翌日。さらに洞窟の奥を目指した一行は、順調に予定をクリアしていた。

 今日の目標はチキーラ達が居るフロアの手前。

 昼飯をとる為広々とした明るい場所で、彼らは小休止する事を決め、手近にあったベン

チ代わりの石に腰を下ろした。

「やっぱり奥になる程手強くなるよな、魔物もさ。」

ふう‥と腰掛けた鷹耶がぽつんと零した。

「ええ‥そうですね。でも、大分タイミングが掴めて来ましたし。余裕は出て来ました

  よね。」

最初の頃とは段違いに連携が巧く作用していると、クリフトが微笑む。

「そうね。なんだかんだ言っても、ぴーちゃんて戦い慣れてるのよね。」

「そりゃそーだろ。なあ?」

マーニャの言葉に鷹耶が応え、隣に腰掛けたピサロを覗った。

ピサロは当然‥とばかりの仕草で返し、水筒を取り出し口をつける。コクコクと喉を潤

すと、彼はやっと口を開いた。

「この妙に広い洞窟も、そろそろ終点なのだろう?この様子なら、予定は楽にこなせる

  と思うのだが‥それでも終点の直前で引き返すのか?」

「ああそうだ。‥気に入らねーか?」

不満そうに言うピサロに、鷹耶が苦笑する。

「理由が解らぬ。」

「簡単だよ。戦闘準備が整ってねー。」

「?」

「あ‥あのですね、洞窟の最奥に2人組が住んでいるのですが‥。その‥いつ訪ねても、

2人は喧嘩なさってまして。‥で、話を伺おうと声をかけると、何故か戦闘モードに

持っていかれてしまうんですね。それで‥向こうが降参してくれるまで、話が出来な

  いんですよ。独特のテンポがある方達で‥その…」

「ふん‥。要は力でねじ伏せればいいだけの事だろう?」

鷹耶の隣に座るクリフトの説明を聞いたピサロが、自信たっぷりに笑んだ。

「そーなんだけどね。あいつら‥無駄に強いのよ。」

8人総掛かりでようやく勝てたんだから‥とマーニャが嘆息した。

「‥ま、そーゆー事だ。だから、あんたとの連携をみんなにも慣れてもらう必要がある

  んだ。がんばってくれよ、元・魔王サマ?」

「‥‥‥‥」

面倒そうに顔を顰めるピサロに満足したよう鷹耶が笑い返していた。



「…あ。お帰りなさい、みんな!」

 予定の場所まで無事辿り着いた一行は、一旦拠点であるゴッドサイドへと戻って来た。

 まだ夕刻辺りかと踏んでたのだが、地上へ戻るとすっかり夜の帳が降りていた。宿屋で

すでに部屋へ戻っていたアリーナが、彼らの帰宅に気づき、階段を走り降りて来る。その

後ろからミネアとロザリーもやって来た。

「遅かったのね、心配しちゃった。」

「洞窟では時間の感覚が狂うみたいですね。こんな遅い時間になってるとは思いません

  でした。」

アリーナにクリフトが応え苦笑する。

「遅すぎよ。まさか3日も帰って来ないとは思わなかったわ。」

「3日!?」

「ええっ!? それ本当、アリーナ?」

横で聞いていたマーニャも、それに驚いたように訊ねた。

「本当。泊まって来るとは聞いてたけど‥2晩も泊まるとは思わなかったわ。」

少し呆れながら、ねえ‥と後ろで聞いているミネアとロザリーに同意を求める。

「‥あたし達、泊まったのは1晩だよ。ねえ?」

今度はマーニャが鷹耶やクリフトへ同意を求めた。2人がコックリ頷いて返す。

「はあ〜。なんだかそれ聞いたら、どっと疲れが襲って来たわ。」

マーニャがずうーんと肩を落とし嘆息した。

「鷹耶‥あたしは明日はゆっくりさせてもらうからね。」

「ああ‥構わないぜ。てか、明日はピサロ以外メンバーチェンジするつもりだし。」

「なに?」

軽く断言する鷹耶に、すっかり傍観者でいたピサロが、表情を険しくした。

遅れてその場へやって来た残りのメンバーも、鷹耶の言葉の続きを待つ。

「あ‥あんたが休みたいってんなら、別にいーけどな。流石にバテたか?」

不服そうなピサロに、愉しげな顔を浮かべ、鷹耶が問いかけた。

「ふん‥あれしきで疲れる訳なかろう。」

「んじゃ‥問題ない‥っつー事で。明日はアリーナ、お前がリーダーになって洞窟巡り

して来いよ。ライアン・ブライ、出られるな?」

「ああ‥勿論。」

「身体がなまってきそうじゃったから、丁度よいわ。」

ライアン・ブライが力強く答えた。

「ピサロ、そーゆー事だから、明日は彼女の指示で動いてくれよ。

アリーナ、任せたぞ?」

「え‥ええ。いいけど‥。目標は?」

「う〜ん、とりあえず連携取る事‥だな。適当な所で切り上げて帰って来いよ。

んで‥様子聞かせてもらうからさ。」

「1日行ってていい?」

「構わねーぜ。」

それを聞くと、アリーナが俄然張り切るよう拳を握った。

「ふふ‥しばらく出られなかったから、うずうずしてたのよね。

ピサロ、明日はよろしくね! たっぷり付き合ってもらうわ。」

「…ああ。」

にこやかに告げられ、ピサロが不承不承応えた。



遅い夕食をとった後、鷹耶とクリフトは一旦部屋へと戻った。今夜の部屋は3人部屋。

