「やあ。探しましたよ。」

久しぶりに会うローレシアの王子アルフレートに、僕はにっこり話しかけた。

「あ…そう。」

なんだか不機嫌 だな。

棘を含んだ呟きが落とされたけど、気にせず同じテーブルに腰掛けた。

僕と違った癖のない焦げ茶の髪を無造作に束ねた黒瞳の彼は、ローレシアの王子。

僕より1つ上にあたる16歳。明るくハキハキしたいつもの彼とは大分違う、

どこかヤサグレ感の漂う彼の姿に、かける言葉を探してしまう。

「…えっと。久しぶりですね。アルフレート王子。」

とりあえずにっこり話すと、彼は軽く息を落として、口を開いた。

「堅苦しいのは抜きにしようぜ、ルーク。ムーンブルグの事、聞いてるんだろ?

 取りあえず、早速向かうとして…」

まるで今すぐにも出立しかねない様子で口早にしゃべる彼に、僕は慌てて言葉を挟んだ。

「あの…それが、実は…こちらを発つ前に、西の洞窟で入手したいアイテムがあるんです。」

そう伝えて。僕はその洞窟と、納められているアイテムについて、詳しい説明を始めた。

最初は怪訝な顔を浮かべた彼も、説明が伝わると、納得顔で大きく頷く。

「…なるほどな。確かに、後々必要が生じた時に取りに来るよりも、互いの連携を深める

 意味合いでも、洞窟探索はちょうど良いかも知れないな。」



ムーンブルグに出立する前に、僕達はサマルトリアの西にある洞窟へ向かう事を決めた。

ムーンブルグには、僕らと同じロトの血を引く王女アリアが居る。城を襲ったという

ハーゴンは、そのロトの血を恐れているのだと、以前城の老賢者が話していた事がある。

だから…

「アリアの事は心配だけどさ。あの堅牢なムーンブルグ城を攻め落としたとなれば、

 どんな難敵が待ち構えているか分からない。だからね、強敵に備える意味でも、

 鍛錬と思って取り組もうよ。」

洞窟の側で野営の焚き火を囲んで、僕は彼に語りかけた。

僕だって、早く彼女の元へ向かいたい。けれども、今の自分達では、彼の地に生息する

魔物にすら遅れを取りかねないのも、悔しいが事実だ。

「まあ、確かにな。アリアが困った状況にあった時に、力不足で手が出せませんでした

 ‥なんてなったら、最悪だもんな。」

そう話すアルフレートに、僕もホッと肩を落とす。

リリザの町で会った時は、どこか殺伐とした雰囲気を纏っていたので、ちょっと驚いたけど。

‥うん、いつもの彼だよな。

「…そうだね。…無事で居てくれればいいけど‥」

本当に‥無事で居て欲しい。そんな思いで吐息を落とすと、アルフレートも同調するよう頷いた。

それから、洞窟攻略の前に、僕は自分の習得した魔法を彼に伝えた。魔法が使える‥と言っても、

ささやかな回復呪文と、攻撃呪文はギラが使えるだけ。それも、そう多用は出来ない。

そんな事を伝えると、彼は頼もしいと笑ってくれた。

背中を預けられる仲間が居るだけで、ありがたい‥とも。




「‥キアリーか?ルーク使えるのか?」

無事目当てのアイテムを入手して、洞窟出口を目指していた僕らだったが、キングコブラとの

戦闘で、アルフレートが毒を受けてしまった。生憎持ち合わせていた毒消し草は、既に消費して

いる。洞窟の出口まで、そう距離はないけど。体力が削られていく中、また戦闘が生じたら‥‥

僕はまだ成功した事のない呪文を試してみようと彼に持ちかけた。正直、成功するか自信ない。

けれど‥僅かな可能性でもあるなら、試したい‥そう思った。

「‥うーん、契約は出来てるんだけど。まだ発動出来たコトないんだ。

 でもさ、なんとなく‥今なら使いこなせそうかな‥って。」

正直にそう伝えると、怒るかな‥思ったけど、意外にも明るく彼は笑んだ。

「ああ‥失敗しても文句付けないから。試して見てよ。」

ホッとした僕は、まだ成功させた事のない呪文を詠唱すべく、呼吸を整える。

集中力を高めて、魔力を上手くコントロールして…ふと気がつくと、彼が眉間に皺を寄せていて、

僕は彼に声をかけた。

「‥アルフ?」

「‥あ、いや。なんでもないよ。ルークは魔力大丈夫なのか?」

痛みが酷いのかと心配したけど。そうではなかったようだ。

「うん、まあ余り残ってもないけどさ。薬草は残ってるし…なんとかなるよ。」

気遣いが嬉しくて、そう笑むと、僕は呪文の詠唱を始めた。

‥絶対に、成功させなきゃ!

