取り乱しわめき散らす。だが、唯一自由に動かせた両腕をあっさり捕らわれると、どうに

も動きようがなくなってしまった。

「ぐっ‥、ああっ‥‥‥や、だ…」

彼の動きを封じると、その存在を主張するよう彼を穿っていた熱杭が律動を開始した。

「やっ…やだ‥。やめ‥っ…はぁ‥っ」

ピサロと同じ顔をした冷たい眸の男。けれど。それはピサロじゃない。ソロは混乱しなが

ら、何故こんな事態に自分が陥ってしまったのか、必死に記憶を辿っていた。

周囲に目を向けると、見慣れぬ植物が闇に紛れ佇んでいる。

仄かに吹く風も、どこか異質な色に思えた。

ここは…魔界?

そう意識が向かうと、次々溢れて来る存在があった。



そうだ。ピサロが進化の秘法を完成させたって‥だからオレは…オレ達は魔界に…!



「考え事とは余裕だな…」

男はそう言うと、彼自身に指を絡め扱き上げた。

「ふ‥ぁ。あっ…や、だ‥ああっ‥‥‥」

快楽を煽る熱流が渦巻く躰は、心を裏切って熱の放出を求めてくる。

それが許せなくて、ソロは繋がりを解いてくれと懇願した。

「そう喚くな。どうせ顔の造りは同じなのだろう?」

「‥違‥う。あんたは‥ピサロじゃ‥ないっ…」

「ああ‥。私はアレとは違う。だが‥‥」

男がソロの後頭部を掴み、顔を間近に寄せた。

「無関係でもないのだ。残念ながらな‥」

「な‥どういう‥‥あっ‥」

「おしゃべりは終わりだ。今は伽の相手を務めろ。」

緩やかだった抽挿が再び速められる。ソロは言葉を紡ぐ余裕を貰えず、嬌声をこぼした。

「あっ…ああ‥‥っ!」

大きく幾度か穿たれた後、極まった彼に促され、ソロも精を放った。

いつになく激しい疲労感を覚えたソロが、そのまま脱力する。

男はあっさり彼を解放すると、そのまま横たえさせ、乱れた着衣を整えた。

一糸纏わぬ姿のソロとは対称に、ほとんど着崩れしてない男は、すぐにその作業を終え、

荒い呼吸の彼を見やった。

「‥さっきの話。ピサロと無関係じゃないって‥どういう意味…?」

翠の髪へ手を伸ばしかけた男の手が止まる。

ぽつんと呟くような問いかけは、俯せたままなされたが、窺うような目線はこちらを捉え

ていた。

「アレは生まれてすぐに魔界を追放された、我が弟。私はアレの双子の兄だ――」

「えっ‥!?」

ソロはがばっと腕を支えに身を起こそうとしたが、上手く力が入らず、ガクンと崩れかけ

た。それを隣にいた男が助ける。ぐいっと捉えた腕を引き、半身起こすのを手伝うと、

すぐ側の壁へもたれ掛けさせてやった。

「…双子? 弟‥って…本当に?」

「姿はそっくりだと聞き及んでるが?」

信じられない‥と目を丸くする彼に、男が口の端を上げた。

「それは‥似てるけど。でも‥‥‥」

「その方の仰られている事は真実ですよ。」           
真実→ほんとう

寄りかかっていた壁の後ろから姿を現した青年の声に、ソロの動悸が速まった。

「あ‥あんたは‥‥‥」

ゆっくりと歩み寄って来る彼を凝視める。薄闇の中、ようやくその姿が現れた。

「アドン…!」

「思い出して頂けましたか? お久しぶりです、ソロさん。」

以前に会った時と変わらぬ笑みを浮かべ、親しげに挨拶を寄越され、ソロが渋面を作った。

