着替えを済ませると、念のためクリフトは部屋にメモを残し、ソロと共に宿を抜け出した。

宿を出るとソロが移動呪文を唱え、イムルを後にする。

ふわりと起こった風が止むと、そこは一瞬草原に見えた。

白々と明けて来る空が映し出す風景は、よく見ると至る所に崩れ落ちたと思われる建物の

残骸が見受けられる。雨風に曝されていた小さな村は、雑草が生い茂り緑に飲み込まれつ

つあった。

「…すっかり、変わっちゃったな‥」

ぽつりとソロが漏らした。

サクサクと意図を持ったように歩く彼の後ろをクリフトが見守るように追う。

ソロは屋根や壁がすっかりなくなり、木の床だけが家の名残を残す場所で立ち止まると、

僅かに残っていた柱にそっと手を伸ばした。

「‥‥ここが、オレの家だったんだ‥‥‥」

そう呟いたソロが、じっと家が在ったと思われる空間へ視線を向ける。

ふと床に残っていたぼろぼろの麻袋を目にしたソロは、そろりと床に上がると、それを手

に取った。汚れてひどく傷んだ麻袋。ソロはあの日のコトを憶い出していた―――



村が突如魔物に襲われた。

たった独り残されたソロは、覚束無い足取りで匿われていた地下倉庫から出ると、村はも

う…廃墟と化していた。

ふとヒトの気配を感じて近づいた男は、その日偶然村に迷い込んで来た旅人だった。

巻き添えを食わずに済んだ…そう安堵したのも束の間。

その彼こそが、この悲劇の元凶だったのだ!

初めて沸き上がる怒りと憎しみのどす黒い心。

そんな彼を元凶の男は、興味深い玩具でも見つけたように扱い、無垢な躯に快楽を覚え

させた。

『憎ければ追って来い』

そう残して去って行った男は、泥のように眠るソロに布団でも被せるように、麻袋を掛け

て行った。それは、とても布団代わりになるような代物ではなかったけれど。そこに感じ

られた気遣いが、どこか嬉しくもあった。



ボロボロに傷んだ麻袋を掴みながら、ソロは肩を震わせた。

打ち捨てられ放置されて傷んだソレと、自分の心を重ねさせながら‥‥‥



「…ソロ?」

クリフトが遠慮がちに声をかけた。

そこで初めて、ここに居るのが自分独りでないコトを思い出したソロが、ビクンと身体を

震わせると、乱暴な仕草で涙を拭った。

麻袋を離し、気持ちを切り替えるように、両頬を軽く叩く。

大きな深呼吸を幾度か繰り返した後、ソロはクリフトの方へ向き直った。

床を下りると、ソロは再び雑草をかき分け歩き始める。

キョロキョロと周囲の様子を確認しながら歩く姿を、クリフトはただ黙ってみつめた。

「…なんにも残ってないだろ?」

ぽつり‥とソロがクリフトに話しかけた。

「…きっと。ここに村が在ったコトも、忘れられてしまう…

 ううん。もう、忘れられてるんだよね‥‥‥」

「…それは違うと思いますよ?」

クリフトが柔らかく微笑んだ。

「ソロ…あなたが居るじゃありませんか。この村のかつての姿を知るあなたが。」

「‥‥‥!」

「あなたが忘れないでいれば、村はいつでもかつての姿をあなたの中に蘇らせるはずです。

…触れるコトはもう出来ませんが。なくなりはしません。いつまでも…」

「クリフト…」

ソロはぽろぽろ涙を落とした。

「…いつか。旅が終わって、また村を再建出来たら、村のみんなは戻らなくても、彼らと

 過ごした思い出は、村の記憶として蘇ってくれるかな‥?」

「ええ‥きっと。」

クリフトは静かに彼を抱き寄せると、そっと髪を撫ぜた。

朝の陽光が緑に埋もれる村へ射し込む。

「…明けてしまいましたね。」

「うん…。ごめんね、付き合わせちゃってさ。」

「いいえ‥。‥‥‥?」

彼に応えたクリフトは、小さな泉の縁に光る何かを見つけた。

「ソロ…。これ、村の人のモノではないですか?」

金色に輝く変わった紋様のペンダントトップを、クリフトは彼に差し出した。

「あ‥これ。確か随分昔にシンシアが失くしたって嘆いてた、彼女の宝物だよ。」

「なかなか凝った金細工ですね。この紋様、どこかで見た気がするのですが‥‥」

「え‥本当? シンシア、これ失くした後すっごく哀しそうだったんだ。本当に大事にし

 てたんだよ。大切なお護りなんだって‥。あの時はオレも一緒になって随分探したんだ

 けど…今になって見つかるなんてね‥。」

「きっと‥ソロに持っていて欲しいと思ったのではないのですか?」

「…そう‥かな?」

「お護りだったのでしょう? だから、今見つかったのではないですか?

あなたに持っていて欲しいから。」

「‥‥うん。そうだね…。」

ソロは大切そうにそれを握り締めると、また小さく涙を落とした。

「クリフト。ここのコト、誰にも言わないでね? それから‥今日のコトも…」

あんまり泣いてばかり居た自分を恥じ入りながら、ソロがそうお願いした。

「ええ。…そろそろ戻りましょうか? 皆さんが目を覚まされる頃だと思いますよ?」

「うん…。クリフト‥‥本当に、ありがとう‥」

ソロは小さく微笑うと、移動呪文を唱えた。



ふわりと起こった風が止むと、辺りは再び静寂に包まれる。

緑の中へ訪れた来訪者を優しく送り出すように、ほのかな風が懐かしい薫りを漂わせて

いた―――――




2004/6/17










あとがき

本当はピサ勇第11弾になるはずの話だったんですが。
なんとなくキリよくなったので、分けるコトにしちゃいました。
方向性がまったく違くなると思われるので(^^;

イムルの夢は、どの勇者にも「ある転機」となるイベントですが。
ソロには別の意味でもショックが大きかったようですね・・・。
この後ぴー様に会った時、どんな反応返すのか、私にも判りません☆

クリフトとの絡みが多いですけど。
元々シンシアに、なんだかんだと甘やかされてきたせいか。
年上の人に甘えてしまう部分が、彼には多分に見受けられます(^^
(・・・まあ。緋龍もそうだったけど☆)

クリフトは、なんだか危うい彼がほおっておけない様子ですが。
今の所、職業意識の方が強いのかなあ・・・と。
ま、もっとも。このクリフトの場合。自分が気に入らない相手には、そこまで
親切にしたりしないんでしょうけどね(^^;







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