もう1人の部屋の主ピサロは、食事の後風呂へ向かってしまったので、しばらくは戻らな

いだろう。鷹耶は荷物をベッド脇に置くと、窓際にある机に腰を預け窓を開け放ち、夜の

町へ視線を注いだ。

「‥やっぱり地上の風のが気持ちいいな。」

「ええ‥そうですね。」

同じように荷物を置いたクリフトが、彼の傍らに立ち、点々と灯る街明かりを見つめる。

鷹耶はそんな彼に笑んでみせると、ふと彼の髪に手を伸ばした。さらりとした髪が指の

間を潜り抜ける。梳きながら、頭をそっと固定させた鷹耶の顔が間近に迫る。クリフトは

瞳を閉じると、彼の首に腕を回した。

「ん‥‥」

しっとりとした口づけが交わされ、クリフトが頬を染める。彼は鷹耶がしたように緑の

髪を梳いてみせると、身体を僅かに遠ざけた。

「クリフト‥?」

「ふふ‥私たちも先に汗を流して来ましょう。このままだと、まだ洞窟に居るみたいで

  落ち着かないですから‥」

「ああ‥そうだな。な‥その後‥‥」

彼の肩を抱きながら、鷹耶が甘い声で誘いかける。

「…ええ。僕も今夜は‥‥」

甘えた仕草で返すクリフトに、鷹耶が破顔させる。だが…

「でも‥この部屋ではやめて下さいね?」

譲れない部分はきっちり押さえる、しっかり者のクリフトだった。



「‥貴様達も来たのか。」

 大浴場へ向かうと、上がったばかりのピサロが脱衣所で着替えを済ませた所だった。

「そ。1日の疲れを流さねーと落ち着かないからな。」

「あの‥ピサロさんは明日も出る事になってしまいましたけど、大丈夫なんですか?」

気になっていたのか、クリフトが遠慮がちに訊ねた。

「ふん‥問題はない。面倒だが‥必要なのだろう?可笑しな2人組と戦う為にな。」

「え‥ええ。」

「せいぜい見せて貰うさ。他の者の実力とやらをな。」

「あんたもしっかり働いてくれよ? お互いの動きを覚えて貰う為の洞窟攻略だぞ。」

偉そうに話すピサロに、鷹耶が念を押す。ピサロは口の端を上げ承諾を示すと、「ところ

で‥」と切り出した。

軽く腕を組んで鷹耶とクリフトを眺めるピサロが、余裕を含んだ笑みを浮かべる。

「‥なんだよ?」

「私は部屋へ戻ってて構わないのか?」

「…? 戻ればいいだろ。お前の部屋でもあるんだから。」

鷹耶は妙な事を言い出すピサロに、訝しみつつ返答した。

「そうか。ならば今夜は先に休ませて貰うとしよう。」

「ああ。そうしろよ。いくらお前でも、休まねーと明日辛いだろ。」

素で返す鷹耶に、ピサロはフッと口元を緩ませると、踵を返した。用は済んだとばかり

に立ち去る背中を、残された2人は黙って見送ったのだが‥彼の姿が扉の向こうに消える

と、クリフトが何事か思い当たったように小さく声を上げた。

「なに? どうした、クリフト?」

「…なんでもありません。お風呂‥入りましょうか。」

上目遣いに鷹耶を見つめたクリフトは、小さく吐息をつくと、どこか疲れたようにそう促

した。脱力した様子の彼に、鷹耶は追求を諦め従った。



「はあ…。やっぱりゆったりしたお風呂は気持ちいいですね。」

 汚れを落とし湯船に浸かったクリフトが、ほう‥と深い息を吐いた。時間が遅いせいか、

鷹耶とクリフトの他に人影はない。リラックスしくつろぐクリフトの隣に、全身を洗い終

えた鷹耶が追って入って来る。

「こうして貸し切りみたいだと、尚更な。」

すぐ隣に座った彼が、上機嫌に笑い、クリフトの肩を抱き寄せた。

「…その辺は同意為兼ねるんですけどね、僕としては。」

「なんでさ?」

苦く笑うクリフトに、鷹耶が眉を顰める。

「多少人目があった方が、あなたも自制なさるでしょう?一応ここは公共の場なので。」

「…そういう事。ま‥確かに、人目があったらこんな事しねーな。」

そう言うと、鷹耶が彼の顎をとり、口づけた。

「んっ…た‥鷹‥耶‥‥もう、ダメですって‥」

慌てて彼が鷹耶を引きはがし、キッと睨みつけるクリフト。

 頬を紅潮させ睨んでくる表情は鷹耶を煽っただけのようで、不敵に笑んだ彼は、両手で

クリフトの頬を包み込み正面に固定させた。

「それじゃ煽ってるだけだぜ? 判ってる‥?」

「あ…っん‥。ふ‥‥‥」

艶帯びた声音で囁かれ、ゾクンと身を悸わせたクリフトは、あっさりと口内に侵入者を許

してしまった。熱い舌が彼に絡み、身の内に宿る熱を呼び覚ませてゆく。

「は‥っ…。はあはあ‥」

一頻り口内を巡らせた舌が少々名残惜しげに離れると、唇も解放された。知らず彼の背

に回されていた腕を解き、クリフトが乱れた呼吸を整えさせた。

「‥大丈夫。誰も居ねーよ。」

キッと再び睨みつけられ、鷹耶が肩を竦ませる。

「もう…。僕は先に上がりますから。鷹耶お一人で、好きなだけ浸かって下さい。」

 クリフトはプイと顔を背けると、声を尖らせ、さっさと上がってしまった。そんなクリ

フトに、「やり過ぎたかな?」と瞬間反省するが、それで懲りる鷹耶でもない。彼はずん

ずんと脱衣所へ向かってしまったクリフトを追うべく立ち上がった。