ピサロの側近。ロザリーの護役だった…アドンだ。

「なんであんたがここに‥!?」

途惑いながら、ふと己を顧みたソロが慌てふためいて、服をかき集めた。独り情事の名残

を残している姿が気恥ずかしくなったのだ。

「いろいろとお話したい事もありますが。

 すぐそこに泉がありますので、先にそちらへ案内致しましょう。」

クスリ‥と笑いをこぼすと、まだ躰に力が入らない様子の彼を抱き、スタスタ歩き出した。

「あ‥あの、アドン。あんたがなんでここに‥? それにあいつの事‥‥‥」

彼が身に纏っていた外套に包まれ、横抱きにされたソロが、怪訝な顔で話しかけた。

ピサロの兄と語った男をアドンは『殿下』と呼んでいた。

「…知り合い‥なの?」

「存じては居りましたが、お目通りさせて頂いたのは最近です。

 あんな無茶をなさるとは思い及びませんでした。申し訳ありません。」

「…でも。止めようとも思わなかった。…違う?」

落ち着いた声音で、ソロが訊ねる。

「荒療治とは思いましたけどね。その方が手っ取り早いかと思いまして。」

くす‥と悪びれない笑みで、アドンが答えた。

「オレが‥ピサロを忘れていたから?」

その問いかけに小さく笑んで返すと、到着した泉へソロを降ろした。

「‥地上とは性質が違いますが。毒性はないのでご安心下さい。

 少々冷たいとは思いますけど。」

泉に浸かるソロの背に、彼が声をかける。ソロはこくんと頷くと、躰の汚れを落とすよう、

泉で身を清め始めた。



「…それで。どうしてピサロのお兄さんが、ここへ来た訳?」

水浴びを終えると、少々ぼろくなった服を着込み、男と距離を置いて腰を下ろしたソロが

切り出した。

「追放された弟が、白の地で奈落を開こうとしていると聞いてな。確認に参ったのだ。」

「白の地‥奈落…?」

「この辺り一帯の土地を魔界ではそう呼んでいるんですよ。奈落というのは、我々が進化

 の秘法と呼んでいたものの古称らしいです。」

やや控えるように立つアドンがソロに説明した。

「奈落を開かせる訳には参らぬのでな。」

「‥‥殺しに‥来たの?」

固い表情で、ソロがぽつんと呟いた。男がにやりと口の端を上げる。

「必要ならな。だが…」

「まだ手はあります!」

「そう‥この者が申すのでな。それを確かめる為参ったのだ。」

「どういう‥コト…?」

「理を無視した外法が歪みを生んだ。地上にな‥。あまり歓迎せぬ出来事だが、アレには

 朗報かも知れぬ。」

「ピサロ様をお救け出来るかも知れないんです! 千年花が咲けば!」

「え‥!?」



アドンの話によれば、千年花とは世界樹の花の事で。

千年に一度しか咲かないとされる幻の‥奇跡の花と呼ばれているものだった。

その花の咲く年に、異界への扉が開くという。



「…それじゃ、その千年花を手に入れられたら、ピサロを救えるかも知れないの?!」

「ええ。きっと道が拓けるはずです。」

「…でも。その前に進化の秘法が完成しちゃったら‥」

「術の完了までには、まだ時間がかかろう。それ程に巨大な術なのだ。」

「ソロさん。千年花を手に入れられるのは、あなたしか居ないのです。どうか…!」

「けど‥オレは‥‥‥」

勇者として、倒さねばならぬ相手を救うなど、許されるのだろうか?