「…キアリー!」

長い詠唱の後、一旦言葉を切り、力を一点に集め、放出した。

‥どうか上手く行きますように。

「うわあ…すごいな。毒消し草より速効性があるんじゃねー?」

軽く手を動かして見せながら笑うアルフレートに、僕もホッと微笑を浮かべる。

「…良かった。ああは言ったけど‥本当はちょっと自信なかったんだ。」

そうこぼすと、アルフレートが感心したよう僕の肩を叩いた。

「ルークはすごいな。どんどん強くなってるのが、よく分かる。」

「そんな‥。アルフだって、最初はてこずっていた魔物をあっさり倒してるだろ?

その方がすごいよ。」

自分は腕力ないから、彼のように一撃で魔物を仕留めるなんて出来ない。

呪文だって多用出来ないから、あまり効率よい戦闘が出来ないのがもどかしい。

「そう言って貰えると、俺も嬉しいよ。俺達いい相棒になれそうだな。」

「うん。アリアを助けて、ハーゴン倒すまで‥よろしくね、アルフ。」

「ああ、こちらこそ。頼りにしてるぜ、ルーク。」

互いの拳を合わせて、僕らは誓いを新たにした。




上手く洞窟を抜けた所で、間近の茂みに気配を感じ、僕はじっと茂みを見守った。

「…どうした?」

堅い声でアルフレートが訊ねる。

「‥あ、うん。なんか気配が…」

言い終わらないうちに、茂みが大きくざわめいた。

「あら‥まあ…!驚いたわ。」

茂みを掻き分け現れたのは、冒険者には見えない若い女性。

彼女は僕らに驚いた様子で目を丸くし、口元に手を当てた。



この近辺に一人暮らしをしているという女性は、長い黒髪を後ろで束ね、町娘のような格好を

していたが、一見懐っこい紫の瞳は、どこか他人を落ち着かなくさせる‥そんな雰囲気を纏って

いた。

なんだろう、この人。上手く言えないけど、酷く嫌な感じがする。

彼女は夜道は物騒だからと、僕らに彼女の家へ泊まるよう勧めて来た。

警戒する僕に気付いたアルフレートが、断ってくれたのだけど‥強引に押し切られてしまった。

洞窟から少し歩いた森の奥に、ひっそり佇む家があった。

木こり小屋のような佇まいの古びた家は、中に入ると小綺麗に整頓され、生活感を覗かせる。

「狭い所ですけど。魔物の心配はせずにすみますわ。ゆっくりくつろいで下さいね。」

そう言って、彼女は僕らを家の中に招き入れた。

「なんだか強引に誘ってしまって‥。さあ、どうぞ。温まりますわ。」

今は一人暮らしだと言う彼女が、テーブルに着き微笑んだ。

湯気の立つ飲み物のカップが、僕らに差し出される。

「祖母が亡くなってから、ずっと一人なものですから、おしゃべりする相手が居なくて。

 ‥あ、そう言えば。紹介がまだでしたね。私はエリスと申します。薬草の調合師ですのよ。」

「ああ‥それで。あ、俺はアルフ。こいつがルーク。見ての通り、旅の者です。」

壁に設置された棚にズラリと並んだ小瓶や壺類などを見回して、納得顔で頷いたアルフレートが、

簡単な紹介をした。

しばらく雑談した後、食事の支度が整うまでくつろぐようにと、彼女が祖母が使っていたと言う

部屋へ案内してくれた。

狭い部屋を占領するように、ベッドが2つ並んだその部屋の隅に荷を置いて、アルフレートが

右側のベッドへ腰を下ろす。

「‥悪かったな、ルーク。町へ戻るつもりだったのに。寄り道になっちまったな。」

「ううん、それは構わないんだ。ただ‥一応警戒怠らないでね。‥聞いた事ないんだ。

 この辺に薬師が住んでるなんてさ。」



取り留めない雑談を交わしながら、夕食をご馳走になって、僕らはその片付けを手伝った。

水汲みを頼まれたアルフは、井戸へ向かい、僕は炊事場で使った食器を洗っていた。

「ありがとうございます、ルークさん。」

テーブルを整え終えたエリスが炊事場へとやって来た。

「いえ。ご馳走になったんですから、これくらいは当然です。」

「ふふふ‥甘やかされた王子様とは思えない気配りですのね。」

「‥どうして王子と?」

「あら‥ルーク様のお顔を知らない民など居りませんわ。」

にっこりとエリスが微笑みかけ、距離を詰めた。

「王子様とこうして近しくお話出来るなんて、とても光栄ですわ。」

緊張を走らせてたルークは、更に顔を近づけて来る彼女と距離を取るよう後退った。

だが、すぐ壁に阻まれて行き場を失う。

「‥ふふ、ねぇ王子様はもうご存じかしら?」

「‥何を?」

唇が触れ合いそうな距離で覗き込まれ、かあっと頬が染まり上がる。

「ふふ‥女‥ですわ。」




                

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