エンドール。

ピサロは街へ降り立つと、真っすぐ宿屋へ足を向けた。

「それで‥ソロの様子はどうなってるの!?」

女性陣が泊まっている4人部屋へとメンバーが集うと、アリーナが一同を代表し訊ねた。

こういった報告が苦手なピサロだったが、心配顔で集ったメンバーに、丁寧にその経緯を

説明した。

「…そんなに、酷いダメージ負ってたの、ソロ?」

マーニャが震える拳を握り込み、ぽつんとこぼす。

「‥ああ。だから‥現状では、回復がどの速度になるか見当もつかぬのだ。」

「だったら、あたしも彼を看る! 一緒に連れて行ってよ!?」

「人手は足りてる。貴様らはここで待機していろ。」

魔王は言い募る彼女にそっけなく答え、話は終わりと立ち去ろうと踵を返した。

「待って。」

険しい顔をしたアリーナが、彼を引き留めた。

「話があるの‥」



「…貴方が薬学に通じてる事、ロザリーから聞いたわ。」

皆には後で報告するから‥と彼を誘い街へ出たアリーナが、通りを歩きながらぽつんと

口を開いた。

「だから…信じて待ちたいとは思う。けれど…」

彼女はふと足を止め、隣に立つ魔王を見上げた。

「…信用出来ぬ‥か?」

フッと口角を上げ、ピサロがもらした。

「…解らない。でも‥クリフトも、一緒なんでしょう?

