「皇子‥だと?」

「ええ。貴方にそっくりの。違っているのは、瞳の色くらいでしょうか。随分横柄な所も、

 とても貴方に似ていらっしゃいましたよ?」

「‥どういう事だ、アドン。」

「…魔界の、蒼の大陸と呼ばれる地のお世継ぎでいらっしゃる方で。白の地の異変を調査

に参ったと伺いました。陛下にお姿がよく似てらしたので、その‥協力を願い出て…」

「そうだったんですか? 確かあの時のそっくりさん‥‥」

言いかけたクリフトの胸倉を、アドンがぐいっと乱暴に掴んだ。

「アドン控えろ!」

強く諌められて。彼は口惜しげな貌を滲ませつつも、「は…」と元の位置へ戻った。

「神官、貴様が知る事話して貰おう。」

「‥私は全部知る訳ではありませんけど。ただ…余りにも貴方によく似た彼…どうやら兄

 弟だそうですよ? ソロの話によれば、双子の兄と名乗られたとか。」

射るような従者の目線を肩で躱しながら、クリフトがさっくり答えた。

「双子…? 兄‥だと?」

「ああ、やっぱり。ご存じではなかったのですね。

 アドンさんは‥よく知っていらっしゃるようでしたけど。」

「アドン、どうなのだ?」

「‥‥‥。」

「…そういえば。その彼、確かピサロさんの事も仰ってましたね、いろいろと。」

答えを渋るアドンに代わってクリフトがそう呟くと、ギッ‥と彼が再び睨みつけた。

「アドン! 神官、続けろ。」

「ピサロさんは家族を知らないと仰ってましたが。その兄と名乗った者の話に寄ると…

 どうやら生まれてすぐに地上へ送られてしまったとか。…余りこの比喩は使いたくない

 のですけど。ソロの時と似た目に遭われたようですね。」

それだから。ソロが余計に気遣って、魔王に口を噤んでしまうのだろう…そう理解して

いたクリフトだったが。彼への配慮なのか、貝のように口を閉ざす従者に焦れ、答えた。

「…ふん。それで。その時共について参ったのが、あの爺だった‥という訳か。

 アドン‥貴様は確かあの者の孫と言ったな? ならば‥当然知って居るのだろう?」

「…はい。古来より‥王家の双子は聖と魔‥相反する性質に分かたれ産まれ出ずる‥と

 伝えがあります。聖‥は魔界にあっては忌むべき性質。ですから…ピサロ様は‥掟に

則り追放されたのです。」

「ふん。何故今まで黙っていた?」

ぞんざいにピサロが訊ねた。

「…父の遺言でしたので。それに‥必要ないと思いましたから…」

「確かにな…どうでも良い事だ。魔界になど元より興味なかったしな…。

 だが…ソロの件は別だ。だろう…?」

魔王が神官を窺った。「そうですね‥」と弄えを得て、魔王がもう一度部下を見遣る。

「いずれ‥それなりの礼をせねばなるまいな。」

「ピサロ様、それは‥‥!」

「…この件はこれまでだ。貴様はこれまで通り奴を追え。良いな?」

「…はい。」

言い募る部下を制し、魔王が指示を与えた。少々歯切れ悪く、アドンが応える。

「‥陛下。1つお訊ねしてもよろしいですか?」

深く頭を垂れた後、納得いかぬ様子の彼が申し出た。

「申せ。」

「その人間に、何故制裁を加えないのですか?」

「‥ソロの事か?」

「はい。」

「‥ふん。あれの気に入りを奪う訳には行かぬだろう? 多大な借りを作ったからな。」

「ですが‥その者は…」

「随分便利な男だぞ? 一晩かけて問い詰めても徒労に終わった、貴様の口を割らせてく

 れたしな。」

にやり‥と魔王が口角を上げる。

便利‥と評された神官は苦く笑い、噤むと誓った魔王出生に纏わる話を白状させられた

従者は困った顔で項垂れるしかなかった。



「戻るぞ。」

小屋を出たピサロはそうクリフトに声を掛け、移動呪文を唱えた。

辿り着いたのはエンドールを見下ろす丘の上。

太陽がまだ真上へ来てない事を確認すると、ピサロは隣に立つクリフトへ目を移した。

「魔界での件は理解した。ソロが気に病んでいるのは、なんだ?」

「…ソロは始め、貴方だと思ったそうですよ。途中で違うと気づいた後は、力でねじ伏せ

 られてしまったようで…それに対する恐怖心。貴方を裏切ってしまったような罪悪感。

後は…貴方の出生への同調…ですかね?」

「…恐怖心はともかく。裏切るも何もないであろう。ソロに非があるのでもなし…。

 第一、ソロは貴様との関係、これっぽちも隠さないではないか。」

裏切り…という言葉が当てはまるとしたら、そちらだろうと含ませ返した。

「そうですね。それでも…最初の頃はいろいろ葛藤があったようですよ?

 ただ‥彼自身、いろいろ不安定な要素が重なりましたので…。」

クリフトはゆっくりと丘を降り始めると、ふと青みがかった山々へ目を止め嘆息した。

「…知ってます? ソロが一番安定する方法。」

彼に続いてやって来たピサロに振り返り、クリフトが訊ねた。

眉を寄せ考え込むような表情の彼に、小さく微笑ったクリフトが続ける。

「交接‥なんですよね。…スキンシップを好む子だとは感じてましたけど。ある意味その

 究極ですからねえ‥。納得と言えばそうなんですけど。元を正せば…貴方でしょう?」

魔王が苦い顔で神官を見つめた。

「空虚となったソロを唯一満たした温もり…だったのでしょうね。

 …独りじゃないと、そう実感出来るのだと‥いつか語ってました。けれど…

 それは刹那の充足感でしかなかった。本来の行為の意味が置き去りにされていたから…。

 …いろいろと‥積もったものがあるのでしょう。」

静かに話していたクリフトが、前方へ顔を向けた。

広い馬車道と交わった路の先に頑健な城壁が見えた。

「‥まあ。とりあえず。今日の話はまだ、ソロに振らないで下さいね?

