「ソロ、おはよう。」

食堂でクリフトと別れたソロは、ゆっくり宿の廊下を歩いてる所でアリーナ・ミネアと出

くわした。

「おはようアリーナ、ミネア。」

「おはようソロ。昨夜はよく眠れたみたいね。」

顔色がとってもいいわ‥とミネアがにこにこ微笑んだ。

「今日はクリフトと一緒じゃないのね。」

「あ、うん。なんか買い物があるんだって。」

「ソロは? なにか予定あるの?」

アリーナが続けて訊ねる。

「え‥別に。なにもないよ。」

「そう。なら丁度良かった! 私たちね、これからデザートの食べ歩きに出掛ける所なの。

ね、ソロも一緒に行かない?」

「食べ歩き‥?」

「ええそう。宿にね、この町のお菓子屋さんMAPがあって、貸して頂いたの。お店自慢

 の1品なんかも載っていたりするから、それを参考に回って見るつもりなのよ。ソロも

甘い物好きでしょう? 一緒にいかが?」

「ふう〜ん。確かに面白そうだね。いいよ、行く。」

「やった! 2人じゃ寂しいね‥って言ってたトコだったの。」

「あれ‥? そう言えば、マーニャは?」

「姉さんは二日酔いでダウン。今日は1日寝てるそうよ。」

ミネアが困ったもんだと苦笑した。

「そうなんだ。じゃ‥3人で行こうか。目一杯食べまくるぞ〜!」

ハリキリ顔で歩き出したソロに、アリーナ・ミネアが続く。

3人は美味しいデザート求めて、宿を後にした。



幾つかの店を食べ歩いた後、小休止に‥と訪れたのは、昨日クリフトと共に訪れたアイス

クリーム店だった。

「ここはね、宿の人もイチオシしてたお店なのよ!」

アリーナがウキウキと説明する。

「うん知ってる。美味しかったよ。」

ソロが小さく笑って応えた。

「あら‥ソロってば、もうチェック済み? 素早いわね。」

「いらっしゃいませ。あら‥昨日の…」

店の中へ入ると、ソロを憶えていた店員がにっこり微笑んだ。

「ようこそ、いらっしゃいませ。当店のアイスはお気に召して頂けましたか?」

「うん‥美味しかったよ。今日は昨日と違うの挑戦するね。」

ソロはそう応えると、アリーナ・ミネアと共に、早速アイス選びにかかった。



「うん、美味しいわ!」

店内の喫茶スペースで食べる事にした3人は、ガラスの器にホイップで可愛くデコレーショ

ンされたアイスクリームを早速ほお張った。

アリーナがほっぺに手を添え感嘆の声を上げる。ミネアもそれに相槌を打った。

「本当、美味しいわね。」

「うん。昨日は混んでたからテイクアウトしたけど。生クリーム付きなのもいいね!」

パクパクと、ソロもスリムなスプーンを使ってアイスを口へ運んだ。

「昨日って‥クリフトさんとでも来たの?」

「うん、そうだよ。」

ふと思いついたようにミネアに訊ねられ、ソロが素直に返した。

「ふふ‥まるでデートみたいね。」

「え…」

冗談ぽく笑うミネアに、ソロの頬が朱に染まる。

「クスクス‥そうね、ソロってばよく女の子に間違われちゃうものね。」

「え‥あ。…そっか。それで‥‥。」

普通男同士でデートにはならないのだ‥と、今更ながら思い至り、ソロが苦く笑んだ。

(…そーだよな。オレだって、最初は不自然だと思ってたんだ。あいつとの関係を‥)

