チュンチュンチュン…

小鳥の囀りに誘われて、ソロはぱちっと目を覚ました。

ぼ〜っと身体を起こすと隣から声が届く。

「おはようございます、ソロ。」

「おはよう、クリフト。」

にっこり笑顔に応えるように、ソロも笑んで返す。ふ‥と視線を横に滑らせると、既に身

支度の整った様子のピサロが佇んでいた。

「‥あ。…おはよう。」

ばっちり目が合うと、ソロが途惑いつつ挨拶を送った。心なしその頬に朱が走る。

昨晩とは打って変わった、どこか羞耻ような仕草を魔王は不思議そうに見つめた。

「…ああ。」                             羞耻→はにかむ

小さくそう返答し、ふいと窓辺へ向かってしまった。

その後ろ姿をソロがぼんやり眺める。



――そっか。一緒に旅するって‥こうゆーコトなんだよな。



ずっと以前、叶わないと知りつつ願ったモノが、あっさり叶ってしまった。

(…思ってたのとなんか違うけど。でも‥‥‥)



――やっぱり、嬉しいかも…



「昨晩はよく眠れました?」

ぼんやりしているソロに、クリフトが話しかけた。

「あ‥うん。やっぱり疲れが溜まってたんだね。クリフトは?」

「ええ、ぐっすりでした。きっと他のみなさんもそうだったのでは? あちらで過ごすの

 は消耗しますからね。」

「そうだね。今日はミーティングでいろいろ決めるつもりだったけど。

 少し休んだ方がいいのかなあ‥?」

なんだかんだと慌ただしい日々が続いたのを心配したソロが、ぽつんと呟いた。

「まあその辺りも含めて、話し合われたらいかがですか?」

「そうだね。んじゃ‥用意して朝飯に行こうか。」



食堂へ向かうと、テーブル席に1人座って、ライアンが居た。

「おはようライアン。」

「おお、おはよう。なんだ‥そちらの部屋は皆早起きなのだな。」

ソロ・クリフトに続いてやって来たピサロに目を止め、ライアンが笑った。

「そう‥? じゃ、まだブライとトルネコは寝てるの?」

「ああ。やはり大分疲労が溜まって居るようでな。」

「そっか‥。やっぱり少し休んだ方がいいのかな。」

食堂に他のメンバーは見当たらない。皆まだ眠っているのだろう。

ソロとクリフトは、ライアンと同じ席の椅子を引き、腰掛けた。

席は4つあったのだが、ピサロはそのまま奥にあるカウンター席へ向かってしまった。



ライアンと3人、今後の予定や雑談を交わしながら、朝食を終えたソロ達は、ミーティン

グ前に情報収集に向かおうと、宿を出た。それにはピサロも同行する。

「…こんな朝から話が聞けるものなのか?」

朝の光を煩わしげに思いながら、ピサロが憮然と訊ねた。

「…神殿の人達は朝早いみたいだから、大丈夫。ピサロは宿に残っても良かったんだよ?

他のメンバーが起きて来たら伝えて貰えるし…」

(‥ってゆーか。一緒に来るとは思わなかったのに。)

