出したのですね‥ソロは。」

深い吐息をこぼした後、クリフトが少々呆れたように呟いた。

「‥もしかして。あなたは私の前からも、姿を晦ますつもりだったのですか?」

「…だって。‥誰にも…見られたくないもん。…人間でない‥姿のオレなんて…」

「ソロ…。見括られたものですね。翼の1つ2つ増えたくらいで、私たちの目が変わると

 本当に考えているのですか? 驚かないとは申しませんが、すぐ馴染みますよ?

 なんたって、魔族の王だった者まで仲間としているパーティなんですからね。」

不安を払うよう、明るく砕けた口調へ変化させて、クリフトが彼を覗き込む。

「…どんな姿でも、居てくれるの?」

「ええ。たとえコウモリのような羽と尻尾が生えたって。気にしませんよ?」

「ふふ‥ミニデーモンみたいな?

 ‥そしたらオレ、魔物のふりしてデスパレスに住み着いちゃってもいいな。」

涙を引っ込めて、抱きしめてくる腕に甘えたソロが微笑した。

「…魔物のふりなどせずとも、お前なら歓迎してやるぞ?」

クリフトの背後から、よく知った心地よい低音がソロへと届いた。

「‥ピサロ。」

「いい機会だから申し渡しておく。邪神官を滅した後、私がすんなり身を引くと思ってい

 るなら残念だったな。煩い保護者が居なくなれば、お前を連れ帰るのになんの不都合も

 なくなる。‥私の元へ来い、ソロ。」

半歩横へ引いたクリフトに代わって、ソロの前へと立ったピサロが静かに言葉を紡いだ。

「‥なに、言ってんのさ。…旅が終わったら、彼女と平和に暮らせばいいだろう…?」

「それは出来ぬな。あれは魔城では暮らせまい。土地が合わぬからな…」

「ピサロがロザリーヒルで暮らせばいいじゃないか!」

「それも無理だ。私が留まれば、いらぬ災いを招くだけだからな。」

「…でも。…そんなコト、いきなり言ったって‥。オレ‥‥‥」

「‥いずれにしても。独り暮らしは却下だ。翼があろうとなかろうとな。」

「なっ…。‥いつから…聴いてたんだよ…?」

「‥お前が泣き出した辺りだな。…いつまでも戻らぬから迎えに来たのだ。」

2人の会話自体は、ほぼ最初から聴いていたピサロだったが。姿を視認した時点を魔王は

ソロへ伝えた。

「お前は下らぬ事で悩み過ぎる。」

そう言って、ソロの眦に残る滴をピサロが拭う。

だが‥再び溢れ出した涙で、頬はぐっしょり濡れてしまった。

「な‥んで…なんで‥2人とも、優しいの?

 …そんな風に言われたら…せっかくの決心が鈍っちゃうよ‥‥‥」

「それはよかった。独りでひっそり‥なんて、許しませんからね?」

ぽろぽろと泣くソロの頭を撫ぜ、クリフトが口を開けば、

「人間の目から逃れたいなら、我が元で暮らせばよい。」

ソロの手を取ったピサロがその甲へ口接け、誘う。

息の合った動作に、ソロは泣き笑いのような笑みを浮かべて、コクコク頷いた。



その時が来たら――



また同じように悩むのだろう。

けれど‥

今のその心遣いが胸に染みて…暖かな想いに満たされたソロであった。











2006/5/14











あとがき

なんだかもう、甘甘な魔王さまと神官さんですね(^^;
独りが嫌いなクセに、すぐ独りになろうとするソロなので。心配は尽きません。
えっと…
ここから裏の「ツタ」に続きます。(結局本編になった…)
なので次回は「ソロのいない日」の続きのお話になります。

といったところで。
ここまでお付き合い下さった方、ありがとうございました!!



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