「うさみみの刑‥?」

きょんと目を丸くさせたソロが、首を傾げた。



ソロの故郷。ぽつんと佇む一軒家の居間。

応接セットにソロとクリフトが並んで腰掛け、その対面にはピサロの従者アドンが膝を突き

合わせていた。

なにやら密談の真っ最中…?



「はい、そうです。‥とある世界で、退屈凌ぎに悪神の手助けをした青年がいたそうで。

 その青年、様々な才に恵まれ、容姿端麗、その上財産家の生まれ‥という事で。執着す 

る事を知らず、退屈さを持て余していたんだとか。そんな時に出会ったのが、悪神で。

退屈さを払う戯れ事として、協力者になったらしいのです…」

「退屈さを払うため? 悪神に手を貸した?」

流れるように語るクリフトに、呆れた様子のソロが、あんぐり口を開いた。

「ええ、そうらしいです。」

「うわあ‥信じらんない。迷惑な奴〜〜。」

「まあ‥そうですね。でも‥容姿端麗、他者を寄せ付けぬ才能。極め付けは他人に関心が

 向かずに無愛想。‥どなたか思い出しませんか?」

「‥ピサロ。」

間髪を入れずに、ソロが返す。

向かい席に座る彼の従者も、つい頷いてしまった。

「‥で。その青年はどうなったの?」

ソロが話の続きを促した。

「はい。悪神が勇者に倒された後、その青年にも罰が下されました。」

「だよねえ‥。悪いコトしたんだもの。」

腕を組んだソロが、うんうん頷く。

「その時執行された刑が、先程のうさみみの刑‥だったとか。」

ず‥とテーブル上の風呂敷包みを、クリフトが中央へ滑らせた。

「うさみみの刑って、何?」

基本的な部分へと、ソロは関心を移した。

「はい。これが発動すると、強制的に正義の味方をする羽目へ追い込まれるのだとか。」

「強制的な正義の味方‥?」

「ええ、そうです。その青年も否応無しに正義の味方として、困っている人々の役に立っ

 たそうですよ。罪の償いとしてね。」

「償い‥かあ。困っている人をたくさん助けたら‥そしたら‥‥‥」

ポツンとこぼしたソロが、緑地にスライム柄をした、緊張感のかけらもない風呂敷包みに

目を移した。

そこでやっと得心いったとばかりに、アドンが口を開く。

「成る程。これを陛下に‥と、竜の神が貴様に言付けた訳か。」

「え‥ピサロに? 本当なの、クリフト?」

「ええ、そうですよ。そうしたら、ソロだって踏ん切りが着くでしょう?」

クリフトがそっと彼の翠髪に手を入れた。

「‥ここはとても良い所ですが。独りで暮らすには寂しすぎます。」

「でも‥さ…町では、暮らせないし‥」

優しく諭すような響きの声に、ソロが俯いた。

背に発現した翼は、服の下に隠れているし、短い間であれば視認出来ないようにも出来る。

けれど、常にそれを気遣っての生活など困難で。単独で町へ向かう事も、今ではほとんど

なくなってしまった。

「ですから‥時期が来たのだと、思うのですよ?