こそっと吐息を落とし、ソロがサクサク石畳の路を歩いて行く。

晴れ渡った空。ふわりとそよぐ風は、なにかしら甘い薫りを運んで来る。

「ねえ‥何の匂いかな、これ? 甘い匂いだね‥」

すうっと大きく息を吸い込んで、ソロがクリフト達に訊ねた。

「‥木蓮ですかね? あちらこちらで見かけますから。」

「あの白いの?」

「ええ‥白木蓮ですね。あちらの紫のも同じですよ。」

「へえ〜。やっぱり地上はいいよねえ‥。

 たまにはゆっくりぼ〜っと花でも眺めてたいな。」

クリフトと会話を交わしながら、ソロはいつもの調子で彼に腕を絡めた。

慣れたライアンは微笑ましくそれを見守っていたが。ピサロがぴくっと眉を上げる。

「‥おい。目的地には、まだ着かぬのか?」

刺を含んだ声が背中に掛けられ、ソロはクリフトの腕を離し、前方を指した。

「‥もうすぐ。あそこだから。」



「…で。結局なんの情報も得られなかった訳?」

宿へ戻ると、すっかり待ちぼうけを食ったようなメンバーと、早速ミーティングが始めら

れた。宿の主人の好意で借りた食堂で。2つ並べたテーブルを中心に集まったメンバー。

まず最初に、神殿での情報収集の成果について報告を済ませた。

それを聞いたマーニャがガッカリした様子で嘆息する。

「‥で。ソロ、これからどうするの?」

アリーナが問いかけると、「うん‥」と答えながら、ソロは世界地図をテーブルに広げた。

「とりあえずさ、全然情報ない訳でしょ。だから‥各地を回って、情報収集しようかな

 ‥って。」

「今まで行った町を回るの? 随分数あるわよ?」

「うん、判ってる。それでね‥パーティを3つに分けて、それぞれ担当決めて回ったら

どうかな‥って思ったんだけど。」

「3つ‥?」

「移動呪文出来るメンバーを振り分けて、3つ。これならさ、そんなに時間かかんないと

 思うんだ。」



結局。ソロの提案通り、3つに別れたメンバーで、各地を回る事に決まった。

振り分けは…

ソロ・クリフト・ピサロ。アリーナ・ブライ・ライアン。ミネア・マーニャ・トルネコ。

「ソロさん、私も是非協力させて下さい。」

メンバーを発表すると、残されたロザリーが願い出た。

「ロザリー。でも‥情報収集って、いろんな人間と関わるコトになるよ?」

「大丈夫です。戦闘のお役には立てませんでしたが、私にも出来る事なら、手伝いたいの

 です。どうか、お願いします!」

「ロザリー偉いわ! いいわ。彼女のコトはマーニャ姐さんに預けて頂戴。

 大丈夫、ちゃんと用心はするから。」

どんと胸を叩いて、マーニャがソロとピサロへ目をやった。

「…分かった。ピサロもそれでいい?」

ちらっと彼を見やると、ピサロは深々と嘆息した後頷いた。

「‥あまり無理はするな。」

「はい‥ピサロ様。ソロさん、マーニャさんもありがとうございます。」



それぞれ担当する町やその他細々した事項を確認し合い、一行は拠点に使おうと決めたエ

ンドールへ向かった。

到着したのはやや遅い昼下がり。宿を取ると一行は解散した。

情報収集へ向かうのは明日から。

部屋割りは‥ほぼ昨日と同じ。

ソロはクリフト・ピサロとの3人部屋へ、肩を落としつつ向かった。

最低でも3日。部屋割りはこれで決定らしい。



「クリフト。お昼食べに行こう!」

荷物を置くと、大分遅くなってしまった昼食に、ソロが誘った。

「そうですね。朝食が早かったせいか、もうぺこぺこで…」

「うん、オレも。外行って食べようね!」

何を食べようかとソロがにこにこ笑顔を浮かべる。

「‥私も同行するぞ。」

部屋の戸に手をかけたソロに、苦い顔のピサロが口を開いた。

「‥え。ピサロも来るの…?