惑うソロが答えに窮していると、カサリ‥と草を踏む音が響いた。

「ソロ‥あなたが思う道を選んで下さい。」

「クリフト…。どうして‥いつから…?」

「目が覚めたらあなたが居なかったので。捜しましたよ。お話は‥途中から聞かせて頂き

 ました。‥そちらのお2方は気づいていらしたようですが。」

苦く笑むと、やって来た彼がソロの側へ歩み寄った。

「ソロ‥これは…!?」

近くまで来ると、ソロの服がひどく傷んでいるのを知ったクリフトが、怪訝な顔をする。

そのまま彼の隣に膝を折ると、怪我がないか覗うよう様子の確認を取った。

「…どっちです?」

大凡を察したクリフトが、声を低め静かに訊ねた。

「クリフト…? …だ、駄目だ!」

いつにない殺意を秘めた声音に、ソロが慌てて彼を制した。

「オレなら平気だから‥! そいつは駄目だ!」

「ほう…力の差は理解してたか。勇者は伊達ではないようだな。」

男は静かに腰を上げると、アイスブルーの瞳を眇め、愉悦を含んだ呟きを落とした。

ツカツカとソロへと歩み寄った男が、壁に腕をつき、身を屈める。

クリフトが寄越す厳しい視線など意に介さずに、男がソロの顎を上げさせた。

「アレを打ち倒すも救うも貴様次第だ。好きにしろ。」

「…あんたは‥?」

男の真意が掴めず惑うソロが、疑問を口にした。

「天空の勇者が片を付けるというなら、捨て置くだけだ。

元々魔界とは関わりない件だからな。」

「でも‥弟だって…」

「追放された‥とも伝えたが?」

「‥‥‥‥」

「無垢なのだな、貴様は。…面白い。」

哀しげに眸を曇らせるソロに、男が興味を引いた様子で笑った。

くいっとソロの顎を寄せたかと思うと、口接けが降りる。

ぎょっと目を見開くソロ。硬直した彼の背後にいたクリフトが、慌てて引き寄せ離した。

「では‥な。馳走になった。」

満足そうに目を細め、男はそう残すと踵を返した。

控えていたアドンも軽い会釈の後、彼を追って去って行く。

2人の姿が闇に溶け、しばらくすると、それまでずっと身を潜めていた魔界の虫達が、

再び演奏を始めた。

はー‥とクリフトが安堵の吐息をもらすと、ソロがすっかり脱力した様子でもたれて来た。

「ソロ‥大丈夫でした‥‥ソロ?」

緊張の糸が解けたのか、ソロは気を失っていた。

クリフトは小さく嘆息し、彼を抱き直す。そっと顔を覗き込むと、随分消耗したように

ぐったりとしていた。





「ん‥‥‥」

ふかふかのベッドの中、ソロは泥のように深い眠りから目覚めた。

「ソロ、気が付きましたか!」

「クリフト…。ここは‥?」

「エンドールですよ。一旦引き返して来ました。」

ソロは一日眠っていたんですよ‥そう付け足して、クリフトがそっと彼の髪を梳いた。

「そう…。みんなは‥?」

「皆さんも大分疲れが溜まっていた様子で。身体を休めてますよ。」

「そう…。今は‥昼…?」

外を覗うよう窓へ視線を移したソロが、小さく訊ねた。

「ええ。」

「…地上って、こんなに明るかったんだね。」

しばらく魔界で過ごしていたせいか、昼の明るさは室内でも眩しく感じられた。

「ね‥クリフト。オレ…千年花ってやつ、探しに行っても‥いいのかな?」

ややあって。窓に目をやったまま、ソロがぽつんと呟いた。

「可能性があるのなら‥オレ、探したい…!」

縋るような瞳を向け、ソロが思いを吐露する。

クリフトはそんな彼を宥めるよう抱き寄せると、静かに語りかけた。

「あなたの思うように進んで下さい。あなたの選択を支持しますよ。

 私も‥恐らく皆さんもね…。」

「クリフト‥。それで‥いいのかなあ?」

「進化の秘法を阻止する事に変わりないのですから。問題ないでしょう。」

「…魔王を救う事になっても?」

「ええ‥」

「クリフト‥ごめんね。オレ‥まだピサロが‥‥‥」

好きなんだ…と申し訳なく囁いて、ソロは涙を落とした。



まだ間に合うのなら…救けたい。



今はただ‥それだけだった――





2006/3/14


あとがき

月の虹です。とうとう描いてしまいましたよ・・ピサ勇でもクリ勇でもない話を・・(++;
ホワイトデーだってのに。えらいお話で…(><

前回ちらっと書きましたが。初期の段階からあった構想なので、変更も随分ありましたが、
きっちりヤってしまいました。…ごめんなさい。
ソロ編でのぴーサマの設定は、今回触れられた通り、双子の片割れ…とゆーコトで。
生まれてすぐに地上へと捨てられてしまったので、本人はそのコト知らないのですが。
本来なら魔界某国の皇子として我侭放題暮らせたんだよ〜と。
まあ。そんな設定を立ててみました。
デスパレスの主となったのは、幼いソロと出逢ったずっと後で。
最初の大仕事…だったのが、勇者抹殺の陣頭指揮を取ったコトとなってます。
(まあ・・それ以前にもエンドールの武術大会に出たりしてますけどね。こっちは単身だったので)

魔界へソロが降りた時に、この双子設定披露するつもりで。ヤらせる気満々だったのですが★
実は当初。この段階でクリフトにピサロとのコトがバレて…
という運びにするつもりで計算してました。
まあ結果。こんなカタチに落ちつきましたが…
(アドンまで絡んでくるとは意外だったけど(^^;)

・・って、アドン。
こいつってば、ソロがヤられちゃってても、止めませんでしたね〜(^^;
ピサロのコトを忘れてしまったソロでは話が通らない・・というのも確かにありましたが。
彼の場合。ソロが別の男と出来てしまったコトへの制裁的意味合いでも、止めなかった
のかなあ…とみております。
こいつは曲者…として位置づけてはいたけれど。かなりイイ感じに黒いかもです(^^;

さて。
ピサロと勘違いしてた・・とゆーのもありますが。あっさりヤられちゃったソロくん。
あの辺り書いてて、不憫だな・・と可哀相な気もしましたが。
コトが済んじゃった後は、意外に逞しく事態を受け止めてくれました。
(まあ・・ツライのは多分これから・・かな★)
ピサロ兄・・に警戒はしつつも、情報はしっかり頂こうと。懸命に自分を律してたようです。
その結果。
ピサロを救えるかも知れない希望を、彼はみつけます。

千年花…それを求めて、動くコトを決意しました。

次回はなにが飛び出すか。実は全く予測つきません(@@;
ってところで。
ここまでお付き合い下さった方、ありがとうございました!!