 ソロだって、本当は‥望んでいたのでしょう?」

「天界に借りを作るのは癪だが。この話、私も悪くないと思うぞ。」

深く嘆息したアドンが、腕を組み賛同を示した。

「アドン…」

「ソロさんが亡くなった村人へ抱く自責の念が払えるくらい、陛下が償いとして、善行を

 行えば、ここへ縛り付けられる事もなくなるでしょう?」

「困ってる人の助けとなって、たくさんの感謝が彼へ注がれたら、この地で眠る人々も安

 心して、ソロを任せられると思って下さるのではありませんか?」

「そう‥かなあ…?」

両者の息の合った説得に、心動くソロだが。

「でも‥さ。ピサロが本当に、正義の味方なんて‥するかなあ?」

強制的‥と言われても。それでも難しそうだと、ソロが呟く。

「大丈夫です。‥そうそう、その例の青年がどのような様子だったか、ご覧になります?」

「え‥見られるの? そのうさみみの刑‥ってやつ?」

にっこり請け負うクリフトに、ソロが目を開いた。

「ええ。この記憶の水晶に、少しですが映像が残されてました。」

そう言って、クリフトがごそごそとカバンから水晶球を取り出す。両手の平に乗る大きさを

した水晶は、一緒に取り出した台座にちょこんと乗せられ、テーブル上に置かれた。

クリフトが手を翳し、呪文を唱える。すると‥淡い光を発した水晶が、内部に何かを映し始めた。

「あ‥なにか出てきたね。」

ゆっくり像が結ばれてゆく様子を、ソロとアドンが身を乗り出して、興味津々覗う。

「…これが、その退屈してたって青年?」

無愛想に結んだ口が、せっかくの美形を冷たい面差しに見せる。切れ上がった眼差しも、他人を

寄せ付けないような鋭さを孕んで、高慢な印象を与えてくる。

――― 一言でいって、偉そうだ。

玉座に座るゾウのぬいぐるみ(にしか見えない!)から、青年が風呂敷包みを渡された。

その紋様は、目の前のモノと違ったが、一抱え程の大きさ‥という点は一緒らしい。



場面が替わって、ピンクのうさぎ(これもぬいぐるみ?)が登場する。

「これは‥?」

「ああ‥そのうさぎが、どうやらその世界を救ったという勇者だそうです。」

「ええっ!? こんな小さいのに? 力だってなさそうだし‥すごい魔法使うとか‥?」

ソロはもちろん、アドンも奇妙な顔を浮かべ、クリフトを窺った。

「いえいえ。魔法‥のようなものは使うみたいですが。彼女の武器は‥その人畜無害にし

 て愛くるしい、その存在そのもの‥らしいです。必殺はパートナーへの『お願いv』

だったとか。‥ほら、出ますよ?」

そう説明してる間に、映像のぬいぐるみが手を合わせ、何やら呟き、小首を傾げた。

すると、魔物(?)と戦っていた少女が頬を赤らめ、途端に劣勢を盛り返してゆく。

「あ‥ホントだ。効果あるんだ…」

それでも、少女がピンチを迎えてしまうと、切り替わり映った場面―――風呂敷包みが

アップで映る。それが閃光を発し、光が解けると、長身のうさみみ姿が現れた。

ピンク色の長い耳。白いスーツにピンクと黒の縞が入った提灯ブルマー。ピンクの手袋、

ロングブーツもやっぱりピンク。裏地が黒のピンクのマントをはためかせ、お尻にふさふさ

真ん丸尻尾が揺れる―――

白いマスクで覆われた口元。大きな黄色いアイマスク。所々に可愛いお花をあしらった、

その姿の主は‥‥‥

ソロとアドンが呆気に取られた様子で、水晶を見つめる。

「これが‥さっきの人‥なの?」

「ええ、そうです。見てて下さい‥」

『‥聴こえる聴こえる、愛に悩む人々の叫びが。悪に苦しむ人々の嘆きが…。だって、

 うさぎの耳は長いんだもん。愛と正義の使者‥うさみみ仮面、参上‥‥‥』

突然入った音声は、酷くやる気のない口上を述べる低い美声だった。




「うわあ…。全然やる気ないじゃん。」

「ですねえ‥」

ソロとアドンが口々にこぼす。クリフトも苦く微笑んだ。

やる気はまるで感じられないうさみみ仮面だが。その実力は確からしい。

そして‥必殺技が炸裂した。

―――イケメンビーム!!

これもしっかり音声付きだ。

徐に外したアイマスクから出る光線に、みんなメロメロいちころだった☆

「すごいすごい!」

ソロがその戦いぶりにすっかり興奮したようで、やんやと手を叩いた。

その後の音声はなかったが、ぬいぐるみうさぎと共に戦う姿が幾つか映し出されて。

ソロはワクワクドキドキ様子を見守っていた。

「はあ‥面白かった!」

水晶が沈黙すると、ソロがにこにこ顔のまま、興奮の余り浮かしていた腰を下ろした。

「うさみみ仮面、かっこよかったねえ‥!」

最初の趣旨から若干外れてしまったソロがうっとり話す。

「‥えっと。うさみみの刑‥というものが、大体お分かりになったでしょうか、ソロ?」

「うん、分かった! 正義の味方になるんでしょう? ピサロも正義の味方になって、困っ

 ている人たくさん助けてくれるんだ! すごくいいかもw」

「…まあ。格好良いかはともかく。そうですね‥本人の意向無視して、ぬいぐるみに顎で

 使われてしまってる姿は、少々哀れを誘いましたかねえ…」

青年の姿をピサロに置き換えて、アドンが忍び笑った。十分過ぎる程の嫌がらせだろう、

彼からしたら。