世界樹の花は、見事ロザリーを蘇らせた。

彼女は早速、進化の秘法に取り込まれようとしているピサロの元へ行く事を願い、もと

よりそのつもりで準備を整えていた一行は、再び魔界へと赴いた。

「大丈夫? ロザリーにはここの空気、きついんじゃない?」

 少し咳き込んだ彼女に、気遣うようマーニャが声をかけた。

「大丈夫です。すみません、ご心配おかけして。」

「何言ってるのよ。私達だけじゃ止められないから、あなたに来て貰ってるんだもの。

あなたに無理させてるのを承知の上でね。辛かったら、少しでも楽になる方法考える

  から、どんどん頼っちゃっていいのよ。」

アリーナが微笑いかけた。

「そうですね。とりあえず移動中は馬車で休んで貰って…問題はデスキャッスルですよ

  ね。鷹耶さん、どうしますか?」

「ああ…そうだな。城を越えた所で、馬車を呼んで合流するんだから、そのまま馬車に

  居て貰ってもいいんだけど…。う〜ん…。」

馬車を操りながら言うトルネコに応えながら、鷹耶が考え込むように顔を下げた。

「なあに? 鷹耶。それじゃ問題なの?」

「…彼女を狙う刺客が、どこかに居るかも知れないだろ?」

「…!! ‥そうね。その心配があったわね…。」

アリーナが暗い表情で答えた。

「ロザリー。俺と一緒に来た方が、都合いいんだが…歩けるかい?」

「あ‥はい。もちろんですわ。一緒に連れて行って下さい。」

「よし。決まりだな。まあ。一度通った道だから。迷わず向かえるとは思うぜ。」

「…かなりな回り道は覚悟しなくちゃ‥だけどね。」

マーニャがしっかり付け足した。



デスキャッスルを攻略するメンバーは、鷹耶・アリーナ・クリフト・マーニャの戦闘要

員プラスロザリー。他のメンバーは、余計な戦闘を避ける為、一旦希望の祠で待機する事

となった。

「んじゃ、まあ。行ってみましょうかね。」

鷹耶が伸びをしながら言うと、小突きながらマーニャが続いた。

「あんたってば、相変わらず軽いわねえ。」

「ま、いいんじゃない? 鷹耶らしいわ。」

「そうですね。」

「くす‥。皆さん仲がよろしいのですね、本当に。」

一瞬あっけにとられたロザリーだったが、緊張を一気に解したように微笑を浮かべた。

おどろおどろしく在る魔城。だが、そこを越えて先に進もうとする彼らの歩みは、どこ

か軽やかでもあった。





「ロザリー! …っの野郎、非戦闘員を狙うんじゃねーよ!!」

幾度目かの戦闘の最中。言われた通り、後方でその行方を見守ってた彼女に狙いをつけ

たデビルプリンスが襲いかかった。

 それを逸速く察した鷹耶が回り込み、その攻撃を剣で防いだ。

キーン! 金属の交差する音が響くと、彼はそのまま攻撃に転じた。

「ロザリー、下がってろ!」

巻き添えを食わないようにと声をかけながら、彼は攻撃を繰り出していた。

「はっ‥はい…。」

戦う彼らの身を案じながら、ロザリーはただ、その行方を見守る事しか出来なかった。

やがて。

 襲いかかってきた魔物を一掃すると、鷹耶が真っ先にロザリーの元へと駆け寄った。

「おい。大丈夫か?」

「あ‥はい。大丈夫です。…まあ! 鷹耶さんこそ、お怪我なさってるじゃありませんか!