いつの間にか、なんだか当たり前になってしまって。

気づいたら、そっちの方が自然になって…。だからオレは‥‥‥

「‥ソロ? 食べないと溶けちゃうわよ?」

「‥あ。うん、そーだね。」

手を止めてしまったコトを指摘され、ソロはのろのろとスプーンを口へ運んだ。

ミネアがそんな彼の様子を見ながらひっそり嘆息した事など、2人は気づかなかった。





「‥あ、クリフト。お帰りなさい。」

夕刻。宿の部屋。

アリーナ達との食べ歩きから帰った後、風呂を済ませて来たソロが自室に戻ると、外出中

のクリフトも戻って来て居た。

「ただいま、ソロ。」

ふわりと微笑むクリフトに、ソロも笑んで返すと、そのままベッド端へ腰掛けた。

「今日は1日留守にしてしまって、すみませんでした。」

荷物を机へ置いたクリフトが、ソロの元へ歩んで行く。

「ううん。オレも今日1日出てたから‥。クリフトは捜し物見つかったの?」

少し沈んで見える彼に、クリフトは元気づけるよう頭をくしゃりと撫ぜると、彼の隣に腰

掛けた。

「ええ。ソロは、どう過ごしてたんですか?」

「あ‥うん。アリーナとミネアとね、お菓子の食べ歩きして来たんだよ。」

「お菓子の食べ歩き‥ですか?」

「うん。全部で‥10店くらい回ったかなあ‥? 昨日のアイスの店も行ったよ。」

「それはそれは…」

甘いものばかり食べていたのだろうと容易に想像出来て、なんだか胃が重くなるクリフト

だったが、顔には出さず微笑んだ。

「それで…どうしてソロは元気ないんでしょうね?」

好きなものをたくさん食べて来た‥という割に、妙に口の重い彼を心配し、クリフトが柔

らかく訊ねた。

「別に…元気なくないよ。」

「いいえ。結構重症‥っぽいですよ?」

微苦笑しながら、彼の顔を横向けたクリフトが、正面から間近に彼を捉えた。

「…オレは‥さ。ううん…なんでもない。…オレ、疲れちゃったからもう休む。

 なんか…食べ過ぎちゃったから、夕飯パスするよ。‥ごめんね。」

込み上げてくるモノを押し止どめるよう顔を強ばらせたソロは、目線を外すと一気に伝え、

ベッドの中へ潜り込んでしまった。

「ソロ…」

泣き出しそうな瞳をしていた彼を、これ以上追い詰めるのも躊躇われ、クリフトは深く嘆

息すると立ち上がった。

「ソロ、食事に行って来ますね。…あとで戻ったら、また話しましょう。」

「オレ…寝てるもん。」

布団を頭から被ったまま、ソロがぽつんと返した。

クリフトは苦く笑い、布団の上から彼の身体をぽんぽんと叩き優しく告げる。

「では、行って来ます。‥気が変わったら、食堂に来て下さいね。」

そう伝えると、クリフトは静かに部屋を出て行った。

「‥‥‥‥」

残されたソロがそっと布団から顔を出し、部屋の扉を見つめる。

「…だって、オレ‥解らないよ。これ以上クリフトに甘えていいのか…。」

自分にとっての恋愛対象は男しか考えられないけれど。でも‥普通は違うのだ。

そんな当たり前の事すら‥オレは忘れてしまっていた――

ソロは初めて、他人の目にそれがどう映るかを考えた。

自分の悩み事ばかりに気を取られていたけれど。

とても不自然な事にクリフトを引き込んでいるのではないか?