 さっきのメモ、確かに彼の字だったもの‥。」

部屋を出る際、「必要なものがあれば用意しますよ」と笑んで来た商人に、魔王は預かっ

たメモを託した。それを彼女も見ている。

「彼が信頼してるなら…私も信じるわ。貴方を。」

見定めてくるような瞳の後に、王女が笑んだ。

「…サントハイムは、良き長に恵まれたな。」

フッと瞳が眇められて、紅の双眸が和らぐ。そのままふわりと頭に手を置かれ、アリーナ

が吃驚と瞬きした。

パーティをまとめるべくソロを欠いた中で。アリーナは間違いなく核となっていた。

これまでもこうしてソロを支えて来たのだろう。

強い瞳に頼もしさを覚え、魔王が彼女を見つめる。

それは、初めてソロ以外の仲間へ見せた柔らかな瞳だった。

「話はそれで終まいか?」

「あ‥いいえ――」



週一の定期連絡を約束させて。

アリーナは魔王を引き連れとある店の前へやって来た。

「なんだここは…?」

「言ったでしょ。お見舞い持って行ってって。」

「ソロは…ほとんど食さぬのだぞ?」

「ええ聞いたわ。でも‥これなら大丈夫かと思って。」

場違いな場所に立たされ困惑顔の魔王に、彼女が微笑む。

女子供に交ざって悪目立ちしているのが少々いたたまれない。

そこは色とりどりの飴を扱ったキャンディ店。

真ん丸でカラフルなキャンディ達を子供が宝石のようにうっとり見つめていた。

「ソロのね、一番のお気に入りはコレ。あと‥コレも必ず買ってるわね。」

計量用の器に真っ赤な飴がごそっと入れられる。次いで水色の飴も同じように盛られた。

「‥よく来るのか?」

「一緒に来たのは2回くらいかな。でも彼、エンドールへ寄ると大抵買い足してたわよ。

よく御裾分け貰ったもの。」

…そう言えば。ソロは町に着くと、大抵細々と菓子を買い込んで来た。

決して大量ではないのだが。真っ先に補充されるのは、菓子だった。

オレンジ色に紫色。若草色、白色…彼女が次々彼が選んでいたという飴をチョイスしてゆ

く。ピサロはふと、器の中でひしめき合ってる飴が、仲間達を思い起こさせる色である事

に気づいた。

「…ずっとね、不思議だったの。どうして赤なんだろう‥って。」

彼の瞳に何か思いが現れたのか、アリーナがぽつんと口に出した。

「だってね…他の色はみんな‥私たちの誰かを思い出させてくれるのに。

 赤だけ…解らなかった。」

ふと顔を上げ、彼女はピサロを覗った。

「はいお嬢さん、お待ち遠様。」

瓶詰にして貰った飴の入った包みが店主から渡される。

「あ、ありがとう。」

彼女はそれを受け取ると、テクテクと歩き出した。

「…ま、いいわ。」

ぽつっと呟き、彼女が振り返る。

「はい。ソロへ持って行ってね。」

「ああ…」

魔王が素直にそれを受け取ると、彼女が満足そうに笑んだ。



その後戻った宿の前で、トルネコから買い出して貰った荷を受け取り、彼は真っすぐ

館への帰路に着いた。

買い物に時間取られず済んだ分、そう遅くはならなかったのだが…

傾き始めた陽が茜色をもうじき纏う頃合いにはなっていた。

厨房に食材を置き、彼女から託された見舞いの品だけ持って2階へと上がる。

すると、密やかな泣き声が寝室から届いた。困り声の神官の声とともに。

「‥どうしたのだ?」

寝室の戸口に立つと、弾かれたようにやって来たソロが飛び込んだ。

「ピサロ‥っ」

そのまま彼にしがみつき、ひくひくしゃくり上げる。

「一体どうした‥?」

ピサロは困惑しながらも、優しく彼へと話しかけた。

「‥って。だって…居る‥って言ったもん。なのに…居ないんだ‥もんっ‥‥」

「目が覚めた途端、あなたの不在を感じたようで。ずっと泣き通しで…」

「‥そうか。すまなかったな、ソロ。もう泣くな。土産はいらぬか?」

子供をあやすようにしてやりながら、ピサロが穏やかに言い聞かせる。

「‥土産?」

「ああ。お前の好物だと聞いたぞ‥?」

涙をいっぱい溜め込んだ蒼の眸がきょとんと彼をみつめた。

彼は床へと置いた包みを手にし、徐に取り出した。

「あ‥飴。すごい‥いっぱいだね。」

「ああ。好きなのだろう‥?」

コクン‥とソロが大きく頷く。瓶を受け取ると、ふわりと微笑んだ。

「‥食べていい?」

「ああ。それはすべてお前のだ。」

泣いた烏はどこへやら。すっかり機嫌が直った様子のソロが、わくわくと1粒ほお張った。

迷わず選んだのは‥赤。



その日は結局ピサロにぴったり張り付いたまま過ごしたソロ。

翌日も、朝から起き出したソロは、刷り込みされた雛のように、ピサロから離れず過ごし

ていた。

「…ソロ。私はどこにも行かぬぞ?」

手水すら躊躇われる程に張り付かれて。甘えてる‥というより見張られている気がする。

ふとそんな独りごちをこぼすと、しっかり耳に入った様子の神官に笑われた。

「だって…。ピサロ嘘つきなんだもん‥」

ぶす〜とソロが口を尖らせる。

「大丈夫。今日は本当にどこにも出掛けません。昨日しっかり食料を買い込んで来て頂き

ましたからね。昨日だって、留守をしたのは一時なんですよ?」

彼の頭に手を乗せたクリフトが、柔らかく説明した。

「ほんとに‥行かない?」

それでもまだ疑わしいと、ソロが念を押すようクリフトを見る。

「ええ。ですから手洗いくらい、快く立たせて上げなくちゃ。」

「…わかった。」

彼に説得されたソロが、掴んでいた服の裾を離す。助かった‥と言いたい所だが。どこか

面白くない魔王さまであった。



「何故貴様の言う事ばかり、ソロは重んじるのだろうな?」

昼食の後。うとうと眠りに落ちた彼を撫ぜながら、魔王が憮然とこぼした。

「それは…信頼の差でしょう。」

にっこりと神官が笑む。

「ふん‥。だが…コレは、私を真っ先に求めてくるぞ。」

「そうですね。」

「…否定せぬのか?」

「別に‥。事実ですから。」

怪訝そうな魔王になんの憂いもなく、クリフトが微笑んだ。

「‥よく解らぬな、貴様は。」

「そうですか? …それよりソロの事ですけど。

 昨日の様子を見て心配になりました。回復した時の事が…」



今はその心の大部分眠ったような状態でいるソロ。

彼の身体が回復し、その心も目覚めさせた時…ソロはその身に起こった事を自覚するだろ

う。その時が心配だと、不安定な彼を目の当たりにしたクリフトが不安に顔を曇らせる。

それは魔王も同様で。

2人は穏やかに眠るソロを覗い嘆息した。



休眠状態で微睡むソロの目覚めは近い。

だがそれは…

別の厄介な問題を孕ませているだろう事は明白で。

この穏やかだった数日が、少しでも彼の心の安寧に繋がる事を…

誰へともなく祈りたい心境の2人だった――






2006/4/14




あとがき

晦にUP中の「ツタ」の後日談です。結局本編に組み込みました。(^^;
予想外にソロのダメージが深くて。そのフォロー作業が終わりません(==;
今回のソロは、ずっと休眠中…といった感じで。必要最小限にしか、物事の認識
してない模様です。それを踏まえた上で、ピサロもクリフトも接していたので、
非常〜に甘い感じになりました。
魔王さま。
本当はソロを連れて行った翌日、ちゃんとクリフトとは連絡つけるつもりでいました。
…が。ソロがとにかくあんな状態だったので。置いて向かう訳にもいかず。
かと言って。とことん消耗しきった状態の彼を街へ連れ出すコトも憚れて。
結局。クリフトが動くしかなくなってしまいました(^^;
移動呪文が出来ない彼なので、なんか…あんな合流の仕方に(^^;
…ちょっと。ヘンリー思いだしましたわ★(マリアを迎えに行った時を)

ピサロとクリフト、その2人が揃ったコトで、ようやく安心したソロ。
深い眠りに落ちました。失われた体力回復が優先されたみたいです。
なかなか回復の兆しの見えないソロ。
すべての機能レベルが最低ラインとなってしまった…とゆーのもありますが。
ここまで回復を遅らせてるのは、心の問題…なんでしょうね。(謝)
それを魔王さまも気づいていて。
その分余計に、下手な刺激しないようにと優しげに接してます。
思わず余りに時間かかっているせいで。
無断借用繰り返していた別荘。とうとうお買い上げしちゃいました(^^;
時間持て余した魔王さまの臨時執務室と化した館。
アドンは外回りやってるので。何故かクリフトが秘書らしく…(^^;
この辺書いてて非常に楽しかったです(笑)
いろいろ使い勝手のいいクリフトなんで。魔王さま、部下に欲しいとか
考えそう…とか。(ソロの世話役として、最適だしv)

まあ。そんなこんなの3人生活も前半終了。
次回大荒れになるかもです(@@;

それでは。
ここまでお付き合い下さった方、ありがとうございました!