 それと。今朝のように彼を煽らないで下さい。次は知りませんからね。」

「煽るだと‥?」

何の事だと、魔王が訝しげに神官を窺う。

「貴方の不機嫌面が彼に伝染るそうですから。刺激しないで下さいね‥と。」

「‥‥‥‥」

「…もしかして。自覚なかったのですか?

 わざとソロを怒らせたのだと思いましたが…」

「…何故わざわざ怒らせる? 今朝はあれが勝手に怒り出したのだぞ?」

ムッカリと告げる魔王に、神官が嘆息する。

「‥ピサロさん、ずっと独りだったと仰ってましたけど。人嫌いだったりしました?

 子供等と接した事は?」

「…幼子で懐いてきたのは、あれだけだ。…束の間の出逢いだったがな。」

「やっぱり…昔逢った事があるんですね。」

「ソロが憶えて居るのか?」

「いいえ。私も束の間、幼いソロに会えたので。その時聞いたんですよ。

 彼自身は憶えてないと思いますよ。3つか4つくらいだったのでしょう?」

「…そうだな。私もずっと忘れていた。」

溜め息交じりにそう呟くと自嘲気味に笑んだ。

「なんとなくは思ってましたが。

 ピサロさんからすると、ソロって‥理解しにくいでしょう?」

呆れるような目線を送られて。肯定を示すように魔王が肩を竦めた。

「…だから。貴様は便利だと言っただろう。」

「‥まあ。精々便利に思って下さい。後々の為にもね。」

クスクス笑いを堪えながら。クリフトが微笑んだ。

城下町への入口が近づいて来ると、翠の髪の少年が手を振り駆けて来た。

「クリフト! …歩いて帰って来たの、2人とも?」

「ただいま、ソロ。着地が少々ズレただけですよ。‥お待たせしちゃいました?」

「オレが早めに来て待ってたんだ。…やっぱり心配で。」

「きちんと戻ったぞ?」

「あ‥うん。お帰りピサロ。」

ピサロに応えたソロがこそっとクリフトに耳打ちするよう手を口元に寄せる。

(本当に…大丈夫だった?)

(ええ…。この通りですよ。)

ふわりと微笑んで見せ、どこも変わってないと伝えるクリフト。

「よかった」と微笑んで、ソロは彼の腕に手を回した。

「じゃ‥昼ご飯食べに行こうか。」

甘えるよう腕を組み、ソロが彼を誘って歩きだす。

「ソロ。ピサロさんは…?」

置いてけぼりにしそうな気配に、クリフトが確認した。

「約束したのはクリフトだもん。オレ、ご飯は美味しく食べたいから。」

「私が居ると飯が不味くなるとでも?」

「怒りんぼとは居たくないもん。」

ムスッと話すピサロに、ツンとソロが答えた。

「…今朝はすまなかった。問題は解決した。だから…もう怒っては居らん。」

「まだ怒ってるじゃん。」

「‥悪かったな。愛想のない顔で。」

「へ…?」

開き直った様子で、やはりムッスリ話すピサロに、ソロが目を丸くする。

「ふふ…ははは! 変なピサロ。どうしたの? 朝とは別に変だよ。」

盛大に笑い出すソロ。ピサロは渋面を浮かべたが、嘆息すると口元を和らげた。

それを見止めたソロが、瞳を細めふわりと笑む。

「‥もういいや。じゃ‥ピサロも一緒に食べよう? よかったら‥だけど。」

「ああ‥。共に行くぞ。」



不機嫌な顔が不興を招き、和らいだ顔が微笑みを呼ぶ…



ちょっとした表情の変化が結果を大きく変えてゆく事を、改めて学ぶ魔王だった――






2006/4/29









あとがき

最近煩悩溢れる話ばかり書いてたせいか。
なんだかすご〜く、疲れました。これ。(苦笑)
華がないんだもん。華が!! 堅苦しくて、本当疲れました(@@;
ピサロの出生については…まあ、こんな感じで。
魔王になった経緯なんかも機会があれば、どっかで語れるかなあ…といった感じでしょうか。
本当はエンドールに向かったソロの方も、もう少し語ろうかと思ってたんですけど。
ノリが大分違ってると思われたので、割愛しちゃいました。

そうそう。今回判明した事実?
ピサロって、クリフトの事ソロ専用翻訳機…みたいに捉えてたみたいです(^^;
ちょっと今、ソロをどう扱っていいか途惑ってる魔王さまなんで。
ソロの状態を説明してくれる彼は、結構便利な存在なようで…
なんだかんだとソロとの距離を縮めるよう働きかけてる節のあるクリフトだから。
徹底的排除…といった方向へは、今は向いてない模様。
まあなによりも。ソロの方が、彼を離したがらない様子ですからねえ…(苦笑)

最近、クリフトやアドンの6章後の姿…といったものをあれこれ巡らせてるんですけど。
ノーマルでいかせるつもりだったアドンもそっちへ染まらせた方向で妄想走らせてます(^^;
順序よく話をUPしてゆくと、まだまだずっと先の物語。
忘れないうちに書きたいけどな…