 一応今日はもうオフだから、好きに過ごしていいんだよ?」

「では問題あるまい。なにか不都合でもあるのか?」

険のある瞳で、クリフトを睨み付けるピサロ。

「いいえ。構いませんよ、別に。ね、ソロ?」

魔王ににっこり微笑んで、クリフトは眉根を寄せるソロへ話しかけた。

「え‥あ、うん。…別に、いけなくはないけど。」

ソロは不承不承頷くと部屋の戸を押し開いた。



大通りを歩きながら、ソロが選んだのはパスタの専門店。

3人は丸いテーブル席に落ち着くと、早速メニューを眺め始めた。

それほど広くはない店内だったが、女性客が多かったせいか、妙に店内が騒めく。

通りを歩いている時も感じたが、どうやらこのメンバーは目立つらしい。

クリフトは翠の髪を揺らし、熱心にメニューに見入っているソロと、銀髪の美丈夫魔王を

見やった。

「ソロ‥注文は決まりましたか?」

「うん。迷ったけど、決めた。」

「ピサロさんも‥大丈夫そうですね。」

メニューを一瞥した後、すぐに閉じてしまった彼にそう声をかけると、店員を呼び付けた。

「え‥とね、オレはミートソースとオレンジジュース。」

「「ペペロンチーノ」

 お願いし‥え?」

ピサロとクリフトの注文が同時にされた。

「はい、承りました。他にはよろしいですか?」

「あ‥ええ。‥それでお願いします。」

チラっと魔王へ目をやると、無言で瞳を伏せていた。クリフトはメニューを店員に返しな

がらそう告げ、運ばれて来た氷水を手に取った。

「なんか…正反対に見えるのに。好みは似てるんだ‥」

店員が去った後、ぽつっとソロがこぼした。

思わず口に含んだ水が気管に入り、クリフトが噎せる。魔王もまた、訝るような表情を一

瞬浮かべたが、元凶であるソロはもう、側を通った店員が運ぶ料理に目がいっている。

神官に魔王。まるで接点のない2人の共通点は、のほほんと店内を眺めていた。



「いっただきま〜す。」

やがて並べられた料理を前に、ソロがにこにこ顔で手を合わせた。

ぱくぱくぱく‥と勢いよく食べながら、ふ‥と顔を上げる。その視線の先には、ピサロが

居た。

(…ピサロも普通にご飯食べるんだな‥。)

きれいな動作でパスタを食べている彼を、ぼんやり見つめるソロ。

幾度も夜を重ねたが、こうして食事を共にする事など考えられなかった。

つい見恍れてしまって、それに気づいた紅の瞳が交わされる。

ソロは慌てて俯くと、気忙しげに食事を再開した。



「ああ‥美味しかった。」

遅い昼食を終えると、店を出たソロが満足顔を浮かべた。

「これからどうします?」

「うん‥そうだね…あ。」

グルっと周囲へ目を向けていたソロが、教会の奥にこんもりとある山へ目を止め指さした。

「ねえねえ。あれって花じゃない?」

山の頂を白く染めている樹木。もしかしたら…桜? そんなコトを思いながら、ソロが目

を細めた。

「ああ‥本当だ。見事に咲いているみたいですね。」

「オレ、行きたい!」

「そうですね。お天気もいいですし。散歩がてらお花見に参りましょうか?」

「うん!」



通りをテクテク歩いていると、甘いバニラの香りが漂った。

ソロが誘われたように通りを折れると、路地を入ってすぐの所にドーナツ店が在った。

「ね、おやつ買って行こう?」

山を登ったらお腹空くから‥とソロがクリフトに頼む。

クスクスと笑ったクリフトが頷くと、ソロがワクワクとショーケースに張り付いた。

「ねえねえ、クリフトは何がいい?」

「よく分かりませんから、ソロが好きなモノ選んで下さい。みんなの分をね。」

みんな…と言われ、ソロは路地に入った場所で佇むピサロへ目を移す。ほとんど口を開か

ない彼だが、どうやらこのまま同行するらしい。

ソロはひっそり嘆息すると、ドーナツを選んでいった。

「飲み物も用意した方がいいですね。」

買い物を終えると、大事そうに包みを抱えたソロへ、クリフトが声をかけた。

「うん、そうだね…あ。あそこにお店あるよ。」



「いらっしゃいませ。なんになさいますか?」

店の扉を潜ると、早速店主が人好きする顔で話しかけて来た。

う〜ん‥と悩むソロの後ろから入って来たピサロが、先に注文する。

「あれを貰おうか。」

彼が指さしたのはブランデーの瓶。

「え…ピサロはお酒にするの?」

「花見なのだろう?」

「うん‥そーだけど。」

でも昼間から…?

そんな惑いを口の端で笑われ、ソロがムッと口を曲げる。

「じゃ‥オレもそうしようっと。クリフトは?」

「…付き合いますよ。」

オレだって子供じゃない…とブツブツ言う彼に肩を竦め、クリフトも追随した。