15




「あら‥珍しいわね、ソロが何か書いてるなんて‥」

居間のローテーブルの前に座り込んで、せっせと紙に何か書き込んでいる様子のソロに、

主寝室から出て来たミネアが声をかけた。

「ミネア。もう話は終わったの?」

「ええ。姉さんとシンシアもすぐ来るわよ。それで‥何を書いてたの?」

「うん、あのね‥これ。なんだか分かる?」

ソロがメモを彼女へと手渡した。

彼が寄越したメモには、[バニラ・チョコ・ストロベリー・ミント・紅茶・コーヒー]

といった単語が並んでいる。

「なんだかアイスのメニューみたいねえ、それ‥」

ミネアの背後からひょっこり顔を覗かせたマーニャが、メモを眺めながら呟いた。

「うん、そうなんだ。マーニャよく分かったね。」

「まあね。で、そのメモどうするの?」

ソロが好きなフレーバーが並んでた時点で察した姉妹だったが、にっこり顔の彼に、

マーニャも楽しそうに返した。

「うん。後でね、おやつの時間にピサロが買いに行ってくれるって言うから。

 3人は何がいいかな‥って。覚えてるのを書き出してみてたんだ。」

「へえ〜。気が利くじゃない。ぴーちゃんも。」

「そうね。アイスだったら、シンシアも食べられそうね。」

「アイスってなあに?」

姉妹が納得顔で頷くのを不思議そうに眺めながら、シンシアが訊ねた。

「あ、うん。あのね‥冷たくて甘くてね、口に入れると柔らかく溶けちゃう不思議な

 食べ物なんだ〜」

ソロの説明に首を傾げたシンシアだったが、楽しそうに語る彼の姿に、クスクス笑った。

「シンシアが好きなコーヒー味のもあるんだよ。」

「へえ〜。よく分からないけど、確かに興味はあるわね。」

「氷菓子だから持ち帰るって発想なかったけど。いいもの思いついたわね。」

「本当ね。じゃあ、彼の気の変わらないうちに、買い出しリスト纏めてしまいましょうか。」

ミネアがソロにメモを返す。

「そうだね。」



女子一同とソロの期待に満ちた眼差しに見送られ、午後一の仕事を終えたピサロは早速

アイスクリームの美味しいと評判のソロお気に入りの店のある町まで移動呪文で出掛けた。

「なんだか申し訳ないわねえ‥」

移動呪文の光が消えた空を眺めながら、シンシアが微苦笑する。

「大丈夫だよ。前にもピサロにアイス買って来て貰った事あるもの。」

「ソロが臥せっていた時の話?」

「うんそう。食欲落ちてた時だったけど、アイスは食べれたの思い出してさ。

 シンシアにも食べさせてあげたくなったんだ、オレ。」

「ソロがとっても気に入ってるのはよく伝わったから。私も楽しみよ。ふふ‥」



「買って来たぞ。」

それからしばらく経って。ピサロが箱を抱えて戻って来た。

「お帰りなさい、ピサロ。すごい大きな荷物だね。」

頼んだ分と保冷用の氷を考えても、ちょっと大きい箱をしげしげ眺めながら、ソロが首を

傾げさせた。

「まあな‥」

ピサロは口の端を小さく上げて答えると、一抱えある木箱をテーブルの上に乗せた。

箱の中には宝箱っぽいものと、包みが1つ並んで入っていた。

「頼まれたアイスはその中だ。溶けないうちに分けると良い。」

「あ、うん。ありがと。」

隣の箱も気になったが。溶けても困るので、先にアイスクリームを頂こうと素直に従う。

「みんな〜お待ちかねのアイスが到着したよ〜」

ソロが弾んだ声で居間に居た女性陣に声を掛けると、わあっと歓声が上がった。

「‥貴様は行かぬのか?」

テーブルの側に立つクリフトに、ピサロが訊ねる。

「あなたは甘いものよりもコーヒーの方が嬉しいかと思いまして、準備してたんですが‥。

 その箱の中身も気になりますね。」

「まあ、こちらは後のお楽しみだな‥と言いたい所だが。コーヒーの礼だ。開けて見ろ‥」

ニッと人悪く笑んだ魔王に促されて、クリフトは謎の箱を開けて見たのだった。

「これは…」

意外そうに中身を眺めた後、クリフトはすぐに箱を閉じ、にっこり微笑む。