  …申し訳ありません。私が足手まといになってしまったから…。」

「ん? こんなのなめときゃ治る。怪我のうちに入んねーよ。」

「でも…。」

「そうそう。こんなの、旅をしてりゃよくある事よ。大丈夫だって。」

二人の元へやって来たマーニャが明るく笑い飛ばした。

「ロザリーに怪我がなくてよかったわ。…それにしても。

  鷹耶ってば随分優しいじゃない?」

意外そうにマーニャが茶化した。

「知らなかった? 俺、女の子には優しいんだぜ。」

「ふーん。つまり。私達は[女の子]に含まれてなかったって事かしら?」

「察しがいいな、アリーナ。」

「まあ。失礼しちゃうわねえ。」

「ま‥でも。ちゃんと女の子に見えてる奴だっている訳だしな。

  好みは人それぞれだろ?」

「鷹耶さん!」

「何よーそれ? 変な鷹耶。ねえ、マーニャ。」

訳解らない‥といった表情のアリーナに、マーニャは肩をすくめた後、さっさと歩きだし

た鷹耶を追うように行ってしまった。

「なんなのよ? ねえ、クリフト。…? どうしたの? 顔が赤いわよ?」

「い‥いえ。なんでもありません。さ、参りましょう、姫様。」



「…! ピサロ様の気配をとても強く感じます! もうすぐ‥‥‥」

 デスキャッスルの後方に聳える山へ向かう出口が近づいて来ると、ふいにロザリーが小

走りして、暗く続く洞窟の先を見つめた。

「…ああ。もうじき出口だ。…じき、奴と対面出来る…。」

「さーてと。そろそろ気合入れ直しましょうかね。」

重く言う鷹耶と対照的なのんびりした口調でマーニャが言った。

「デスピサロに会ったら何が起こるのか…。想像がつきませんね…。」

のんきな口調とは裏腹に、緊張感を漂わせるマーニャ。複雑さを押し込めるように口をつ

ぐんだままのアリーナ。それぞれの思惑を感じながら、クリフトが率直な気持ちを呟いた。

そんな彼に表情を和らげた鷹耶が皆を促した。



そして。無事魔城を越え、仲間との合流を果たした一行は、デスピサロの待つ魔の山の

麓へとやって来ていた。

「…この先にピサロ様がいらっしゃるのですね…。」

「…ロザリー。もう一度確認しておく。

もし奴が、君の説得にも耳を貸さず攻撃を仕掛けて来たなら、その時は覚悟を決めて

  くれ。俺は‥世界の暗雲を断つ為にも、奴を倒す!」

「…はい。承知してます。その時は‥鷹耶さん達にお任せ致します。」



ロザリーは懸命に呼びかけた。

 かつての恋人の変わり果てた姿に心を痛めながらも懸命に…。

「…判りませんか…。あなたが授けてくれたこの名前さえも…。」

ロザリーの瞳からルビーの涙が零れ落ちた。

「…思い出して下さい、ピサロ様。私達が出逢ったあの日の事を…」

「ぐ‥ぐああああっ‥‥! ‥ロ‥ザ‥‥‥ロ‥ロザリー‥‥‥。」

「「…!!」」

 ロザリーが流したルビーの涙が風に舞い、デスピサロに触れたその時だった。

 彼の身体が目映い光に包まれたかと思うと、進化の秘法で変わり果てていた姿が崩れ、

元の魔族の青年へと戻っていった。ルビーの涙が進化の秘法を打ち消したのだ!

「…!」

「ピサロ様!!」

「ロザリー…。ロザリーなのか? ならばここは死の国なのか…?」

「いえ。鷹耶さん達が、世界樹の花で私に再び生命を与えて下さったのです。

そして。信じがたいのですが…私を攫ったのは、魔族に操られた人々かと…。」

「世界樹の花…。魔族に操られた…?」

デスピサロは困惑したように、ロザリーと彼女の後ろにいる鷹耶達を見やった。

「…人間達よ。面白くはないが、お前達に礼を言わねばならんようだな。

お前達はロザリーとこの私の命の恩人だ。素直に感謝しよう。」

「…別に。礼が欲しくてやったんじゃねーよ…。あの野郎の思惑に嵌まりたくなかった

  からな…。今度会った時の野郎の顔が見物だぜ。」

「…鷹耶さん‥。」

「…人間こそ、真の敵と長年思い込んでいたが…。私は間違っていたのか?」

デスピサロが自問するように呟いた。

「…この心が定まるまで、私は村に戻り、ロザリーと暮らす事にしよう。

 しかし‥一つだけやることが残っている。」

デスピサロの瞳が力強い光を帯びた。

「あいにくかも知れんが、私も行く道は同じだ。しばし同行だな。」

「…!! …本気か?」

思わぬ申し出に、鷹耶が低く訊ねた。

「ああ。お前達はこれから奴の元へ向かうのだろう? 私も奴には用があるのでな。」

「フッ‥。だろうな。…いいぜ。強い仲間は歓迎するさ。あんた‥強いんだろう?」

「試してみるか?」

「ピサロ様!」

「フ‥。まあ‥おいおいな。」

心配そうに自分を見るロザリーに、デスピサロは小さく笑んでみせた。

「ち‥ちょっと鷹耶。本当に‥一緒に行くの…?」

アリーナが小声で訊いた。

「ああ。いーんじゃないの?」

「…! …鷹耶がいいのなら‥なにも言えないけど。…大丈夫?」

 心配そうに言う彼女の頭に手を置くと、鷹耶が苦笑した後、軽口を宣った。

「ばあーか。らしくねーじゃん? ライアンん時みたいに[手合わせ願おう!]って言っ

  てりゃいいんだよ。」

「…くす。‥そうね。それは楽しみね、確かに。」

アリーナが笑うと、他のメンバーもそれで納得したのか、特に異論もないまま、彼らは一

先ず地上へと戻る事に決めたのだった。