考え始めると、差し伸ばされる手を取ってもいいものか躊躇われてしまう。

ソロは瞳に溜まった涙を払うと、再び布団の中に包まった。





部屋を出たクリフトは、思案げに顎に手を置き、どうしたのものかと嘆息した。

昼間何があったのか、詳しい話を聞きたいのだが…

そんな事を考えていると、階段を昇って来る足音がこちらへ近づいて来た。

「‥あ、クリフトさん。丁度良かったわ。」

「ミネアさん‥」



話がある‥と言うミネアと共に、クリフトは宿の屋上へ向かった。

人の出入りが少ない場所なので、込み入った話に具合がいいだろうと足を運んだ屋上には、

案の定、他に人の姿はなかった。

2人は外壁に身体を預けると、早速ミネアが切り出した。

「ごめんなさいね、呼び出したりして‥。」

「いえ。私も少し伺いたい事があったので…」

「‥もしかして。ソロの事…?」

「ええ。」

「そう。‥やっぱりソロ、まだ落ち込んでいるのね。」

「昼間あなたと姫様の3人で出掛けていたのでしょう? 何かあったのですか?」

「それが…」

ミネアは「よく解らない」と彼に答えた。

だが‥ソロの様子が変わった時のやり取りは覚えていたので、その前後の会話をクリフト

に伝えた。

「…でね、これは私の憶測でしかないのだけど‥。

 ソロは多分‥あなたの事を特別に想っていて…だけど、普通男同士でそういった関係は

 あり得ない…そう気づいて、ショック受けたんじゃないかしら?」

「けれどソロは…」

あんまりそういった事を気にかけている風でもなかったはず‥そうクリフトは思った。

「…ソロが以前付き合ってた人の事、クリフト何か聞いてる?」

少し迷いながら、ミネアはクリフトに訊ねた。

「‥ええ、少し。」

「そう‥。やっぱりあの子、あなたには話してたのね。」

「ミネアさんはどうして?」

「時々、夜間宿をこっそり出てたの‥姉さんも私も見てるから。…で。そのうちなんとな

 く理解しちゃったの。外出の理由。」

「そうですか…」

「結構長く続いてたみたいだったけど。…ソロ、あの件以来とても不安定になってしまっ

 たでしょう? 例の件のせいで、終わってしまったのでは‥って、姉さんも心配してる

から、最近やけに彼を構ってるのよね‥…と、あ、話ズレちゃってるわね。」

ミネアはあれ? ‥と一旦言葉を切ると、小さく咳払いをし、続けた。

「その付き合っていた彼の事があるから、ソロにとっては普通だったのだと思うの。

 あなたを慕う気持ちが芽生えるのも。けれど…その気持ちのカタチが、世間的な見方と

 違っていると、今日気づいてしまった。それで途惑ってしまっているのかも知れないわ。

 認められない感情ではないか…と。」

「ミネアさん‥。」

「クリフトさん。あなたも感じてると思うけど、ソロは今すごく不安定だわ。

 今あの子を支えてあげられるのは、あなたしか居ない‥そう思ってる。けれど…

 ただ親切だけでしかないなら、突き放す事も優しさだと思うわ。」

「親切だけ‥に見えますか?」

「‥いいえ。あなた、そこまでイイヒトには見えないもの。」

にっこり‥とミネアが宣った。

「流石マーニャさんの妹ですね。あなたも存外侮れないらしい。」

「ソロを可愛く思っているのは姉だけじゃないのよ。あの子があなたに懐いてしまってる

から、一歩引いてるだけって事、よく憶えていてね?」

「肝に命じておきますよ。では‥失礼します。」

にこやかに笑う彼女に同じよう微笑み返し、クリフトは場を後にした。



「‥ソロ…」

ミネアと別れた後自室へ戻ったクリフトは、すっかり眠り込んでる彼を確認し、小さく嘆

息した。そっと彼の顔を覗き込むと、頬にうっすら涙の跡が残っている。

「‥‥‥‥」

クリフトは静かにそれを指先で拭うと、額に落ちる柔らかな翠髪をふわりと掻き上げた。

ソロの落ち込みの原因は、本当に彼女の指摘通りなのだろうか?

心細げな寝顔を見つめ、クリフトは先程の彼女の言葉を憶い出していた。

「今更‥と思うんですけどね。」

深い付き合いをしている男が居ると、ケロっと伝えたソロが、今更それを気に病む‥とい

うのは、どうも理解出来ない。ミネアはソロの片思い‥という前提を考慮して、ああいう

解釈をしたのだろうが。クリフトは態度でも言葉でも示して来た。だが…

「本当に…忘れっぽいらしい‥‥」

自分がどれだけ[想われて]いるか。どうもソロの中で、ソレは簡単にリセットされてし

まうらしい。

クリフトは諦めたように微笑むと、小さなキスを落とし部屋を出た。



「あら‥クリフト。一人なの? ソロは‥?」

食堂へ向かうと、席に着いたばかりのアリーナが声をかけて来た。

「ソロは昼間食べ過ぎたとかで夕食はパスだそうです。」

「あらら☆ 一応夕食に響かないようにって、3時過ぎには切り上げたのよ?

ね、ミネア?」

同じテーブルに着く彼女に、アリーナが同意を求めた。

「ええ、そうね。」

「なんでも10軒近く回ったとか‥」

「う〜ん、確かにそれくらい回ったかしら。」

アリーナが指を折りながら頷いた。

「あ‥クリフト。一人なら私達と一緒に食べましょうよ? ね?」

ふと気が付いて、彼女は目の前に立つ彼と同席している姉妹へ視線を巡らせた。

「そうね。席も空いてるのだし‥よろしかったらご一緒しましょう?」

ミネアにもにこやかに促され、クリフトは空いてる席へ腰掛けた。

4人が腰掛けた所で、注文を取りに宿の娘がやって来た。



「‥そういえば、マーニャさんは一緒じゃなかったんですね?」

アリーナから今日の報告を聞いていたクリフトが、ふと疑問を口に出した。

「姉さんは二日酔いでダウンしてたから。夜になって、ようやく回復したらしいわ。」

「悪かったわね。ソロも一緒だって知ってたら、無理してでも付き合ったのよ?」

おいてけぼりにされた事を恨むよう、マーニャは妹を睨みつけた。

「残念だったわね、マーニャ。一緒だったら楽しかったのに。」

クスクス‥とアリーナが何やら思い出したように笑い出した。

「なんか今日のソロって‥モテモテだったわよね、ミネア。」

「え…?」

「なんですって!?」

クリフト・マーニャが同時にぴくんと反応する。

俄に緊張が走った場面で、険しい顔を向けられたミネアは内心ヒヤリと息を飲んだ。

アリーナの無邪気さが一番怖いわ…顔には出さず、ひっそり独りごちる。

「‥ええ、そうだったわね。ナンパして来た男の子達の8割方、ソロ目当てみたいだった

ものね。」

「そうそう。ソロってさ、元々可愛いけど、ここんとこなんかこう‥守ってあげたい儚さ

漂わせてるのよね。だからかなあ‥?」

「あら‥アリーナも気づいてたのね、それ。確かにここの所、危ういわよね彼‥。」

大袈裟な溜め息を混ぜながら、ミネアがぽつりと話した。

「それで、その男達はどうしたんですか?」

苛立ちを隠し、クリフトが訊ねた。

「もちろん、みんな断ったわよ? もうミネアがバッサリとね。」

頼もしかったわ‥とワクワク顔でアリーナが答える。

「あー、やっぱりあたしも行くんだったわ。」

後悔しきりのマーニャが項垂れた。