「そうですね。後での方が良いでしょう、これは…」

2人はそう納得しあうと、淹れたてのコーヒーを持って、居間へと移動するのだった。

「あ。ピサロもクリフトも遅いじゃない。溶けちゃうよ?」

銘々に器に盛ったアイスが行き渡った所だったらしく、ソロが彼らの分をと、ローテーブル

の端に2つ容器を並べた。

「それは済まなかったな。」

そう形だけ謝って、ピサロが自分の分らしい容器を手に取り空いているソファへと腰を

下ろす。

クリフトも同様に器を手に取ると、彼が座ったソファの反対端に腰掛けた。

彼らが着席するのを確認したソロが、「頂きます」と弾んだ調子で言うのを皮切りに、

銘々が同じように声をかけて木板の角を丸くしただけの簡易スプーンで溶けかかった

ソレをすくって口に運ぶ。

「どう‥かな、シンシア?」

彼女が食べるのを見守っていたソロが、ドキドキと声を掛けた。

「うん‥本当に冷たくて甘いのね。コーヒーのほんのりした苦さがまた、いい感じ…って、

 あら。いやね。皆も早く食べて下さいな。溶けちゃいますよ?」

一同の視線が集中してるのに気づいたシンシアが、困ったように微笑むと、再びスプーン

でアイスをすくった。

「ん〜この冷たさと、口に入れるとすうっと溶けるこの感触が堪らないのよね。

 やっぱり美味しいわ〜」

「ええ。ソロの説明聞いた時は首傾げてしまったけれど。

 確かにそんなデザートね、これ…とても美味しいわ。」

マーニャがうっとり語ると、シンシアもにっこり続いた。

「でしょう? 良かった〜シンシアが気に入ってくれて。

 そうそう。こっちのもちょっと味見してみる?」

そう言って、ソロが自分の器を彼女に差し出した。

因みに。ピサロ達の対面にあるソファには、ミネア、マーニャ、シンシアが座り、

ソロはソファとローテーブルの間、ラグの上に座ってアイスクリームをほおばっている。

ローテーブルの下にふかふかのラグが入ったのは、新居完成の翌日。あの日は固い床に

直に座って同様に集っていたが、ラグ設置後は、ローテーブルを囲んで座って

おしゃべりに興じる事も増えた。

「わ‥いいの?」

ソロが差し出した器に入っているのはバニラと紅茶味の2種類。

シンシアは自分が選ばなかった紅茶味のアイスクリームを一口すくうと、早速口に運んだ。

「うん‥紅茶の香りが口の中で広がって、こっちも美味しいわね。」

「だよね。さっぱりした甘さがいいよねv」

「シンシア。良かったらあたしのも試してみない?」

にこにこ語らう様子を微笑ましく見守ってたマーニャが横から器を差し出す。

わいわいとアイスクリームを食べてる彼女達を眺めながら、対面のソファに座った

ピサロが半ば強制的に選ばされた1つをゆっくりと口に運ぶ。

「‥やっぱり甘いな。」

「まあ、そうですね‥」

クリフトもそう頷くと、ソロの髪に似た色のアイスクリームを1さじすくうのだった。



「ふう‥美味しかったわ。ごちそうさま。」

マーニャ・ミネアからも1さじづつ味見させて貰ったシンシアが、自分の分を食べ終えて

手を合わせた。

「良かった。全部食べ切れたね。」

「ええ。なんか大丈夫だったわ。本当に美味しかった。

 ありがとうソロ。それから‥ありがとう、ピサロ。」

目の前の彼に微笑んだ後、顔を上げたシンシアが、正面似座る魔王へと感謝を告げた。

「一応しばらく厄介になる身だからな。役割果たしたまでだ。」

一瞬だけ驚いた顔をしたものの、すぐにいつものポーカーフェイスでぼそっと返す。

そんな彼にマーニャが茶々を入れて、どっと場が沸いた所で、来訪者があった。



「やあアドン。いらっしゃい。」

「こんにちはソロさん。みなさんも‥賑やかで楽しそうですね。」

「今丁度お茶の時間なんだ。アドンもゆっくりして行けるのかい?」

「あ、いえ。陛下にお願いしてた書類の受け取りと、追加の案件が発生したので、報告に‥」

「うわあ‥また仕事増えたんだ。大変なんだねえ、本当に‥」

ソロが心底気の毒そうにピサロを眺める。

「急ぎの案件はこれで終わりますから。

 後はみなさんとの時間が優先になっても、こちらは問題ないですよ。」

アドンがにっこり説明するが、ピサロは渋い顔を浮かべ側近を睨んだ。

「軽口はそれくらいにして、さっさと本題に移れ。」

そう促されたアドンだったが、興味津々見つめる視線に居心地悪そうな姿を見せ、

ピサロが席を立つ。

「神官、貴様も付き合え。」

「ええ〜私もですか?」

「話は一度で済ませたいからな。来い。」

顎でシャクるよう促されて、不承不承クリフトも立ち上がった。

そのまま彼に続いて、家の外へと3人が移動する。

「クリフトも大変ねえ‥」

扉の向こうに気配が消えると、ミネアがほうと嘆息した。

「そうねえ。でもなんだかんだと信頼されてるのね、ぴーちゃんに‥」

「また妬いているの?」

眉間に皺を寄せているソロに、シンシアが訊ねた。

「え‥?」

「ココ‥皺寄っているわよ?」

こつんと額を指で押されて、ソロが微苦笑する。

「やだなあ。オレだってなんでもかんでも妬いたりはしないよ?

 それよりさ、気分はどお? 少し横にならなくても平気?」

覗き込むように窺っていたシンシアの頬に手を伸ばして、ソロが心配顔を寄せる。

「平気よ‥。でも、そうね‥少し外の風に当たりたいかな‥」

 

シンシアとソロが連れだって、散歩へと出掛けた。

「日毎に緑が濃くなって来るわね‥」

「そうだね。雨続きだったけど。緑は喜んでいるんだね‥」

「そうね。そうして季節が巡って行く度、村の痕跡が埋もれて行く‥」

ほとんど形を残していない建物の跡を眺めながら、シンシアがぽつりと呟いた。

「シンシア‥」

「あ‥別に感傷的になっているんじゃないのよ?

 ただ時の流れっていうか、変わっていくものだな‥って。う〜ん、上手く言えないわね‥」

シンシアは天を仰いで、緩く首を振った。



「これがソロ達が植えてくれた苗木ね。」

しばらく歩いて、シンシアが望んだ場所に到着すると、膝を折った。そっと枝に触れて、

地面へと手の平を着いた。

「上手く根付いてくれるといいわね‥」

「うん。」

彼女の隣に膝を着いたソロが、同じ目の高さで桜の苗木を見つめた。

「桜‥か。どんな花なのか、私も見てみたかったわ‥」

ぽつりと独り言のようにシンシアが呟く。

「夢のように綺麗で、儚くて‥優しい‥‥

 ソロから話を聞かされた時、ぱあっと浮かんだ風景がね、あるの。すごくドキドキして、

 少し切ないのだけど。

 温かいものが込み上げてくるような‥ふふっ、勝手にイメージ膨らませ過ぎかしら?」

「シンシア‥」

彼女はすっと立ち上がると、そのまま軽やかに踊るような足取りで、近くにどっしり

構える樹木の元へと移動した。

その幹に寄りかかって、うっとりと瞼を閉ざす。

「色々ね、想像してみるのよ。苗木が大木になって、花を咲かせる頃には、この村は

 どんな姿をしてるのかしら‥って。お花畑は残っているかしら?

 私達がよく木登りした大木は? きっと‥色々と変わってしまうのでしょうね‥」

少しずつ声のトーンを変化させたその声音は、最後には寂しげに紡がれた。

「変わらない方が良い?」

慎重に訊ねるソロに、シンシアは緩く首を振った。

「‥初めはね、私が知らない村の姿を寂しいと思ったし、途惑いも確かにあったの。

 だけどね、ソロと旅をして来た彼らと過ごしながら、私自身も変わって行っているのを

 感じたわ。そしてね、思うの。

 変わって行く事は寂しいけれど、でも成長した苗木の姿を想像するのは楽しいの。

 そんなワクワクはね、日毎膨らんで寂しさをとっくに凌駕しちゃった‥!」

シンシアが顔を綻ばせ、言い切った。

 
      



















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